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午後最初の試合は、アル達のクラスではなかった。パメラの属するクラスなんだが…彼女は負けてた。
「全然活躍できなかったわ…。そもそも私、勉強は出来るけどそれ以外からっきしなのよ…。」
「おおう…お疲れ。」
私の隣に腰掛け、一緒に観戦する。
「応援よろしくね~。」
「では行ってくる。」
「がんばー。」
「っ!!」
ディードは私の頭をポンと叩いた。パメラはまだ恐怖があるようで…彼と近付く度軽く肩を跳ねさせる。
さて、アルとディードは別チームなんだよなあ。どっち応援しよう?
「アルバート殿下~!ディーデリック様、ヨハネス様あ~!みんな頑張って~!!」
うーん、ナイトリーはブレなさすぎて逆に安心するわあ。
リリーとか皆アルを応援するだろうし…私はディードにすっか。
「ディード、頑張れっ!!」
と声を上げれば、彼は微笑んで手を振ってくれた。同時にきゃーーーっ!!と女子の黄色い声が轟き、ディードの人気パねえ…と再認識したわ。
それで、肝心の試合なんだけど。
〈…ウ、ウラオノスチーム。7つのエリアを確保。この試合、ウラオノスチームの勝利だ!!〉
「……あちゃあ…」
開始10分で終わってしまった…。いや…ディードは多分、私に遠慮して力をセーブしてた。
あまりに圧倒的すぎると、さっきの
「ひえー、分かってたけど魔族すごいねえ。」
「私からすれば、お前の奮闘も驚愕だったがな。」
「嫌味っぽ~い。でも本心だろうから、褒め言葉として受け取っとくよ。」
アルはため息をつきながら、ディードは通常運転でフィールドの外に出た。今何が起きたかと言うと。
ディーデリックは大将なので相手を捕まえる事は出来ない。だが…開始10秒でエリアを1つ確保した。
護衛なんて必要無いから、1人でゴーレムを壊して代わりの番人を置いて。仲間は完全に置いてけぼり。お前達も自由に行動しろ…って風にね。
まずいと悟ったのか、アルは単身で突っ込んだ。ディードを捕まえる為でなく、彼の確保したエリアを奪う為。攻略の指揮はヨハネスに任せて、魔法を駆使してディードの作った番人を壊していく。
それでも追い付かず…負けた。ただ、それだけ。
そしてディードは、番人作製以外魔法を使っていない。走って、殴って。はい終わり。
「はあ…魔法イベントなのに魔法使わないって。なんだかなあ…。」
観客も呆然としていて、まばらに拍手の音がするくらい。友人達も、三人衆を除きポカンとしているよ。
「ディーデリック…すごい、としか言いようがないわね…。」
「(圧倒的だった…。オレ、魔王陛下に勝つなんて言っておいて。ディーデリックにも…勝てねえんじゃ…!)」
アシュレイは拳を握り締めている…。
ディードは元々生徒達から畏れられているけども、より顕著になってしまった。
「お疲れ様。ディード…相変わらずだね。」
「ああ。」
彼はそれだけ言い、渡したドリンクに口をつける。
根が真面目だから…手を抜くとか苦手なんだよな。まさにウサギを全力で狩るライオン。大人気ない(魔族気ない?)と言われればそこまでだ。
ともあれ、今日のテリッカドクは終わった。
明日4年と5年がそれぞれ戦い、明後日決勝戦だ。明日の午後にしないのは、選手の魔力を回復させる為。なんだが…。
ここで残念なお知らせが。
明日の試合は私の属する…4年マードル(先生の名前)クラスAチームと。隣のクラスAチームが試合だった。
5年はディードのチームと隣のクラス…なのだが。
私達の相手が…2チームとも棄権ですって。
まあ予想していた事態ではある。なんせ彼らには、魔族に対抗する力が無いんだろうよ。
そこで緊急職員会議が開かれる。結果…
4年と5年、それぞれチームを編成しなおして、精鋭部隊で試合をすると!
