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「アシュレイ、覚悟!!」


「くっ…!こっち…行き止まり!まさか!?」




「ふっ、気付くのが遅かったね!」


「やば…!」


「立ち止まった時が最後だ!!『君を繋ぐ鎖バニッシュ・ボンドチェーン』!」



 アシュレイの足下から赤い鎖が生えて拘束する!逃れようと力を込めても無駄無駄!



「かたっ!?びくともしねえ…っ!絶対中級魔法じゃねえだろ!」


 残念でしたっ!そりゃシンプルに硬い鎖なら、上級レベルになるだろう。だがこれは…特定の条件下でのみ威力を発揮するタイプなので、大した魔力は使わんのよ!

 そう、この鎖は!術者わたしとターゲットが親しい程強力になる!!




「とーーーう!!!」


「なっ………………にゃ。」


「にゃ?」



 廃墟の上から飛び降り、身動き取れないアシュレイ、ゲットだぜ!!!




 ビーーーーーッ!!!




〈ベンガルドチーム、アシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノスが敵将、アシュレイ・アレンシアを確保!!

 この試合、ベンガルドチームの勝利だ!!!〉





 うおおおおおっ!!!!




 すご、大歓声がここまで聞こえる。

 いやー…走り回った!まだHPもMPも残ってるけど…疲れたー!



「アシュリィ、やったわねっ!」


「「イエーイ!!」」


 リリーとハイタッチ!さあて、鎖は解除してフィールドから出ないと。



「…アシュリィ。その…言いづらいんだけど。」


「何?」


「……胸が。アシュレイの顔に…当たってるわよ。」



 え。そういえば…真正面から捕獲にいったな私?

 そっと下を見れば。アシュレイが、真っ赤な顔を胸に埋めて…意識を失っている?私は彼の後頭部をがっちりと…。

 私…なんて事を…!恥ずかしくて顔から火が出るう…!!



「(アシュリィ…降って来る時…。

 パンツ…見えてたぁ……)」



 なんで幸せそうな顔で笑ってんだあんたは!!!

 試合には勝ったけれど…最後の最後で締まらないなあ、もう!!



「(いやいつまで抱き締めてるのよ)それに…貴女の格好じゃ外に出れないわね。」


 ふむ。素材…なんか布無いかな?短パンはさっき捨てちゃったし。

 よし、アシュレイの長ズボンをハーフパンツに改造して、私の短パンを作ろう。



「『物質の再構築アルケミスト』」


 よし完成。はきはき…シャツは洗って返そう。

 終わった~と伸びをして、リリーとアシュレイも抱えて空を飛ぶ。


 フィールドは結界に覆われている為、音声が伝わるのみで外から様子は見えなかったんだよね。それこそモニターでしか。それはやっぱり、空間拡張の影響だな。

 魔法は通さないけど人間は通過出来る。ちなみに結界の外に出たら脱落です。


 だからこそ外に出ると…歓声が私達を出迎える!どーもどーも!!





「は…はあ、ごひゅっ…。」


 おおう…ランスが瀕死だ。ミーナに肩を支えられている、お疲れ様!

 Aチームは私を視認すると駆け寄って来て喜びを分かち合う。どうやらランスの護衛含む4人が脱落していたらしい…知らんかった!エリア獲得しか放送してくれないからさー。伝令役必要か?

 Bチームの面々も「負けたー。」「悔しい!」と言いながらも笑顔だ。にしても…。


「あははっ、全員ボロボロじゃん!」


 誰もが顔やら服を汚し、水浸しの人もいる。あーあ、王侯貴族の姿とは思えないね。




「アイル、吹っ飛ばしてごめんなさい。怪我してない?」


「リリーナラリス様、お気遣いありがとうございます。ですが鍛えておりますので平気ですよ。」


 そういや空飛んでたな。怪我してる人いたら治すよー、アシュレイもそろそろ起きろや。

 皆でわいわいしていたら、神妙な面持ちのデメトリアスが歩いてくるのが見えた。(服は着てた、多分トレイシー辺りが渡したんだと思うが)




「…おい。」


「ふ…どーよ、私達の勝ちい!」


 ブイ!と笑顔で言えば、彼は強張った頬を緩めた。


「ふ、あんなごり押し戦法が何度も通じると思うな!次やったら勝つのは俺達だ!!」


「私は学習する女!反省点を改善して次も勝つ!!」


 …ん?彼って前は…「次なんて無い!」って感じだったが。…心境の変化でもあったか?

 そして次の言葉を探しているのか、ティモの顔をチラチラ見ながら目を伏せた。言いたい事は大体分かるけど…。





 さっき。ティモの顔を間近でしっかり見て…気付いてしまった。


 デメトリアスとティモ。彼らは…恐らく血の繋がった兄弟だ。

 他人の空似、なんて誤魔化せない程に似ていた。特に目元…だから眼鏡か。

 誰かに指摘されてもその場は偶然だ!として凌げるかもしれない。だけど必ず、しこりとして心に残るだろう。


 平民のティモと皇族のデメトリアス。これまでの情報を統合すれば。

 本来平民であったはずのデメトリアスが…何かの要因で皇子になったとしか考えられない。いや、させられた…だろうか。

 2人が陛下の夫…皇婿こうせい殿下の隠し子、という可能性もゼロではないが無理がある。



 あの時、彼らの狼狽っぷり…よほど他人に知られたくないらしい。だから私は。

 彼らが切り出すまで、自分からは問い詰めないと決めた。



「(まあ…何がどうなろうとも。私は…)ん?」


「アシュイ!」


「そうだ、このミニアシュ。ものすごく俺の頭を撫でるのだが…。」


 ほんとだ。肩に乗り、一生懸命両手で髪をくしゃくしゃしている。



「…そろそろ解除すっか。おいでミニアシュ。」


「アシュウ…。」


 ミニアシュは…デメトリアスにぎゅーっと抱き着き、こっちにきた。


「…………その、ミニアシュは。次に生み出しても…同じ個体なのか?」


「んー、最初から全員同じなんだ。性格も差は無いし、記憶も共有している。だから何回何人生んでも、貴方にとって同じミニアシュだよ。」


「そうか…。」


 ううん?デメトリアスは嬉しいような残念なような顔。なによ~ミニアシュ気に入った?

