第4話 びっくり美少年

 電気が消えただけだというのに、辺りが真っ暗になってしまった。その現象に鈴音は驚き、同時に動きが取れない。

「ゆ、ユキ!」

 この状況で頼りになるのは、あの喋る狐だけだ。鈴音が大きな声で呼ぶと

「しっ」

 誰かの手で口を塞がれた。い、一体誰。そして何事。

「お静かに。ここは奴らの術中でございます」

 しかし、聞こえてきたのはユキの声だ。ということは、この手もユキ。でも間違いなく、顔に当たる手は人間のものだ。それもゴツゴツとした男性の。鈴音は思わず顔を赤くしてしまう。

「おのれ、狐め。忌々しい」

「どこに隠しおった」

「この中におるのは間違いないというのに」

 だが、呑気にユキのことを考えている場合ではなかった。不気味な声が聞こえてきて、鈴音は身体を強張らせる。すると、むわっと臭い生ゴミのような臭いが鼻を掠めた。もう、総てが怖い。

「鈴音様。御髪おぐしを一本頂戴します」

「え?」

 ところが、そんな状況に似つかわないユキの声がする。おぐしって何と思う間もなく、ぷちっと毛が一本抜かれてしまった。

「行け」

 ふうっと後ろにいるユキが息を吹きかけるのを感じる。と思ったら、目の前に自分そっくりな女の子が現われた。顔がないものの、身長もセミロングの髪も制服も同じだ。

「あそこだ」

「追え」

 怖い声たちがその女の子に襲いかかろうとする。しかし、女の子は一目散にどこかに逃げていく。すると、ぱっと目の前が開けた。元の自分の部屋だ。

「あっ」

「大丈夫でございますか」

 振り返ると、後ろにはやはり男性。それも烏帽子を被った狩衣姿の少年がいた。年齢は鈴音と同じ十七才くらいだろうか。可愛らしいと言いたくなる顔立ちで、至近距離にいると顔が赤くなる。なにこの素敵な人。本当にユキなの。

「え、ええっと」

「あっ、これは失礼を。術を使うために咄嗟に人間の姿になってしまいました」

 ユキは申し訳なさそうに言うが、その顔も可愛いんですけど。なにこれ、色々と反則じゃない。

「あの、おひいさま」

「だ、大丈夫。あ、あの、心臓に悪いから、狐に戻ってもらえると」

「ああ、これは失礼をいたしました。すぐに」

 ぽんっという音とともに、もとのもふもふの白い狐が現われる。ほっとする反面、ちょっと残念な気持ちになってしまうが、至近距離であの顔はずっと見ていられない。まだ心臓がどくどくと早い。

「おひいさま、大丈夫ですか」

「だ、大丈夫。あの、鈴音で統一して貰えると」

「ああ、申し訳ありませぬ。ずっとお迎えに上がれる日を待ちわび、おひいさまに会いたいと思っておりましたので、つい」

 狐姿でもそんなこと言われるとときめいちゃうんですけど。いやいや、しかし、ときめいている場合ではない。色々と問いただすことがある。

「それで、次の王様の話よね」

「はい。ああ、ここは危険でございますので、一度お屋敷に。鈴音様がいつ戻られてもよいよう、冥界に整えてございます」

「で、でも」

 いきなり。お父さんはどうするの。それに学校は。鈴音は戸惑ってしまう。

「お父上には後で我らが説明をいたします。ともかくは身の安全が第一です。奴ら、今回現われたのは人前に簡単に姿を現さぬ鬼どもでしたが、もっと危険な妖怪も数多くおります。どうか、お屋敷に」

 しかし、先ほどの恐怖体験があるせいで、鈴音も戸惑っている場合ではないと頷くしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る