28
ぷんすこ!という効果音を背負いながら、ナイトリーがくねくね走って来る。怪談か。
「ねえ…アシュレイ。浮気ってなあに…?あんた…まさか?」
「違う違う誤解だ!!オレが好きなのは…もにょ…だけです!!ナイトリー嬢はなんか勘違いしてんだ!!」
ふうん…?血管ブチ切れそうだが…今回だけ許す。
「(ヤバかった~…!でも…怒ってる顔も可愛い…)」
何乙女のポーズしてんだコラ。
とにかく、向かって来る怪異をどうにかすっか。精神崩壊する前に。
「ねえナイトリー嬢。浮気とか言うけど…このアシュレイと、どういう関係だっての?」
「えー、聞いちゃいますぅ!?あ~んどうしよう、言っちゃう~?」
イッラァ…
おっとイカン、相手はただのか弱い女子。精神はごんぶとだが、殴ったら間違いなく死ぬ。
ふう………深呼吸っと。よし!
「えへへっ!実は私~…アシュレイ様とお付き合いしてるんですっ!」
「ア゛ァ………?」
「してないしてないっ!!!」
安心しろアシュレイ、あんたを疑ってる訳じゃねえから。ただ…。
脳内お花畑も…ここまで来るとトリカブト畑なんだなあ…。
「もおっ、照れ屋さん♡この前スポーツ大会で、私に熱い視線を送ってくれたじゃないですかっ!」
「へ?………!!!あれはアシュリィに送ってたんだっ!信じてくれ!!」
分かってるっつの。しかし…騒がしいもんで生徒がチラホラ来ちゃってるな。
その中にアルとリリーが見えた。私達を探しにきたのかな?
「あー、アルバート殿下♡あなたのアンナが来ちゃいましたっ♡」
「あ゛…?アルビー…貴方…?」
「違うよ!?リリス、僕を信じてくれるよね!?」
「ええ、もちろん。でも…何か、勘違いさせる行いしたんでしょ…?」
「してないよっ!」
リリーがアルの胸ぐら掴んでらあ。そのまま確保しといてね。
苛立ちを抑えながら、なんとかナイトリーの話を聞く。すると…
アルとディードは、書類を拾った時の視線がとても熱くて。眼差しで告白されたんだ!って離れている休暇の間に気付いたと。
アシュレイはさっき言った通り。
デメトリアスは、他の令嬢には優しいのに自分にだけ塩対応。それは愛情の裏返し!それで言うと私もなんだが…。
あとヨハネス、ジェイド、ランスなどなど。彼氏がいっぱいいるらしい。
「「「「………………。」」」」
「もちろん最終的には、1人を選びますけどぉ~。あーん、アンナが1人しかいなくてごめんなさい♡」
なんとなく…アイニー思い出す。いや、アイニーの方が可愛いもんだな…。頭痛が痛い…知能落ちてきた…。
だが…ここはハッキリさせておかねば…!
アシュレイを背に隠し、ドン!と仁王立ち。
「言っとくけどね。アシュレイはすでに私の…わ、私の…。」
「私の…?(なんだ!?好きな人?彼氏…?まさか、婿候補…?)」
「か……えーと…か…か彼ピッピなので!」
「かかれ、ぴっぴ…?」
「?なんですかソレ?」
きゃー言っちゃったーーー!!やーん、恥ずかしいっ!!
「(なんでだろう、言葉の意味は分からないのに…)」
「(ええ、直感なのだけれど…)」
「「(古いよ、アシュリィ…)」」
なんかアルとリリーが哀しい目をしている?
えーい、とにかくお前の彼氏じゃないのっ!!
「こほん…いやそれ以前に。ここはアスル寮で、貴女はブラウ寮生のはず。誰の許可を得て、この建物内に入ったの?」
「私も学生ですよ?遊びに来てもいいじゃないですか~。」
「…規則だからね。決まりってのには、必ず理由が存在するんだよ。
立ち入り禁止の場所であれば。危険だから、私有地だから、貴重なモノがあるからとか。」
「えーっ!貴重なモノはみんなで分けるべきじゃないですかっ!?」
話通じねえ!!!
