32



 魔法イベントなんだが…クラスの中で2チームに別れる。チーム分けは、私、リリー、ランスが一緒!珍しい組み合わせだねえ。

 なんだか…昔の特訓思い出すなあ。



「さて…お嬢様?今日から暫く、放課後は魔法の特訓です。何をすればいいのか…言わずともお分かりですよね?」


「(これは…アシュリィ執事モードね…!)ふっ…愚問だわ。

 そう、魔法は…1に攻撃2に攻撃!!3・4に溜めて5に爆発!!!一欠片の慈悲も無く、攻めて攻めて攻めまくる!!!」


「ヒューウ!!!やっぱりお嬢様はこうでなくっちゃねっ!!!」


 パァン!!と互いの手の平を打つけ合う、これで勝つる!!!



「お…俺がしっかりしないと…!!」








 仲良しメンバー内で新たなカップルが誕生したからか。なんだか…パリスも気合を入れている。


「アシュリィ様!そのぅ…お願いが…。」


「オッケー、トレイシーに会いたいから一緒に行って欲しいのね?」


「なんで分かるんですかっ!?」


 いや…なんでって。

 手には綺麗にラッピングされた手作りお菓子。普段付けないペンダントやらヘアアクセも装備。

 そして極めつきに。頬を染めて…意を決したような表情をしているからね。



「なになに、パリスもそろそろ告白しちゃう~?」


「……はい!ぼく、やっぱりトレイシーが好きです。初めて会った、あの日から…。」


 …そっか、頑張れ!では善は急げ、トレイシーを探しに行くか!と思ったら。

 パリスが…私の裾をちょんとつまんでいる?



「……アシュリィ様は。トレイシーの事…どう思ってますか…?」


「私…?」


「はい。アシュリィ様にはアシュレイ様がいるけど。トレイシーの事も…特別に想ってますよね…?」


「………………。」


「多分トレイシーも…ぼくより、アシュリィ様が好きなんだと思います。だから…もしそうなら、ぼく…。」


「パリス。……それは。」


 彼女は泣きそうな顔をして、私を真っ直ぐ見つめる。耳がペタッとして可愛いなあ。

 可愛いから、ぎゅーっと抱き締めちゃう!



「自分でもよく分かってなかったけど、トレイシーは私の初恋なんだと思う。」


 パリスは腕の中でビクッと肩を跳ねさせた。最後まで聞きんさいよ。



「でも、ご存知の通り…私はアシュレイが好き。それも最近じゃない…ずっと昔から。」


「え。そうなの…ですか?」


 うん。全く自覚してなかったけど。




 アシュレイを好きだって認めてから、「ああそうか」って納得する事が増えたんだよね。

 ディードを結婚相手に見れなかったのも、心の底でアシュレイを想っていたから。

 トレイシーも同じ…最初から、格好良い年上のお兄さんでしかなかった。いや初対面はヒゲ面のハゲだったけど。



「(言うなれば、イケメン俳優にときめく感じかな…)だから、初恋ってのも違うんだけど…それが一番近い表現なの。言葉の無い感情って難しいねえ。

 ともあれ、私はトレイシーもパリスも好き。だから、好きな人達が幸せになってくれたら嬉しい!ね?」


「アシュリィ様ぁ…!」


 パリスは私の胸に顔を埋めて泣いた。おうおう、このまな板でよければいくらでも使いんさい!



 数分後、顔を上げたパリスは晴れやかな表情をしていた。


「よっし、頑張るぞ!」


「その意気だ!!」


 腕をガシッと組み、意気揚々と廊下を歩く。

 確か今日は…アシュレイとデメトリアスの相手をしているはず!




