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〈5年生チーム、ディーデリック=レイン=ウラオノスが敵将アシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノスを確保した!

 この試合、5年生チームの勝利!本年度のテリッカドク、これにて終いだ!!〉




「そんな…くそおっ…!」


 オレは両手を地面に突き歯軋りをする。目の前にいたのに、アシュリィを奪われた…!!



「あー…負けたぁ。ちょっと、もう下ろしてよ。」


「いや…このまま戻るぞ。」


「下ろせっつの。」


 !!ディーデリックはオレに一瞥をくれた後、アシュリィを横抱きにして背を向ける。

 悔しい…悔しい…!!魔法勝負とか関係ねえ、完全に負けた!!


「ちょっと待って、アシュレイが…」


「そっとしといてやれ。」


「?」


 地面を強く握り締める。なんだよ…オレに必要なものって!!剣か?剣さえあれば、オレだって…!!




「……いや。剣があっても…勝てない…。」


 さっきの攻防でそう理解しちまった…。

 両目から涙が溢れる。なんだよ…オレの8年間はなんだったんだ!!?

 魔王陛下はディーデリックよりも強いだろうに…なのに!!!



「く…うぅ…!」


「……ゲームで負けただけにしては、酷い悔しがりようだな。」


 …?蹲っていたら、上から声が落ちてきた。デメトリアス殿下…?なんでミニアシュ頭に乗っけてるんだ?


 彼は呆れたように息を吐き、手を差し伸べてくれた。

 手を取り立ち上がるも、足が動かない…。



「土まみれになっている暇があったら反省会でもするぞ。」


「そんな暇…ありません!!もっと鍛えないと…!」


「……………。」



 オレに何が足りない?レベルか?

 だがレベルは…5を超えると途端に上がりづらくなる。今年に入って、やっと6に上がったくらいだし。人間は…7レベルが限界だなんて、聞くし…!

 アシュリィは現在13レベルだと本人が言っていた。ディーデリックはそれより上と仮定して…どうしろってんだよ!!?やっぱり人間は、魔族に勝てないのか!?



「…全く。アシュレイ、お前は以前…「魔王陛下に勝つ事を、幼い頃自分に誓った」と言っていたな?」


「……はい。」


 もちろん本気だった。でもそれは…子供の戯言だと、今なら分かる…。

 大人になればなる程世間を知って。いかに自分が…無知で無力なのか思い知らされる。




「レイ。お疲れ様。」


「負けちゃったわね。ごめんなさい、こっちも手一杯で手助けに来れなかったわ。」


「アル…リリー。」


 なんで集合すんだよ。こんな…情けないツラ見せたくねえのに。


「言ってる場合か。早く出ないとフィールドを閉じれないだろう。」


「そーそー、デメトリアスもたまには正論言うね。」


「いつもだろうが!!」


「はいはい、喧嘩しないでくださいな。」


 な!?両側を殿下達に掴まれ強制移動。前をリリーが、後ろからティモが心配そうについて来る。うう…抵抗する気も起きねえ。

 なんとか涙は止めると、腫れた顔をティモが癒してくれた。ごめん…ありがとう。




 外に出れば…大歓声が。やめてくれ…健闘したのはアシュリィだ…!

 そのアシュリィは………は?



「いつまで抱いてるの?」


「お前は私の戦利品だろう?」


「貴方、ついに狂ったか…?」


 オレらはポカンとした。ディーデリックは…アシュリィを膝に乗せたまま、ベンチに座ってた。どゆこと?せんりひん…?どうやら歓声は、彼らに向けていたらしい…。



「ディーデリック~。戦利品なんてルールないよ?」


「知っているさ。だが…アシュレイ。」


「っ!!」


 なんだ…?背筋が凍るというか、足が竦む。ディーデリックは…いつもと変わらない声色なのに…!



「お前は…私と真剣勝負をして、勝つ自信はあるか?」


「……!」



 昔なら。「絶対勝つ!」と即答していただろう。だが…

 拳を握り俯くと…ピシリ と音が聞こえた気がした。




「お前は…まさか。私にすら勝てぬというのに…

 敬愛する我が魔王陛下を降すなどと…戯言を抜かしていたのか…?」




 じり… 無意識に後退さる。ディーデリックが…怒りを露わにしている…!

