第11話 現世でも大騒ぎ
健星と張り合うためという口実のもと、鈴音は翌日学校へ向かうべく、一度自分の部屋に戻った。
たった半日冥界にいただけなのに、自分の部屋がとても懐かしい。
「お風呂に入って学校に行く。テスト勉強がほとんど出来ていないのが問題だけど、何とかするしかないか」
自らに言い聞かせ、着替えを持って自分の部屋を出る。部屋は二階にあってお風呂は一階。とんとんと階段を降りて行くと、父の泰章がリビングから顔を出した。
「戻ったのか」
「う、うん」
「そうか」
泰章は言葉少なく頷くと、またリビングに引っ込んでしまう。いくら友達の家にいると嘘のメールをしていたとはいえ、この反応は何だかおかしい。どうしたのだろうか。でも、まずはお風呂。廊下を進んで脱衣所に向かう。
「はあ。シャワーしか無理ね」
鈴音がそう言って制服を脱ぎ始める。
「泰章様はすでに鈴音様が冥界に行かれたことに気づかれているんですよ」
するとひょこっとユキが現われた。ワイシャツのボタンを半分ほど外していた鈴音は、ぎゃあああと叫んでしまう。
「も、申し訳ありませぬ」
「鈴音、どうした!」
平伏する狐姿のユキと、慌てて飛んできた泰章に挟まれ、鈴音は顔が真っ赤だ。
「ふ、二人とも出て行け~!」
鈴音はユキを掴むと泰章に向けて放り投げ、ばたんっと脱衣所のドアを閉めていたのだった。
「全くもう、結局はお父さんに全部事情が話せたからよかったけど、何なのよ。というか、女の子がお風呂に入ろうとしているのに、入って来ちゃ駄目でしょ」
「すみませぬ。部屋に出ようと思ったのですが、鈴音様がすでに移動されておりましたので」
「はあ」
朝から一騒動あった後、鈴音は肩に狐のユキを乗せて学校に向かう。ユキいわく、普通の人には姿が見えないから大丈夫だというが、何だか動物大好きみたいになっているなと、その状態にもがっくりしてしまう。昔はアニメ映画を見て動物を肩に乗せてみたいと思ったものだが、実際にやると何だか間抜けだった。
「それにしても、本当だったなんて」
あの後、泰章はユキから総ての事情を聞いたらしい。そして風呂上がりの鈴音に
「嘘を吐いてすまなかった」
と謝ってきた。それは母親が九尾狐だと認めるということで、鈴音は息苦しくなったのを覚えている。
「い、いいの」
そこから言葉少なに朝食を終え、学校に向かっているのだが、はあ、すでに疲れる。
「ん?」
だが、通学路の前方が騒がしいことに気づき、鈴音はどうしたんだろうと首を傾げる。まだまだ住宅街が続く道の途中だというのに、そこを塞ぐように人だかりが出来ていた。
「どいてどいて。緊急車両が通れないでしょ」
「パトカーが来たぞ」
わいわいがやがやと聞こえてくる声は、状況が緊迫したものだと伝えてくる。そしてサイレンが聞こえ、パトカーや救急車がさらに道を塞ぎ始める。
「な、何なの?」
「殺人事件、それも妖しの絡む事件のようです」
「え?」
ユキの言葉にどういうことと前方に目を向けていたら、覆面パトカーの一つから見知っている顔が出てきた。
「げっ」
「あん? ああ、混血姫か」
見知った顔、スーツ姿の健星もこちらに気づき、面倒だなと舌打ちしてくれた。って、あの人、現世では刑事なの。本当に色々とぶっ飛んでいる人だわ。
「警部補。こちらです」
「ああ。おい、狐の娘。ともかくここを離れろ。捜査の邪魔だ」
「ぐっ」
色々と聞きたいけれども、相手は刑事、しかも警部補なんて大層なご身分のようなので反論できなかった。制服の警官に案内される健星の背中を見送ると、鈴音とユキは何なんだと腹を立てつつ、高校まで大回りする羽目になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます