第10話星と別れ

「やっぱりここは他の場所より星が綺麗に見えるね」

 私たちは丘の上に並んで立ちました。この丘が切り拓かれないのは子供たちがよく遊ぶから、だけでは無いのでしょう。

 空ではすでに星々が瞬いていますが、まだ流星群は見えません。

「星になにかお願いする?」

「内緒です。それに、すぐに分かりますよ」

「え?」

 心君が聞き返すのと同時くらいに一つ星が流れました。

「あっ! 来ましたよ」

 一つ二つと流れて行く星は、瞬いて次第に消えていきます。

 私は手を合わせ星に願います。

 お願いです。どうか、私の願いを叶えてください。

「時間だ」

 心君は呟いて私の前に立ちました。

「星奈、俺の糸見えてる?」

 意外な言葉に、私は目を見開きました。

「いつから?」

 神様は記憶を忘れているはずなのに、どうして糸のことを知っているのでしょうか。心君は少し申し訳なさそうに笑いました。

「結構前から。星奈と一緒にいたら思い出した」

「じゃあ、記憶のために私と……?」

 記憶のために私と一緒にいたのか、とストレートに聞くのは躊躇われました。答えてほしいけど、聞きたくありません。

「それは星奈と一緒にいたかったから。あと、星奈の願いを叶えてあげるため」

「私の、お願い?」

 残念ながら、まったく思い浮かびません。今叶ってほしい願いはただ一つなのですから。

「海、行きたいって言ってたじゃん」

 それは、心君が転校してきて間もない頃に話した何気無い会話です。確かに、言いました。でも、まさか覚えてないるなんて。

「黙ってたのはごめん。でも、俺は星奈にもっといろんな景色を見てほしくて……」

「なら、もっといろんな景色を見せてくださいよ! もっと、いろんなところへ連れていってくださいよ。

 お別れなんて嫌です! 私のお願いは、心君とずっといることです。私は、あなたのことが、好きなんです」

 つい、心君の言葉を遮ってしまいました。

 心君のことを直視することが出来なくて、思わず下を向いてしまいます。

「俺も、星奈のこと好きだよ。でも、ごめん。俺は帰らなきゃいけないんだ。だから、星奈。俺の帰る道を示して」

 優しい声が、頭の上に降ってきます。

 顔を上げると優しい笑顔の心君と目が合いました。心君には、今まで見えなかったキラキラ輝く糸があります。しかし、目を凝らして見ようとする程視界が滲んで見えなくなっていきます。糸も、星も、何もかも。

「星奈、大丈夫だよ」

 目元を拭われて、ボヤけていた視界がはっきりしました。心君の顔が良く見えます。

「見つけました」

 心君の糸は私の星のすぐ側、月に繋がっていました。

「あなたは、月の神様だったんですね」

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