 感じ取ったのか、客席にどよめきが広がる。この…空気が肌を刺激する感覚。全身の血が凍りつくような圧。喉を鳴らす音が頭蓋骨に響く…。



「ちょ、ディード!アシュレイに威嚇しないで!」


「お前も甘やかすな。だから彼は陛下に宣戦布告など愚かな真似をするんだ。」


「………宣戦…布告…?何それ?」


 え。アシュリィ…知ってたんじゃないのか?



「オレが昔魔王陛下に「あなたを倒してアシュリィを迎えに行く」って…宣言したの。」


「そ…そんな事言ってたのあんた!?」


 あ?アシュリィは顔を真っ赤にして手で頬を押さえた。

 いやだって…知ってたから、好きなタイプに「私の為にお父様に挑んでくれる人」って言ったんだろ?


「あああれは!!その…お父様が、自分より弱い男に娘はあげないよ!なんて言うから!

 だから…その。……そんな男性がいたら…嬉しいなって…。」


 ついには頭から煙が。え…あらやだ、オレってば早とちり。


 …穴があったら入りたい。




「(でもまずい。アシュレイの気持ちはすっごく嬉しいけど…。魔族からすれば、尊敬する魔王陛下を侮辱する発言に捉えられるものだ…!

 だから怒ってるのか。私を好きとかじゃなくて、アシュレイの覚悟を確かめる為に)待ってディード。昔って、8歳の時でしょ?そんな子供の発言…」


「16歳の今でも同じなんだ。もう成人なのだろう?ならば発言の責任を取るべきだ。

 …子供の戯れなら、それでよかった。もうアシュレイは引き返せない。お前を娶るというのであれば、陛下に勝利する以外道は無い。」


「へ…アシュレイ…?」



 アシュリィが目を丸くしてオレを見る。はい…言いました。でも。



「……オレが馬鹿なのは認めるけど。それでも…

 決して、後悔はしていない!!オレは…!!」



 オレは。アシュリィの事が好きだから…ずっとずっと、一緒にいたいから。


 その言葉は…まだ、言えない…!!

 代わりにディーデリックを睨みつける。




「……離してディード。もうテリッカドクは終わったんだ…力を抑える必要はないんだよ?」


「ああ…そうだな。」


 アシュリィは額に青筋を浮かべて、ディーデリックの肩を掴む。2人の周囲に…何かが渦を巻いている。あれは…昔見た、魔力の具現化。

 ビシ ベキ パキン… 魔力刃が空間を切り裂く。止めないと…!



「ディーデリック。離さないなら…!」


「カル・ア・イルデン。」


「なっ!?」


 アシュリィが動いた瞬間。彼女の身体が宙に浮いた。

 いや、違う。誰か…抱き上げられている!?



「なんだディーデリック。久しぶりに呼んだかと思えば。」


「すまないな。彼女を抑えていてくれ。」


「仕方ない。アシュリィ嬢、悪く思うな。」


「!カルさ…ま…。」


 アシュリィ!?そのが彼女の目を手で塞ぐと…意識を失ったように手足を投げ出した。

 誰だお前は!!!と叫びたい心を必死に抑える。あれは…魔王陛下にも引けを取らない、この威圧感は…!!気を抜くと膝を突きそうになる。負けるなよ、オレ!!



「紹介しておこう。私の契約する最上級精霊、カル・ア・イルデンだ。」


 やっぱり、精霊!人型だが…言葉では尽くせない程に美しい男性だ…。

 オレら含め、男も女性も見惚れている。ナイトリー嬢すらも声が出ないレベルだ。


 ディーデリックは立ち上がり、精霊様を伴い歩き出す。待て…!



 フッ…と周囲が暗くなる。そして上空から…透き通るような声が落ちる。



「おい…ディーデリックよ。何故妾の友が、眠りについておる?」


「……………。」



 今度はなんだ!?突如黒い雲が発生したと思いきや、そこから美しいドラゴンが姿を表した!!確か…すんごいブレス吐いた精霊!!


