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 全くアシュリィは…!頭はいいはずなのに、どこか抜けてるんだから!

 この勝負、彼女が飛び抜けているとはいえこちらの圧倒的不利。


「開始と同時にアシュリィがチェックメイトを決めるのは無理ね…ならば次の手!」


 7つのエリアを先に奪う!!

 奪取方法はただ1つ、エリアの主を倒すだけ!予め配置されている主…ゴーレムがどこかにいるはず。なので私は、現地点のゴーレムを探し出す!



 両手を広げて水球を生み出した。ふふ…アシュシュとの魔法特訓を思い出し、こんな時だってのに頬が緩んでしまうわ。


「スキル:捕捉追跡ホーミング発動!!ターゲット、『該当エリアに属するゴーレム』!!

 いっくわよ~…!『アクア』!!!」


 言霊と同時に、5の水球を上空に放つ。それらはクイっと方角を変え、ある1点を目掛けて飛んで行く!



 ドドドドドッ!!!


「そこねっ!!」


 今ので倒せてれば儲け物!自分の魔法を追い掛ければ、いた!よろめいているけどまだ倒れてない!

 これは魔法イベントだけど、当然それだけでは勝てない。何せ魔族でもなければ、魔法の連発なんて出来ないもの。

 なのでここは、消費の少ない低級魔法で…!!



「『強化』!」


 右の拳をパワーアップ!アシュリィを参考に…足を開き腰を落とし、身体を捻り──砕くっ!!!



 バガアァン…



〈エリア11、リリーナラリス・アミエルが撃破!ベンガルドチームの区域になった!〉


「やった!」


 トレイシーの宣言に会場からも歓声が聞こえるわ。でも…本番はここからよ。




「アミエル様!」


「来たわね。ではマイルズ様、ここの防衛を任せます。」


「はいっ!」


 そう、次は守らなければならない。ゴーレムか精霊か、人間を配置しておく必要がある。

 ゴーレムなら破壊する。精霊なら精霊界に送り返す。人間なら大怪我をさせない程度に倒す!


 敵チームが攻めて来るから、撃退するか5分間逃げ回るしかない。こういう時こそ、亜種リィが役に立つだろうに…もう。



「呼んだかねリリー!」


「わっ!アシュリィ!?」


 廃墟を飛び越えやって来…え、殿下は!?



「ふふっ、私は亜種リィ3さ!あの後アシュリィズで緊急会議を開いてね、全てオリジナルの指示に従う事にした!」


「まあ!」


 最初からそうしなさいよ!という不満はこの際置いておくわ。とにかく、アシュリィの能力なら魔法を使えなくても充分強い…




〈あー、残念なお知らせだ。アシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。緊急職員会議の結果、上級以上の魔力消費が必要な魔法は、オリジナルでも使用禁止!〉


「「えーーーっ!!?」」




 説明しよう!魔法の等級は威力もだが、1度に消費する魔力量も関係するのよ!


 低級魔法ならMP消費は1桁~10代。

 中級は100前後。

 上級は400前後。

 最上級は1000以上…つまり。



「約400以上のMPを消費する魔法…コピー・アシュリィは使えないって事…!?」


 亜種リィ3が呟く。仕方ない…けど!!



「ふむ…亜種リィ!大丈夫、ここは私に任せて!私、すっごく強くなったんだから!」


「リリー…ごめん、頑張って!」


 亜種リィは無念そうに消えた。なんだか…ちょっと悲しい。


 でも…行くわよ!



 マイルズ様は魔法は不得手だけど、気配を消す能力に長けている。じっとしていれば、5分間逃げ切れるかもしれない。


「見つかったらそれはそれで仕方ないわ。怪我だけはしないで、降参してください!」



 降参すればエリアは明け渡すが、脱落はしない。後で取り返せばよし!



 廃墟の中を走り出す。ああ…とっても、楽しい!




〈エリア1及びエリア6、アレンシアチーム、パリスとポール・カートンが確保!〉


「嘘っ!?」


 放送にキキーッと止まる。私は今中立地帯…エリア6は近いわ。


 …いや。今はまだ早い!



「それより別のエリア確保が先よ!」


 踵を返し、エリア7を目指す。ああもう、廃墟が迷路のようになって邪魔だわ!




〈エリア4、ベンガルドチームのアシュリィ=ヴィスカレット…長いわ!!アシュリィが確保!〉


 おお!そこはアシュリィのスタート地点ね。そして恐らく今…デメトリアス殿下と防衛戦を繰り広げているはず!

 彼女の援護は不要。私もエリアを…っ!



「おっと!」


「流石です、リリー様!」


「ララ…ミーナ!」



 足下に大穴が空き、危うく落ちるとこだったわ。犯人はララね…!

 2人と距離を取り、同時にゴーレムを探す。相手も同じようで、私から目を離さずとも周囲を警戒している。


「ふふ…貴女達と真剣勝負するのって、なんだか新鮮ね。」


「ええ。リリー様の実力はよーく知っていますが…負けませんっ!」


 ララが動いた!武器の使用は禁止だから、彼女お得意のクナイは無いけれど。

 それでも魔国で数年過ごした少女よ…精鋭でなくとも油断大敵!