 そういやあと2人いるんだよな。どこに…あ。




「リリー、アシュゥ!」


 いた。リリーの…胸にくっ付いとる!!!


「離れんかミニアシュ!」


「シュウ~!!!」じたばた


「ふふっ。」


 笑いごっちゃねえよリリー!

 お前は変態親父か!!全く…あと1人は…。




「アシュ♡チュー。アシュレイ♡」


「うお、待って…ちょちょちょい。」


「アシュ~。チュッ♡」


「何しとんじゃあああぁあっ!!!」


 アシュレイにキスしとる!!!口にはしてないが、頬やら額やら鼻やらやりたい放題!!!

 すっ飛んで行き回収、なのだが!アシュレイの服を引っ張って離さない!!


「こんの…!」


「ヤー!!アシュレイ、シュキー!!」ぐぐぐ…!


「ん?なんて?」


 ぎえええええっ!?おま、おまーーー!!!ポ◯ョみたいな事言ってんじゃねえ、ええい強制解除!!

 ふう…熾烈な戦いだったぜ…。




「ねえアシュリィ。ミニアシュの性格って…」


「さて移動すんぞ!次は隣のクラスの試合だね、その前にシャワー浴びっか!!!」


 泥だらけだもんねー!皆さんも身なりを整えなさいな!

 ニヤニヤする三人衆も引っ張って移動。この子らはミニアシュの生態知ってるからね!!




 ミニアシュは…亜種リィ同様、私の性格をコピーしている。

 ただ戦闘能力が無いのと、精神年齢はかなり低い。多分2~3歳レベル、だから頭がよくても限度がある。そして超素直。


 デメトリアスに対しては、彼を放っておけない気持ちが。

 リリーには…巨乳に対する憧れが!!

 アシュレイは言わずもがな!!私が本人に言えない「大好き♡」を隠そうともしない!




 …ん?




「アシュレイ様、お疲れ様ですう!はいタオル、ドリンクも♡」


 ナ…ナイトリー!私が離れた隙に…!

 まあラッシュがガードしてくれてるけど、それでめげる輩ではないのだ。


「邪魔よパンダ!!あっ!ランス様も、デメトリアス殿下もどうぞ♡

 んもう、ミーナ様。婚約者だっていうならこのぐらいしてあげないと~。女子力低ーい、そんなんじゃ捨てられちゃいますよう?」


 大きなお世話じゃボケ!!見ろ、メンズ誰も受け取ってないがな!!!


「確かに!ありがとうナイトリーさん、うっかりしてたわ!確かバッグに入ってたような…。」


 ミーナーーー!!貴女素直すぎやしませんかねえ!?

 調子に乗ったナイトリーが、女の子ってのは~なんて語り出しとる!でもミーナはまるで堪えてない…あら?

 もしかして…電波系の天敵って、天然?



「ランス様、どんなタオルがいいですか?なんか気付いたらバッグに色々入ってたんです、花柄は嫌ですよね?こっちのチェックか、無地がいいですか?」


「(いや…それ今、ジェーンさんが早業で入れてた…)えっと…無地がいいかな。」


「はい、どうぞ!沢山追い掛けられて、お疲れ様でした♡」


「……ぶはっ!!」


「えっ!?」


 ミーナ!!!違う、そうじゃないんだけど…ランスが楽しそうだからいっか。

 アシュレイもデメトリアスも「いらない」とはっきり断っているのだが。ナイトリーは…



「はっ!そうよね、こんなに人が多い中じゃ…照れ屋な2人は受け取れないわよね。もう、私ったらうっかりさん☆」


 ってセルフ頭コツンしてた。私がやってあげようか?脳みそぶち撒けんぞ。






 各々シャワー浴びたりし、観客席に移動した。


「お疲れ様ー。すごかったねえ。」


 アル達が席を取っておいてくれて、皆で並んで座る。

 すると後ろにいるディードが小声で話し掛けてきた。



「アシュリィ。どうしてお前はわざわざ、面倒な方法を取った?」


「あー…。」


 やっぱ気付かれてたか。




 私はぶっちゃけ、本気を出したら圧勝する自信がある。魔法は中級までしか使えないなら、使わなきゃいい。ゴーレムだって拳で一撃必殺するわ。

 魔族たるもの。魔法や武器が使えずとも…戦闘職でもない子供に負ける道理がない。



 けど、私は敢えてハンデを楽しみながら戦った。誤解のないよう言っておくが、ふざけても馬鹿にしてるでもない。

 純粋に…仲間達と大騒ぎして走り回るのが、楽しいから。テリッカドクに臨みたかった。



「多分これは…ディードには伝わらないかも。」


「…そうだな。私は…最初から全力で行くぞ。」


「うん。それも1つの形だと思うよ。」


 私は人間の血が混じってるからなのか。

 有朱の体験があるからか。

 幼少期を人間の国で過ごしたからか…純粋な魔族とは考えがズレているらしい。




 そして隣のクラスの試合が始まったが。先程までの盛り上がりはなく…30分で終わった。

 お昼の休憩を挟み午後、5年生の試合だ。さて…ディードはどんな活躍を見せてくれるのかな?

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