 お、いたいた。剣でなく、それぞれ得意の武器を持っているな。



 声を掛ける前に…少し距離を置いて、観察する。

 トレイシーは…鍛えられた肉体、特に斧を振るう腕が逞しくて。汗をかいて拭う仕草や、水を飲む姿…思わず目で追ってしまう。

 綺麗な銀髪に、端正な顔立ち。歳は離れてるけどそれを感じさせない若々しさがある(ぶっちゃけ初対面時のが老けて見えた)。


 初めて会った時は即戦闘になったけど。私を気遣って、一切攻撃はしてこなかった。

 自分自身も苦しい人生を歩んできたはずなのに。何より仲間を大事にして、傭兵の仕事も信念を持って請け負って…。



 ……あ。私今、少しドキドキしてる。

 なんだろうな、これ。



 頭を振って、パリスと共に歩きを再開する。トレイシーはいち早く気付き、斧をズン…と地面に置いた。


「おう、お嬢にパリスか。」


「やっほー。アシュレイもデメトリアスも、鍛錬の邪魔してごめんよ。」


「いや、気にすん「いんや、丁度良かったわ。殿下。」


 何が?首を傾げると、デメトリアスが前に出て来た。遮られたアシュレイは、鬼の形相でトレイシーを睨む。



「武器が壊れた。新しいのが欲しい。」


「……………おうよ。」


 その手には、斧の部分が砕けたハルバード。いや、修理はいいんだけども。

 なんつーか…コイツ、人にお願いすんの下手だな。「直せ」っていう命令ではなく。「直して」って言うの…慣れてないんだろうな。



「無理強いはせんけどさ。「お願い」って言われたら、私は嬉しいな。」


「………!?」


 いや、何その顔。目をまん丸にして、鱗落ちたぞ。



 デメトリアスは…暫くうだうだ考えて。


「…………修理してくれ、頼む…。」


「任せんさい!」


 満面の笑みでハルバードを受け取れば、彼もちょっぴり口元を緩めた。

 ん?なんかポケットから折り畳まれた紙を取り出した?



「それで。今度はこんなデザインで…。」


「準備いいな!ってか絵上手い!誰が描いたん?」


「ティモだ。」


「隠れた特技!お願い今度私の絵描いて!!」


「断る。」


「いや貴方に聞いちゃいねー。」


【はい、俺でよければ喜んで】


 ティモって一人称俺だったの!?意外~!と大笑いしてしまった。

 よーし、それではご要望通りに作ってしんぜよう!




「あ、あの、トレイシー!ちょっと今、いい?」


「んあ?(あー…こりゃ、ついに来たか)あいよ、ちっと移動すっか。」


「うん!」



 アシュレイも入れて、4人でわいわいハルバードを作る。「違う、斧はもっと大きく!」「ここの装飾は…」「細けええええっ!!」と大騒ぎ。素材足んないや、鉄増やそう。


 だから…パリス達がいなくなっても、私は気付かなかったよ。






「トレイシー。ぼく…あなたが好き!あの日…ぼくを助けてくれて、暖かい上着を掛けてくれた時から。」


「………おう。ありがとうな。」


「…ただの憧れじゃないよ。あなたの…お嫁さんになりたいの!ぼく、まだまだ子供だけど…すぐ大きくなるから!!」


「…………俺は──…」






 何度も作り直して、よ~うやくデメトリアスの満足する品が出来ました…。


「おお…!…………ありがとう…アシュリィ。」


「どういたしまして。」


 でも今度は、正面向いてお礼言って欲しいかな!



「では早速…あれ、師匠(※トレイシー)はどこ行った?」


「会長?そういや…あっ、いた。」



 帰ってきたか。……ん?なんか…雰囲気甘くない…!?

 トレイシーは穏やかに微笑み、パリスは顔を火照らせて、ぎゅうっと手を繋いで歩いて来る。これは…上手くいったか!?

 彼らの空気が変わった事に、全員気付いたらしい。4人で顔を見合わせ…。



「…今日は疲れたからもう帰る。行くぞ、ティモ。」


 デメトリアスは、会釈するティモを連れて寮へ向かい。


「な、なあ。あの2人…もしかして…!?」


 アシュレイも頬を染めて耳打ちしてくる。見りゃ分かんだろう、お子ちゃまめ。

 背中を蹴っ飛ばしてやれば、「オレも用事思い出した、帰るっ!」とダッシュで逃げた。さて…私も!



 気配を消して離脱。最後に…トレイシーがこっちをじっと見つめていた。

 






 その日パリスは、わりとすぐ寮に帰ってきた。おやおや、もうちょっとのんびりしててもよかったんだが~?


 なんて揶揄うのも可哀想かな、と思い。私からは何も言わずにいた。パリスも何故か、にこにこするばかりで……上手くいったんだよね…?


 微妙に不安になりながら、ふいに夜中目が覚めた。いつも朝までぐっすりなのに…。

 なんとなく散歩に行く、3人は起こさないように…と。




「…わお、綺麗な星。」



 魔国も満天の星空を見れるけど、また違った景色だ。




「お嬢。」


「え…。」



 玄関を出てのんびり歩いていたら、どこからか。私を呼ぶ声がした。


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