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 午前中はひたすら会議。


「オレがアシュリィの護衛をする。」


 というアシュレイの言葉に、誰も反論はしなかった。

 多分今回、ディードはエリア攻略をしない。私を一直線に狙うはず。


 伝令役にアンドレー君。大将捕獲にデメトリアス、ティモ、アイル。

 エリア攻略にリリー、パリス、カートン君(一応精鋭)。防衛戦にララ、アイル、ミーナだ。



「今回防衛戦はゴーレムよりも人間に任せる。リリーナラリス嬢達は攻略にのみ魔力を注いでくれ。

 俺達は7つ取られる前に、なんとしてもアルバートを捕まえる。防衛の3人は…」


 おお…デメトリアスって、意外と指揮官に向いてる…?とにかく特攻!の私とはえらい違い。

 お昼を挟み、午後は特訓。特に…



「アシュレイ!!ディードにフェイントは効かない、あんたは圧倒的不利だと自覚しろ!」


「く…っ!」


「称号に頼るな!剣という武器がない以上、いい勝負にすらならん!」


 本来アシュレイはメンバーから外してもいいくらい、魔法は不得手だ。それでも魔族に対する耐久、機動力、やる気を考慮してこの結果。

 私がディードだとして魔法を連発、亜種リィの護衛をさせて模擬戦。ふむ…。



「ん~…やっぱり厳しい。」


「はあ、はあ…!なんだよ、オレ…。これじゃ、足手まといじゃねえか…!!」


「…………。」


 当たり前だ、魔法勝負で勝てる訳ない。ディードもそれは分かってるはず。どうして挑発なんて…?

 …考えても仕方ない。休憩したらもっかい行くぞ!!








 そんなこんなで翌日。絶対勝ーつ!!と気合を入れる。

 アルバートと私が大将として、いい勝負しようね!と握手した。


 そして今日もナイトリーの甲高い声が聞こえる。それと…パメラが控えめに手を振ってくれる。私もそれに返し、位置についた。



 うわ…今日のエリアはジャングルだ。廃墟より見通し悪そー…隠れるにはもってこいだけど。

 今回私は不可侵領域スタート。バレバレだろうけど、どうせすぐ捕捉されるなら…少しでも距離を稼ぐ。




〈それでは…開始!!〉



 行くぞ…!!


「『小人の楽園コピー・ミニアシュ』!!」


「「「アッシュー!!!」」」


 大盤振る舞い、30人だ!!気配は私と同じだから、ディードの探知を錯乱させる!

 ミニアシュが四方に散る、私達も行くぞ!




 ざざざざっ!!と走る。ジャングル特有の熱さも生物も無いので、薄暗さと視界の悪さに我慢すれば……っ!!?


「ヤバい、ミニアシュが次々壊されてる!」


「な!?ディーデリックか…!」


 まだ1分経ってないのに、10人消えた…うわっ!!?

 ヒュンヒュンッ!!と植物が、襲って来る!!



「見つけたぞ。」


 ディード…!!彼は猛スピードで私に迫る!!


「『埋め尽くす黄金の雨ゴールドラッシュ』!!」


 霧雨のように細かい刃を無数に飛ばす!ディード相手に手加減無用、現に余裕で防いでるしね!!



「無駄だ。」


「知ってるよ!」


 それでも、少しでも稼げれば…!相手が速すぎて鎖を出す余裕は無い!


「オレが相手だっ!!!」


 彼は私に腕を伸ばしていたが、アシュレイが間に入り距離を取った。今だ…逃げる!!ディードはアシュレイを無視して私を追おうとする。


「させるか…!」


「…………。」


 私は後ろを気にせずひたすら走る!落ち合う場所は決めてある、頼んだぞアシュレイ!



「(ディーデリックはオレを本気で攻撃出来ねえ!なら…!)『煙玉』!!」


「…………ふむ。」



 ボシュウゥ…!と周囲を煙が広がる。私が教えた魔法だ!


 私は元々の素早さ(2670)+強化で走った。ちょっとでも足止め出来れば、追い付かれる事はない!はず!!




 集合場所…中立地帯で気配を殺す。途中アルやリリー達がエリアを確保した、と放送が入るが聞き流す。

 するとアシュレイがキョロキョロしながら姿を現した。



「山。」


「っ!川…ってなんだよこの合言葉…。」


 気にしなさんな。木の上から飛び降り合流成功!



「はあ~…もうずっと気配を消せないのか?」


「そりゃ出来るけど、中級レベルじゃディードには効果無いよ。」


 2人で息を吐いた、瞬間。



「!!!アシュレイ!!」


「おうっ!!」


 上空から光の槍が降って来た!!咄嗟に避けた私達の間に突き刺さり、塵になって消える…。


「…ふむ。反応はまあまあか。」


 早いよディード!!って…。


「アシュレイイイイ!!あんた、位置情報提供してんぞ!!!」


「え、何それ?」


 発信機付いてんだよ肩に!!!ぶん取って返却、ついでに攻撃じゃい!!

