第11話星と月

 心君は頷くと、月を見ました。まるで、自分の星を最後にしっかり目に留めようとしているようでした。

 私は心君の糸に触れました。本来触れることの出来ないはずの物なのですが、柔らかい感触が手に伝わってきました。私はそれを心君に手渡します。どうやら、神様でも自分の糸を見ることは出来ないようです。私の、巫女の役目は神様に糸を持たせることだったのです。

 心君が自分の糸に触れると、体がふわりと浮きました。まるで、重力が無いように、波に揺られているように。

 これでもう、お別れです。

「星奈」

 糸を持っている方とは逆の手を差し出され、私は意味も分からずその手を取りました。

 手を引かれ、額になにやら柔らかく、温かい感触がしました。

「え?」

「俺はいつでも星奈のことを見守ってるから」

 私が戸惑っている間に、彼は月へと帰っていってしまいました。彼はさよならとは言いませんでした。

「さよなら。心君」


 次の日学校へ行くと誰も心君のことを覚えていませんでした。彼は流れ星と同じようなものだったのでしょうか。それでも、誰も心君のことを覚えていないというのは悲しいものです。

 夜に空を見上げれば彼の星が私たちを静かに見守っているのに。

「私とあなたの距離は初めからこんなにも近かったんですね」

 今日も、私の星は月の近くで輝いています。魂がこれだけ近くにあったのであれば、引かれ合うのも無理はないかもしれません。

 あの時、心君の糸に触れた時、私は星神という苗字の意味を垣間見たような気がしました。私は糸に初めて触れたはずなのに、どこか懐かしく感じました。懐かしく、そして切ない。絵巻物に書かれていることも、これで説明が付きます。きっと私の何代も何代も前の方なのでしょうが、私はその人を羨ましく思います。

 私には届かなくて、彼女には届いた。

 これもおみくじの結果でしょうか。

 私は自分の前で手を組みました。ちょうどお願いをする時のように。彼の星を真っ直ぐに見て。

「私のこころはあなたの側にいます。私の命が尽きるその時まで」

 なんて言うのは、少し大袈裟でしょうか。少なくとも、私は彼以外の人と結婚するのでしょうから。この力を途絶えさせないためにも。次にまた神様が地上に降りてきても良いように。なんだかやるせない話ですね。それでも私は……。

 私もいつか、みんなのように心君のことを忘れてしまうのでしょうか。それでも、私はこの気持ちを忘れません。これからも、星を眺めます。たとえこの力を失ったとしても。星の降る日は、必ずあなたのことを思い出すでしょう。だから、

「いつまでも、見守っていてくださいね」

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星の輝き 山田維澄 @yamada92613

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