第3話 王位に立候補してください
「ま、ともかく、王位交代と相成ったわけでございます」
鈴音の呆れた顔を、ユキはさらっと受け流した。この子、意外とずる賢いんですけど。そこは狐のイメージどおりということか。
「王位交代ねえ。で、次の王様は?」
「はい。それが月読命様には御子がおらず、今回の代替わりは相応しい者を選挙で選ぼうとなりまして」
「妖怪なのに民主的ね」
王位が選挙で決まる。なんだか大統領を決めるみたいと鈴音は呑気に思う。が、ユキはずずっとそこで顔を寄せてきた。
「その選挙に、おひいさま、つまり、鈴音様に出て頂きたいのでございます」
「はあ!?」
ついに喋る狐が現われた理由がはっきりしたわけだが、何だって。鈴音が妖怪の王様の選挙に出るだと。何がどうなればそういう展開になるというのか。そもそも鈴音は人間なんですけど。
「おひいさまは、正確には人間ではございません。
「は、半妖。あの漫画とか小説とかでよく出てくる」
「それは知りませんが、人間の男性と九尾狐の間にお生まれになったのでございます」
「そんなバカな」
確かにうちにお母さんはいない。鈴音が小さい頃、病気で死んでしまったのだと聞いている。でも、だからって妖怪のはずがない。そもそもあの堅物の父が九尾狐と結婚しただなんて。全く想像できない上にあり得ないとしか言えない。
「バカなことではございません。これが大事なのです。今、この次期王の選挙に立候補しているのは、冥界生まれながらも人間の血を引く男ただ一人なのでございます。ここは何としても、大妖怪の血を引くおひいさまに立って頂き、人間の支配からお救いして頂きたいのです」
ユキはバンバンと前足で布団を叩く。しかし、鈴音は今、大混乱中だ。
「えっ、ちょっと待って。自分の母親が九尾狐かもしれないって事実も受け入れがたいんだけど、立候補している人は人間なの?」
「はい。
「はあ」
もう、何が何だか。誰か嘘だと言って。この喋る狐ごと、嘘だと言ってくれ。
「ほう。本当に九尾の子がおったのか」
「これはこれは、美味そうでないかい」
「え?」
しかし、急に耳に聞こえてきた不気味な声に、鈴音はびっくりする。そして急に部屋の温度が下がったような気がした。
「くっ、今回の選挙、実はもう一つ面倒なことがございまして」
ユキが毛を逆立て辺りを警戒し始める。一体何なの。鈴音は布団を引き寄せ、ぎゅっと掴む。
「め、面倒」
「はい。王座そのものを廃し、人間と馴れ合うことを止めようと企む一派がございます。今いるのはそいつらです」
「なっ」
鈴音が驚きの声を上げた時、部屋の中にぬらっと黒い影が現われた。ついでに電気がばちんと大きな音を立てて消えてしまう。
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