第15話 全てを受け入れるということ
そのあと、先日も泊まった50階のホテルに慎吾が部屋をとってくれて、そのままそこで愛し合った。
車に乗れば、慎吾の家も私の家も会社の近くにあるけど、その少しの間も待てなかった。
慎吾に抱かれたら、罪悪感も良心の呵責もそれに伴う不安も忘れられると思ったけど、なんだか余計にひどくなった気がする。
私はお金が大好きで、それは今も変わらないし、きっとこの先一生変わることはないのに、どうしてこんなに複雑な気持ちになるんだろう。二人入ってもまだまだ余裕のあるお風呂に慎吾と浸かりながら、そっと膝に顔を埋める。
「疲れた?」
私の後ろにいる慎吾の腕が前に回ってきて、その腕に抱きしめられたので、私もその腕に手を添えた。
「ううん、お兄さんの言ったことを考えてたの」
「……ああ、考えなくていいよ」
濡れた髪をよしよしされるのが気持ち良くて、そのまま目をつぶって慎吾にもたれかかる。
「慎吾は聞きたいことがあったら自分で聞くって言ったけど、私に聞きたいことある?」
「ん~……、今は特にないよ」
言葉では特にないとは言ってるけど、妙に間があったのが気になる。
「でも……っ」
何を言えばいいのかわからないけど、とにかく何か言わなくてはと慎吾の方を振り返ると、すぐに慎吾の唇が重なった。
「全部知る必要があるとも思わないし、全部知りたいと思わないんだ」
「そう、なんだ……」
「真由は?」
「私は……、私も、慎吾と同じかも。
全部知らなくてもいい」
そう、全部じゃなくていいの。
慎吾にどんな秘密があったとしても、浮気してたとしても、お金さえあればいい。
このまま行けば一番欲しかったものが手に入るのに、ここで揺れてどうするのよ。
騙すのなら、最後まで騙し通すのが礼儀。
今さら良心の呵責に苛まれて、打ち明けるなんて悪手にも程がある。
慎吾がそのままの私を愛してくれるわけなんてない。それなら、最後まで猫をかぶって騙し通さなきゃ。
「誰だって知られたくないことはあると思う。だからもう兄さんの言ったことは気にしないで。真由が言いたくないなら、何も聞かないから。
今、僕の目の前にいる真由が好きだ。それが全てだよ」
今慎吾の目の前にいる私……か。
結局それは偽物なのよね。当たり前だけど、慎吾が好きなのは本物の私じゃない。
偽物の私を好きになるように仕向けたのは自分なのに、今さら傷ついてどうするのよ。
「うん……、私も慎吾が好き」
顔を近づけてキスをねだると、すぐに唇が重なった。慎吾の手が私の体を撫でる度にお湯が揺れる。
バシャバシャと揺れるお湯と一緒で、私の心も未だに揺れ続けていた。
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