第8話星とこれから
それから一週間、何事もなく過ぎました。絵巻物のことも何も分からず過ぎてしまいました。進展があったと言えば、心君のことぐらいでしょうか。心君は本当に一週間程でクラスの中心になってしまいました。それも神様だからこそ為せる業なのでしょうか。
心君は相変わらずことあるごとに私に話しかけてきます。そのせいか、私まで目立ってしまいます。時には付き合っているのかと疑われたこともありました。
でも心君が話しかけてくる度に、母様の言葉が頭をちらつくのです。母様の実体験であるのであろうあの言葉。恐らく父とのことですね。名前も知らない父のこと。
「星奈、大丈夫?」
名前を呼ばれて、私の意識は引っ張り出されました。最近物思いに耽ることが多くて困ります。
覗き込むその瞳はやはり綺麗でした。
「少し父のことを考えていまして」
「前は会わなかったけど、離れて暮らしてるの?」
「……分かりません。それどころか、私は名前すらも知らないのです。母は、父のことについてあまり話したがらないので」
そのせいか、いつしか私も聞かなくなりました。
こんなことはあまり人には言いません。つい言ってしまったのは、心君が気さくで話しやすいからでしょう。それとも神様だからでしょうか。
心君の手が、私の頭に優しく触れました。華奢だとばかり思っていたのに、意外と大きな手です。心君の温もりが手から伝わってきて、落ち着くような、少しドキドキするようななんだかとっても不思議です。
「何ですか?」
なおも頭を撫でられ続けながら、私は問いました。子供扱いされているのでしょうか。
「ごめん。星奈が自分のこと話してくれて、嬉しくてつい」
頭を撫でていた手が止まり、温もりが離れていきます。心君は少しだけ寂しそうな表情をしていました。
「俺も、両親のこと覚えてないんだ。それどころか、自分自身のことすらよく分かってない。だから、結構不安で。でも、星奈は、星奈といると安心する。そんなのどうでもいいって思えるんだ」
その言葉に、私の頬は急激に熱を帯びました。遠回しに好きだと言われているような気がして、心君のことを直視することが出来ません。心君が両親のことどころか、自分のことすらも分かっていないのは彼が神様であるからでしょう。神様だった頃の記憶を忘れているから。彼が帰ることが出来るかどうかは私にかかっています。心君は、きっと帰ることを望んでいます。それなら、私は彼のために頑張らなければならないのです。
彼が帰れるように、頑張らなければ……。
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