第10話 狐は美意識が高い

「右近です」

 そう名乗ったのは女房装束を纏った女性。

「左近です」

 そう名乗ったのは狩衣姿の男性。

「よ、よろしく」

 しかし、そっくりな顔と名前に鈴音は困惑だ。用意された懐石料理ばりの美味しい和食を食べつつ困惑。

「この二人は双子でございまして、今回、鈴音様の教育係にと母上様から指名された者たちですよ」

 そんな二人を、狐姿のユキがえっへんと紹介する。まるで我が事のように誇らしげだ。

「ユキ、主はどうして狐のままなのだ?」

 が、ユキの姿が不自然だと左近が顔を顰める。それにユキは仕方ないのですと口を尖らせた。

「あ、あの、私がお願いしたの。ユキってその、イケメンで」

 ぼそっと呟いたイケメンという単語だったが、三人には聞き取れてしまったらしい。ユキが困惑してのたうち回り、右近は大笑い。左近は苦り切った顔をしていた。

「ま、まあ、大分慣れてきたから、人間姿でもいいよ。で、でも、近くにいる時は狐の方がいいかなあ」

 鈴音はバレてしまったものは仕方ないと、開き直り半分そう付け加えた。すると、ユキはまだまだ悶えている。

「ああ、この光栄をどう表現すればいいのでしょうか。紅葉様の取り計らいに感謝すべきでしょうか」

「うるせえよ、お仕え狐。鈴音様、こんなバカの見た目に騙されてはいけません。というより、仮にも王になられる方。容姿に惑わされてはなりませぬ」

 左近が見ていられないとばかりに注意。が、その左近だってなかなか顔が整っている。なんなの、冥界って顔面偏差値高い人しかいないわけ。そう聞きたくなる。

「狐は美意識が高いのですよ」

 そんな疑問が顔に出ていたようで、右近が柔らかく微笑んで教えてくれる。なるほど、美形に拘りがあるということか。

「ええ。変化が上手い者ほど、人間から見ても美しい姿になります。まあ、ユキの場合は元々の霊力が高いですからね。見惚れてしまうのも仕方ありませぬ」

 ふふっと笑う右近は妖艶な美女だ。同性の鈴音でさえドキッとしてしまう。

「ええっと、右近さんと左近さんが色々と教えてくれるってこと?」

 お茶を飲んで鈴音は話を戻す。食べながらでいいと言われたが、一人だけ食事中というのはなかなか難しいものだ。とはいえ、食欲が勝っているので口はもぐもぐと動いてしまうが。

「左様でございます。王に必要な礼儀作法、教養、その他は我々が。ですので、現世に戻られなくても大丈夫ですぞ」

 左近が早速、明日の学校行きに苦言を呈してくる。しかし、鈴音の頭にあるのは健星だ。

「学力がないってバレると、あの男に馬鹿にされる気がするのよね。直感だけど、あの人って大学出てる感じがする」

 美形な顔とスーツに拳銃でびっくりさせられたが、全体的に理知的な印象があった。貶し方も何だかこなれているというか。鈴音が指摘すると、流石ですと二人と一匹が頷いた。

「確かに健星は見聞を広げるため、現世でも活動しております。その際に、大学も出ております。確か東大とかいう」

「と、東大!?」

 偏差値トップの大学を出ているだって。鈴音はますます健星のことが嫌いになりそうだった。なんなの、文武両道、眉目秀麗って完璧すぎない。それで冥界生まれの人間。ああっ、あの人が王様ってことに納得しそう。ケンカっ早いところだけ問題なだけで。

「大丈夫です。我らが姫様が負けるはずがありません」

「そうでございますよ。十分に戦えますわ」

「頭脳なんてどうにでもなります」

 二人と一匹が頑張って励ましてくれるが、鈴音は絶対に高校は卒業しなきゃいけなし、大学もいいところに行かなきゃ張り合えないわよと溜め息だった。

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