第2話 冥府の大騒動

 制服のまま寝たせいか、身体を起こした時には身体がバキバキだった。

「肩が痛いなあ。テストは明日もあるのに」

 鈴音がそうぼやいて起き上がると

「肩をお揉みしましょうか」

 ユキがひょっこりと顔を覗かせた。

「ぎゃあああ。幻覚があっ!?」

「幻覚ではございません。先ほどは違うとお認めくださったではありませんか」

 ユキは器用に前足で目頭を押え、泣き真似をしてくる。そんな狐、現実の物と認めたくないんですけど。

「ったく、何なの? 私は忙しいの。明日もテストがあるの」

 鈴音は追い払おうとユキを捕まえた。すると、もふもふの心地よい手触りがする。ついでに温い。

「い、生きてる」

「当然でございましょう。あやかしとはいえこの世に存在するもの。血が通っております」

 ユキは撫でられて心地よさそうに目を細めた。その姿だけならば普通の動物なのになあと鈴音は思い、ようやく気分が落ち着いた。

「仕方ないわね。喋る狐がいることを現実として受け入れてあげる」

「ありがとうございます」

「で、何か用?」

 いきなり姫とか呼ばれても困るんですけどと、鈴音はユキをベッドに下ろして訊く。するとユキはやっと訊いてくださいましたなとほっとしたようだ。

「はい。実はこの度、現世と妖怪の調停を務める冥府めいふの王が引退なさることになりまして」

「ごめん。何一つ理解出来ないんだけど」

 ユキの説明を一度ストップさせ、鈴音ははっきりとそう言った。するとユキは目を大きく見開く。

「め、冥府をご存じない?」

「えっと、あの世のことよね。でも、妖怪が絡んでくる意味が解んない」

「ははあ。大きな括りでしかご存じないのですな。解りました」

「本当に解ってる?」

 鈴音はすでに不安しか感じていなかった。一体どうしてこの狐が自分のところに現われたのか。理解出来るだろうか。

「ええっと、あの世というのは大きく三つに分かれております。一つは天界、天国ですね。もう一つが地獄、これを冥府と指す場合がありますが、今回は別物とご理解ください。そしてもう一つが問題となっている冥府、いわゆる冥界ですね。これは人以外のモノたちの居場所でございます」

「へえ」

 意外にもユキは説明上手だった。つまり、知っている冥府とはちょっとニュアンスが違うということか。そして今、人以外のモノ、つまり妖怪が関係する冥府の王様が引退しようとしていると。

「はい。今の王様は月読命つきよみのみこと様と仰られて、二代目の王様でございます。かれこれ二千年治めておられましたが、この度、飽きたと仰られ、引退と相成りました」

「待って。二千年も治めておいて、今更飽きたの?」

「はい。困ったものですが、飽きてしまわれたそうです。まあ、昨今、トラブルが増えたことが本来の要因だと思います。そろそろ治世を変えるタイミングだと考えたのだと、傍に仕える重臣たちは思っておりますな」

「好意的に解釈してあげたのね」

 飽きたと言ったんでしょうにと、鈴音は呆れてしまう。

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