そんで明日1日は会議&練習。明後日に決戦だ!!
「え。メンバー私が決めていいの?」
「その方がいいだろう。それで5年は、4年の人数に合わせるそうだ。」
トレイシーがそう言うが…うーん…。
それなら正直、いつものメンバーだけでいい。各々の能力とか知ってるし。隣のクラスには申し訳ないけど。
お察しの通りナイトリーが参加したがっていたが、本気で邪魔なんで完全無視した。
「ねえデメトリアス。そっちで力になりそうな人いた?」
「そうだな…ノーマン・アンドレーは伝令役として必要だ。それとポール・カートンのフットワークは素晴らしい。」
「よし。それじゃ…その2人と。
私、アシュレイ、リリー、三人衆、デメトリアス、ティモ、ランス、ミーナ。この12人でいいかな?」
「そうだな。無駄に多くても…ディーデリックの前では無意味だろう…。」
私とデメトリアスが主体となって会議、上記の内容でトレイシーに報告した。すると…。
「ディーデリック殿から伝言預かってきたわ。
「こちらの大将はアルバートを立てる。そちらはアシュリィにして欲しい」とさ。」
「「「へ…?」」」
私が、大将…?まあ…いいんだ、けど。
「あー…挑発かな。」
「…アシュリィは、あいつの狙いが分かるのか?」
アシュレイの言葉に、メンバーの全員が私に注目した。
そうだな…ディード対策も兼ねて教えておこう。
「まずディーデリック=レイン=ウラオノスという人物を解説する。
彼は…典型的な魔族、と言えるタイプ。」
「どういう事?」
うーん。最初から必要かな。
「私んちのような、魔王を輩出する家系の事を『公家』と呼ぶ。簡単に言えば貴族だね、その中でも赤目は『ウラオノス』を名乗る訳だが…。
ヒエラルキーはこんな感じね。」
魔王 絶対王者
ウラオノス
赤目以外の公家 ↑貴族
その他の魔族 ↓平民
図をホワイトボードに書く。これが何かというと…。
「魔族ってのは他人と連携を取れない、戦闘でも自分勝手に行動する。命令によっては呼吸も合わせるけど、自分より下の者の指示は決して聞かない。
だから昨日のテリッカドクも、個人プレーで終わらせた。」
「それが…典型的な魔族?」
ざっくり言うと。上からの命令は絶対で、弱者には優しいけど自分に挑む者には容赦しない。公家は特に、魔族としてのプライドが高い。
今頃5年生の会議でも…有益な情報には耳を傾けるけど、不必要と判断したら速攻切り捨ててるだろうよ。
昨日みたいに自分が大将になればラクだろうに。私だったらなんとか捕まえられるけど…返り討ちに遭う可能性も高い。でも今回の采配は…。
「では…ディーデリックをアシュリィに任せるのは難しいか。逆に捕まるだけだ。」
「最初っから無理さ。」
「「「え?」」」
「ハモんないでよ…だって。
私、ディードより弱いし。」
皆ポカンだが、私が彼に勝っているのは…ステータス上ではMP、知力、素早さ、運だ。
私は現在13レベルで彼は17。魔法勝負なら勝てると思うけど…今はハンデで魔法も同等だと言えるし。
「ディードを見掛けたら逃げて、そうすれば安全だから。
私が大将じゃなかったら、ディードを徹底的に避けながらアルを捕まえに行くんだけど。
ここまであからさまな挑発じゃ、逃げる訳にはいかねー。」
「つまり…挑発というのはアシュリィではなく、アシュリィを護衛する誰かに対してなの?」
イエス。「私はアシュリィを狙うから、守ってみせろ」ってね。
では、誰に対して?可能性が高いのは、恐らく…。
「オレ…か。」
……そうだね。ディードはアシュレイを試そうとしている。
会議室に沈黙が落ちる。どうすればディードを攻略できるか、私ですら確実な方法が浮かばない。
ディード…貴方は一体、何を考えているの?
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