「もう1回スキル:捕捉追跡発動!ターゲット、『このエリア内の私以外全て』!!」


「「えっ!?」」


 今度は威力を落として…低級の小さい泥団子よ!100個作っちゃう!



「行きなさい!『泥爆弾』!!」


「「きゃ~~~っ!?」」



 ヒュン ヒュヒュヒュッ べしゃっ!


 大丈夫、当たっても痛くないから!泥まみれになるだけ!!

 ララが咄嗟に結界を張るけれど、泥団子はいくらでも作れるわ。何せ1個につきMP1だから!



「…っミーナ様!ここはわたしに任せてください!」


「ありがとう!じゃあ…きゃーーーっ!?」


 ふふふ、貴女もターゲットよ!

 ……ん?泥団子が…2人以外、2ヶ所に飛んで行く?1ヶ所はゴーレムとして…もう1ヶ所は?




「ぎゃあああっ!!もうリリー、味方は除外して!?」


「え、なんでここに!?」


 アシュリィが、泥団子を的確に撃ち落としながら近寄って来る。


「いやその前に魔法解除して!?このホーミングお嬢様が!!」


「ちょっと!人に変な二つ名付けないでくれるかしら!?」


「いいじゃん、私の殺人タックラーとアシュレイのヘタレ大将の仲間入りだよ!」


 ……それはちょっと、楽しそうね?



 アシュリィの姿を確認した2人は、無理!と言いながら逃走。エリア外に出た事でホーミングから外れたわ。

 では解除して…アシュリィと一緒にゴーレムを目指す!



「アシュリィ、デメトリアス殿下は?」


「あー、ティモ連れて逃げたよ。今は無理をする時じゃない!って言って。」


 なるほど。それでアシュリィは、エリア4には番人を置いて来たと。ゴーレムかしら?



「ふふふ…亜種リィさ!」


 え?でもルールに抵触するんじゃ…?

 と考えていたらゴーレム発見!ここはアシュリィに任せた!



「行くぞー!『氷の礫ガトリングアイス』!!」



 ズガガガガガッ!! と…無数の氷がゴーレムを貫き、土煙が…!中級のはずなのに、なんて威力…!

 ゴーレムは木っ端微塵、凄…。

 ちなみにアシュリィはあっさり倒すけど。このゴーレム達は…一般の生徒だと苦戦するの。つまり…私達がなるべく倒さなくてはならない!



「まーでも、魔族にハンデ付与は妥当な判断だと思うよ。だって私…。

 制限無しなら開始と同時にフィールド全体をスキャン。ゴーレムの位置を特定、遠距離射撃で生徒は避けて一網打尽にする自信あるし。」


 そ…それは、試合にならないわね。

 彼女やディーデリックは普通にしていれば人間にしか見えないから…時折規格外なのを忘れそうになるのよね。




「では番人を。見てて!『小人の楽園コピー・ミニアシュ』!」


 な…彼女の手の平に…30cm大のアシュリィがいる!?


「かっ、可愛い~…!」


「でっしょー。ミニ◯ラを参考にしたんだけど、これならMPは150だからギリオッケー!」


「アシュ!シュ?アッシュー!」


 何それ鳴き声?1人欲しい…。



「さあミニアシュ、このエリアを守ってね。敵が来たら逃げ回ってればいいから!」


「アシュー!」たたたた…


 ミニアシュは廃墟へ消えた…頑張って!


 あの子は戦闘は苦手だけど、すばしっこくて頭はいいらしい。

 精鋭チームには敵わないから…完全無敵の番人にはなれないんですって。それでいいわ、ミニアシュにばかり負担は掛けられないもの!

 さ、これでエリア7も攻略ね。これで3つ、向こうは2つ!これなら…!




〈エリア11、デメトリアス・グラウム殿下が奪取!所有権はベンガルドチームからアレンシアチームに移行!〉



「「えーーーっ!!?」」


 マイルズ様ーーーっ!?くう…仕方ないわ…!




「行こうかリリー。大丈夫、私がいるんだから!」


「アシュリィ…。」


 彼女が笑顔で手を差し出してくる。それはあの時…。




 苦しくて辛くて、どうしようもなかった幼少期。私に差した一筋の光…。

 ……どんなに苦境に立たされても、その笑顔を見るだけで…なんとかなる!と思わせてくれるのよ。




「ええ、行きましょう!殺人タックラーとホーミングお嬢様に敵は無いわ!!」


「それでこそ私のお嬢様!!」


 あははっ!と声を揃えて笑った。ああ…彼女はいつだって、私を温かい心で満たしてくれる。

 さあ、私達の力を見せてあげましょう!!








 その頃のアシュレイ。


「まずい、ここはエリア4か。」


「ペナルティが付く前に、急いで抜けましょう。」


「おう……お?」



「アシュ?シャーッ!?アシュシュ~!」すたこら


「な…今、のは…!」ふらふら


「何やってんですかアシュレイ様っ!!」



 うーん、ミニアシュはアシュレイの誘導に使えそうね。

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