30



「ランス大丈夫かなー…。」


「ご安心を!いくらなんでも危害を加える事はありませんです!」


 不安しかねえ。

 てくてくお屋敷を探索中。ところで、なんで今日私らも呼んだの?



「えっと…お父様が名指しで皆さんを招くようにって言ったんです。」


 は~ん…成る程ね。本命はランス、私とアシュレイはカモフラージュ要員か。

 アシュレイは何も気付かずキョロキョロ。お子様よの~。



「……っ。皆様、そろそろ応接間に戻りましょうか。」


 え?まだ見終わってないけど…?

 まあ屋敷にゃそこまで興味無いし、大人しく戻ったら…。




「「「………………。」」」



「あの、伯爵様…。」


「はは、義父上と呼びなさい。これからも娘を頼んだぞ。」


「いやあ~…感慨深いですなあ。あんなに小さかったお嬢様が、もう嫁入りをされるとは…。」


「さあさあ呑みましょう!ランス様、お酒はイケるクチですか?」


「いえ…すぐ赤くなってしまうので…。」


「これは失敬!」


「「「はっはっはっ!!」」」



 ……何があった?

 酒盛りを始める影の皆さん。そこにジェーンも加わった。

 ソファーにちょこんと座るランス。その隣でニコニコとワイングラスを傾けるシャリオン伯。そして…。



「な…皆っ、何してるの!?よよ嫁入りって…何ー!?」


「おおミーナ、こっちにおいで。」


 ミーナが顔を真っ赤にして伯爵に詰め寄った。アシュレイはまだ首を傾げている。



「お頭様、ここは若い者同士にしてあげませんと!」


「おっと、解さ…じゃなくて。総員、扉から出なさい。」


「「「はーい!!」」」



 皆さんはゾロゾロと、わざとらしく退室する。じゃあ私達も…直前で閉められた!!!ちょっ…!


「あの、ランス様!何があったのですか…!?それと、嫁入りとは…?」


 え、ミーナさん?あの、扉に張り付くアシュシュお見えでない?今まさに出て行こうとしたのですが?


「…ミーナ。大事な話があるんだ。」


「え…。」


 ランスさあん?アナタ達、何頬染めて見つめ合って、手を取り合ってらっしゃるの?



「(おいアシュリィ、これ…オレ達いていいのか!?)」


「(いい訳ないでしょ!でも…タイミング逃したんだよおおお!今音立てたら雰囲気ぶち壊しじゃん!!)」


「(遮音の魔法掛けてくれよ!)」


「(あっ、そうね!よーし…)」



「ミーナ。順序が逆になっちまったけど…。

 俺、君の事が好きだ!何年も前から、ずっと…!」


「え……本当、ですか…?」



「「…………………。」」



 そろ~…と同時に振り向く。

 いやあの、私らも年頃ですけん。こういうの…バリバリ興味あんねん。



「嘘なんてつくもんか!あの日…俺は君の言葉に救われた。大嫌いになりかけていた自分を認めて、前を向くきっかけをくれた。

 そしてこれから先も…君の隣に立っていたい。そう願っている。」


「ランス様…。嬉しい…!」



 あわわわわ。やだランス、男らしい…!

 アシュレイは「オレは空気オレは壁オレは埃…!」とか呟いてる!!



「どうか、俺と結婚して…ベンガルド家に来てくれるか…?」


「はい…はい!わたしをあなたのお嫁さんにしてください!」


「ミーナ…!」


 ひょえーーー!!!なんてこった、こうしてまた世界に新たなカップルが誕生してしまった!!

 2人は熱い抱擁を交わし…ええ話や。



 ……こうしてる場合じゃねーーーっ!!!



「(来いアシュレイ!)」


「(……はっ!?)」


 遮音してついでに透明化して、惚けているアシュレイの首根っこ掴んで脱出!!



「「はあ、はあ…!」」


 とりあえず玄関まで来てしまった。ふう…いいもん見た。


「あの2人、相思相愛だったんだな…。」


「みたいだね。いや~おめでたい。」


 あはは~、と笑うのは私だけ。あれ、アシュレイ?



「………オレ、格好悪いな…。」


 は?どこが…?