 氷の礫を発射しながら走る!向こうは私に触れるだけでいいんだから、全力で逃げる!!


「こっちだアシュリィ!」


 アシュレイと手を取り離脱成功!なんか…今んとこ、本気で追って来ないな…?






「いた、ディーデリック。」


「アルバートか。」


「今すんごい土煙上がってなかった?」


「まあな。そっちは順調か?」


「3つ目確保したよ。」


 ディードはパンパンと服を叩き、再び探知魔法を使う。

 魔族は一々言霊だの詠唱だの不必要、ノーモーションで私を見つけた。

 え、なんで私は言霊使うのかって?……格好いいからさ!!



「4つ反応…ミニアシュが入ってるな。」


「ねえディーデリック。君さ…レイの事、応援してるんじゃないの?」


「?それは…アシュリィについてか?」


 アルは頷く。


「しているぞ。だが…


 、ってのは別問題だろう?」


「え──」



 ディードは音も無く姿を消す。残されたアルは頭を掻き…



「…成る程ね。レイ…ここが正念場かもよ。」






〈パリス、エリア9確保!〉


 うんうん、いい調子…なんて言ってる余裕がねえ!!!またミニアシュがいくつか消えた、残りは13人。

 そのお陰で、ディードが何処にいるのかは大体分かる。というか、一応エリア全体に精度の低いレーダー魔法は使ってんだけど。対象が速すぎて、捕捉が追い付かな…おわっ!!



 遠くから葉っぱが飛んで来る!それらは樹を切り裂き私達に迫る。


「う…!」


 格好つけて言霊使う余裕もない、中級の障壁で防ぐ!段々と、ディードが本気を出してきた…!



「アシュレイ、行ける!?」


「ああ…!!」


 これ以上逃げても埒が明かない!もう…ディードを拘束する!!



「うおおおおっ!!!」


「…………。」


 アシュレイが自身を強化して突っ込む。ディードは避けもせず…


「流石の速さだ。だが…。」


「つあっ!?」


 アシュレイの腕を掴み、捻り上げる…!!おい、貴方は脱落したいのか!?


「いい、から!今のうちに…!」


「あ…!」


 くそ…!だけど、ディードは今足を止めている!『君を繋ぐ鎖』で…!



「きゃあっ!!?」


「アシュリィ!!!」


 うそ、逆に捕まった!!

 ディードはさっきからやってみせてるように、自然を操るのが得意だ。ジャングルは最高のフィールドだろう…蔦や木の根が、私の身体を持ち上げる…!!


 いいや、魔法が使えない訳じゃない!!!私は称号:女神の卵の効果で、魔法の精度が非常に高い。同等の魔法を撃ち合えば、私に軍配が上がる!



 まず植物の主導権を奪おうとしたが…


「悪いが、させない。」


「なん…っ!」


 蔦がパアン!と弾け、私は空中に放り出された。代わりに土がせり上がり、下半身と腕を飲み込む…!



「…っ!離せ、ディーデリック!!」


「阿呆、離す訳ないだろうが。お前も自力で抜け出してみせろ。」


 アシュレイも未だ腕を捻られたまま。あとほんのちょっと力を込めれば、折られるのは必至…させない!!

 だが下手に刺激出来ない…攻撃しても、アシュレイを巻き込んでしまう。どうしよう…!



「(待てよ…?ここで、オレが腕を折っちまえば。ディーデリックは…大怪我をさせたとして退場になるんじゃ?それなら…!)上等だ、そのまましっかり抑えて…あがっ!?」


「今のはいい判断だ。だが…お前には、まだ必要なものがあるだろう?」


「……っ!!」


 まずい、アシュレイが地面に叩き付けられた。彼は自由になったが、立ち上がる一瞬の隙を突いて…


 ディードが私に狙いを定めた。くそ…っ!!



「ど…っせえええええいっ!!!」


 土に魔力を流して爆発させる!!アシュレイには結界張っといたから無事だろう、破片で少しでもダメージ受けろ!だがディードは構わず突進してくる。


「アシュリィ、大人しく捕まれ!」


「やなこったい!!」


 すんでの所で回避成功、このまま逃げる!!



「アシュリィ。お前の魔法は素晴らしい…が。

 残念ながら、決定的に経験が足りない。味方を放置していいのか?」


 は…?後ろを振り向けば。なんで、ディードはアシュレイの首を、絞め……




「や…やめてっっっ!!!!」



 彼は魔族だ、試合とはいえ…敵に容赦はしない!!

 たとえ首を折ろうとも、生きてさえいれば最上級の魔法で癒せる。それこそ後遺症も残さずに。


 だけど…いやだ、アシュレイの苦しむ姿を見たくない!!!




「ハア。私だって流石に…学生のお遊び程度で、友人を殺す訳ないだろうが。」


「え。」


 ディードはあっさり手を離し。

 反射でアシュレイを救出に向かっていた私は、気が付けば彼の腕の中に収まっていた。

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