「グ…グレフィール様…。」


 リリーが座り込みながら呟く。その声に、グレフィールと呼ばれたドラゴンが目だけでこっちを見た。すっげえ威厳…格好いい…!!



「ふむ…カル・ア・イルデン。アシュリィを妾に寄越しなさい。」


「断る。こちらも友の頼みだからな。」


「「………………。」」



 なんか…状況悪化してねえ…?2体の最上級精霊が睨み合っている。なんて考えていたら。

 ガアァン!! と圧だけで地面が抉れた!?ヤバい、生徒がパニックになり始めた!!



「「「きゃあああああっ!!」」」

「逃げろ、早く!!」

「おい押すな!!」


 このままじゃ怪我人が出る!ディーデリックどうにかしろ!!


「分かっている。

 カル、グレフィール様と争うのはやめてくれ。」


「僕は望んでいない。彼女が敵意を剥き出しにしているだけだ。」


「ほう…?その余裕…いつまで保つか。試してみせようか…?」


「無理か…。諦めて避難しろ。」



 ディーデリックてめええええっ!!!余計やる気満々にしてやがる!!

 すでに先生方が客席の避難誘導をしている。そしてリリー、アル、デメトリアス殿下、ティモは周囲に結界を張っている。気休めだが、やらないよりマシだ!と。



 つかアシュリィ!まだ眠ったまま、精霊様に抱かれている。どうにか助けないと…!

 だが…本能で感じる。これ以上あの2体に近付けば、八つ裂きにされると。

 どうしよう…誰か…アシュリィを…!!





「うーん、ちょっとごめんね。

 ここは魔国じゃないんだから、暴れちゃ駄目だよ。」



 何…?オレの頭に、温かい手が乗せられた。その誰かは精霊様に怯む事もなく…静かに声を発した。誰…。



「「「ライナス様っ!?」」」


 三人衆がそう叫ぶ。知り合い…魔族か?ディーデリックすらも目を見開いている。

 どことなく…アシュリィや魔王陛下に似ている、ような。



「カル・ア・イルデンくん、グレフィールさん。ちょっと子供達が怖がっているからさ、退いてくれるかい?」


「「……………。」」


 うそ、最上級精霊にそんな口利いていいの!?



「はあ…分かった。」


「其方が言うのであれば…。」


「ありがとうね。」


 言う事聞いた!?このおじさん何者だよ!!!

 男性は一歩退がり、ドラゴンはこっちに寄ってきて…地面に座った。



「収めていただき感謝致します、ライナス様。」


「偶然通り掛かったからね。」


 ディーデリックが礼をして…頭を上げると、オレに視線を寄越した。



「アシュレイ。3日時間をやる。その間に答えを出し、私に挑みに来い。

 それまでアシュリィは預かっておく。」


「はっ!?」


「3日後、私の全力でお前を叩き潰す。いいな?」


「おお、若いねえ。じゃあ僕が結界張ってあげるね。思う存分やるといいよ。」


「ありがとうございます。」



 オレ返事してないけど。

 バイバーイ、とライナス様とやらは手を振る。いや…アシュリィ連れてかれちゃったじゃん!!

 ララとパリスが頷き合い、アイルと目配せをする。2人はディーデリック達を追った…任せて大丈夫かな…?


「ええ、心配いりません。ディーデリック様にとって俺達は庇護の対象ですし…精霊様も女性には無害なので。」


 女好きの精霊って事か…不安。

 それよりもアイル、こちらの魔族さんを紹介してもらえるか?



「はい。こちらは…ライナス=ユリウス=アルデバラン様。魔王陛下のご尊父であり、アシュリィ様のお祖父様にあたります。」


「初めましてだね。いやー、夏は会えなくて残念だったよ。僕その時、魔国にいなかったからさ。」



 え。



「孫がお世話になってます。それと息子が迷惑掛けただろうに、ごめんね?

 何より…父上と伯母上が色々やらかして…申し訳ない。討ってくれて、本当にありがとう。」



 おじさんはそう言って頭を下げる。え……





「「「「えええええええぇぇっ!!!?」」」」


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