「ランスは…あんなにはっきりと言葉にしたのに。オレなんて…勢いだけでガキみたいに喚いて…。」


 アシュレイは右手で顔を覆った。ああ…あのブチギレ告白気にしてんのね。

 でも…。



「……私はさ。不器用で勢いのある告白…いいと思うけど。」


「え。」


「あくまで私は、だけどね。」


「あの…それって…。」


 うるせえ言わせんなこの野郎。自分の発言忘れたんかコンチクショウ。



「あんたが…待ってろって言ったんじゃん。」



 だから、待つよ。あんたが私に相応しくない…なんて微塵も思っちゃいないけど。今のままでも充分…好きだけど。


 踵を返せば、すぐにアシュレイが隣を歩く。そして…指を絡めて手を繋いだ。

 今は…この距離感が心地良い…。







 応接間に戻れば、「婚約しました!」と報告してくるランス&ミーナ。おめでとー!と拍手すれば、2人は照れたように笑った。

 シャリオン邸の人達も全員戻って来て、改めて宴会が始まる。まあ影の皆さんが盛り上がってんだけどね。



「そういえば…シャリオン伯爵はどなたが継ぐのですか?」


 ふと気になり訊ねた。女性のミーナじゃ最初から無理だけど…ベンガルドみたいに養子を迎えるのかな?


「ああ、それは大丈夫だ。息子がいるからな。」


「へー…ってそうなんですか!?」


 てっきりミーナは1人娘なのかと!

 伯爵は酒が入って気分がいいのか、娘の嫁入りが決まって嬉しいのか普段より穏やかだ。


「息子は今、後継の勉強というか…武者修行として世界を飛び回っている。先日来た手紙では、『そろそろ帰るわ。嫁さん連れてくわー』などと書いてあってな。」


 へえ…フットワークの軽い息子さんですこと。ミーナも義姉の存在は初耳だったそうで、楽しみ~!と胸を弾ませている。



「そうそう、妻も息子と一緒に行動しているんだ。」


「ああ…それでどこにいるか分からないって…。」


「今度帰って来たら、ランスを紹介しないとな。寄宿学校を卒業して、その日のうちに家を飛び出してもう10年経つなあ…。」


 そう笑う伯爵だが…。今、なんつった?

 学校を卒業するのは17歳。つまり…息子さんは27歳?



「……伯爵様は、おいくつなんですか…?」


「確か…今年で…51だったかな。」


 ごっ……!?



「「「ごじゅういちぃ~~~!!?」」」



 私とアシュレイ、ランスの絶叫は屋敷中に響いた…。


 初対面の時だってまだ30手前だと思ったのに、40代だった訳でしょ!?それから全然老けてねえな~って感心してたのに!!

 顎外れんじゃねえかってくらいポカンとしていたら、皆さん「その反応、何回見てもいいねえ~!」と大爆笑。



 そんな風に次々と、シャリオン家に関する衝撃的事実が明らかになった。

 ランス達も上手くいったみたいだし…今日来てよかったな。





 さて、そろそろ帰るか~となった時。伯爵様が耳打ちしてきた。


「君は…デメトリアス・グラウム様をどう思う?」


「え。」


 伯爵様からその名を聞くと思わず、一瞬答えに詰まった。デメトリアス…彼は…。


「……友達。うん、友達です。」


「…そうか。

 彼はこれまで…苦難の道を歩んで来た。まだまだ先は見えず、手探りで足掻いている。」


「え…?」


「どうしようもなくなる日も近いかもしれない。その時…きっと君の存在は助けになるだろう。」


 それは、どういう意味なの…?疑問が顔に出ていたのか、伯爵様は苦笑した。



「残念ながらここから先は有料だ。

 だがヒントを1つ。グラウム帝国は我が国と同じく、長子が帝位を継ぐのが習わしだ。ベイラーと違うのは、女性にも継承権が存在するところだが…。

 彼は第一皇子であり、上に姉もいない。なのに…何故皇太子でない?」


「そ、れは…。」


「通常ならば、どれだけ遅くとも成人…15歳の時点で立太子の儀が行われる。

 彼には…それが出来ない理由がある。」


「………………。」


「…柄にも無く少し喋りすぎたかな。

 さあ、そろそろ帰りなさい。王都に着くのが遅くなってしまう。」



 伯爵様は背を向けて、ミーナ達に挨拶をする。

 どうしてその話を私にするの。デメトリアスは…何者なの。



「どうした、アシュリィ?」


 アシュレイが、ひょいっと顔を覗き込んでくる。なんでもな……い…


「…………後で、話すよ。」


「……おう。」


 駄目だ。彼にだけは、誤魔化したくない。



 ねえデメトリアス。貴方は…最初はくっっっそムカつく男だと思ってたけど。

 段々と…思ったよりいい人かも?って変化して。

 今はね。アルやディードと同じくらい…大事な友人だと思ってる。


 だからさ。もしも苦しみを抱えているのなら…どうか。

 少しでいい。寄り掛かってくれると…嬉しいな。

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