第13話 言い合い

 その反応さえ予測していたのか、健星はますます不機嫌な顔になる。

「私、何も解りません。妖怪のことも、冥界のことも。でも、自分のせいで殺人事件まで起こっているのに、黙っているなんて無理です」

 鈴音はそんな健星に向けて、間違っていますかと問うた。すると、間違っているとあっさり言われてしまう。

「なっ」

「解ってないな。お前が動けば動くほど、妖怪たちの勢力は二分され、小競り合いが頻発することになる。俺だけならば冥界にいる間に暗殺しようとしてくるだけで済む問題を、貴様は引っ掻き回してでかくしたいのか」

「っつ」

 淡々と言われた言葉に、鈴音は反論する言葉を持っていなかった。でも、だからってこれでいいのか。

「鈴音様が立たれたから、反対勢力は半分で済んでいるんです」

 しかし、代わりにユキが口を開いた。ぽんっと後部座席に跳ねていくと、そこで人形に戻る。狐姿のままでは訴えにくいと思ったようだ。

「あなたは押さえつけることばかりです。そんな執政に誰が納得出来るんですか。妖怪の全員があなたに反対しています。もちろん、凶暴ではない我々のような一般妖怪を守るために動いてくれているのは存じ上げております。しかし、我々はあなたを王とは認められません」

 きっぱりと告げるユキに、健星は不快そうに鼻息を吐き出す。そして次にでかでかと溜め息を吐いた。

「お前たちのためにやっているんじゃない。秩序を守るためにやっているんだ。それに、認めてもらわなくても認めさせる。だが、このままこの娘を引き下がらせることはないってことだな」

「はい」

「ならばこちらも利用させてもらうぞ。妖怪どもの現状も知らずに寝言ばかり並べ立てられても困るからな」

 健星はそう言うと、いきなりハンドルを大きく切った。不意打ちを食らったユキが後部座席を転がり、ごちんっと頭をぶつける。

「なっ、何をするんですか」

「うるさい。人形ひとがたのままでいるならばシートベルトをしろ。そこまで言うのならば、捜査に協力してもらおう。お前を食らうことが目的の鬼どもだ。お前がいれば姿を現す」

「それは鈴音様を囮にするってことですか。許せません」

「だったら大人しく引っ込んでいるんだな。これ以上事件が起こられても困るんだ。怪異事件なんて、現代では受け入れて貰えない。工作するこっちの身にもなれ。なんだったら、俺がこの娘を監禁してもいいんだぞ」

「なっ」

「刑事の発言とは思えないわ」

 それまで二人の言い合いに圧倒されていた鈴音も、思わずぼそっと呟いてしまう。すると健星に睨まれた。

「妖怪を御することの難しさを実地で知れ。いいな」

 だが、文句は言わずにそう命令してくる。むっとしたものの、王様になるということは、妖怪が何をしているのか知らなくては駄目だ。それは理解している。

「言われなくても」

「よし。鬼は人間一匹を中途半端に食らっただけだ。すぐに現われる。おびき出すぞ」

 健星はそう言うと、どう考えても悪巧みしているとしか思えない顔で笑うのだった。

 

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