もういいや、追い出そ。
「ラッシュ!」
懐かしのジャイアントパンダ、頼れる精霊ラッシュ召喚!!
─む?おおアシュレイ、久方ぶりだな─
「ラッシュじゃん、久しぶり。」
「学園は平和だから、ラッシュを呼ぶ用事ないんだよねー。これからは…じゃなくてっ!
ラッシュ、あの女子をつまみ出して。」
─承った─
「きゃあっ!?何すんのよこのパンダ!!」
女子の抵抗なんてなんのその。ラッシュは軽々担ぎ、玄関から外に出した。
門番は侵入者おったんか!とびっくり仰天。ちょっと殺気を込めて…「次サボったら容赦しませんよ?」と忠告しといた。青い顔で超首振ってた。
関係者各位にもアンナ・ナイトリーの異常性を説明、近付かないよう注意する。全員神妙な面持ちしてた。
そんでこれからは、アシュレイに護衛としてラッシュを付ける。
「腐っても紳士だからね、女子に手荒な真似出来ないっしょ。
ラッシュ。アンナ・ナイトリーがアシュレイに寄って来たら壁になってね!」
─久々の仕事がこれか…まあ、よかろう─
「紳士って…照れるじゃねえか…。」
という訳で、今後ラッシュは子猫サイズでアシュレイの肩に乗っかる事になりました。
数日後。えー、本日は土曜日です。
何故か私…シャリオン伯爵家にお邪魔しております。アシュレイと、ランスと一緒に。三人衆は連れて来ていない。そこで…。
「まず伯爵様に挨拶しよっか。」
「そうだな、久しぶりだな…。」
となりますよね?
「えっ、お2人は父と面識がおありですか?父はあまり、社交の場に出ないのですが…。」
「「あっ。」」
あっぶな!ミーナにはベンガルド伯爵関係で1度会った事がある!と誤魔化した。
ここまでは、いいんです。
応接間に通されてすぐ、伯爵が現れた。
「いらっしゃい。」
はーい、お招きありがとうございます。
シャリオン伯、相変わらず得体の知れない男性だな。しかも前回会った時から全然老けてなく見える。実年齢いくつなんだろ…?
ところで…なんで私ら呼ばれた?しかもこの面子。
…まあ、心当たりはある。チラッ。
「お招きいただきありがとうございます。こちらよろしければ。」
「ああ、ありがとう。」
手土産のお菓子を渡すランス。十中八九彼絡みだ。何せ…ね?
「………(なんか、使用人多くね…?)」
現在この部屋に…メイド7人、
ついでに感覚を強化すると…屋根裏に3人、タペストリーの裏に2人いる!多分…伯爵家全員集合してる。
でだ。何故かランスの隣に伯爵が座り…めっっっちゃ横顔ガン見してる。更に使用人の皆さんもランスを囲み、凝視してらっしゃる…。
あの…ごめんランス。向かいに座るアシュシュは…必死に笑いを堪えております。
「(何何何なんなの!?俺なんかした?近いんですけど!?)」
「すみませんランス様!もー、皆集まりすぎだよ。確かに私、お友達をあまり呼ばないけど。」
ランスは全身で汗をかき、震える手でお茶を飲む。
この状況でのほほんとしているミーナはなんなん?天然なの?いや、これがシャリオン家の日常なん?
と、その時。誰かが私の肩をちょんっと突いた?
「はーい、素顔では初めましてです。いらっしゃいませ~。」
小声でそう言うメイドは…まさか?
「いつも影に入ってる…半人前!?」
「まだその認識ですかー。今後はジェーンとお呼びくださいです!」
うっそ、思ってたより若い!多分私とそう変わらない。
アシュレイにも、いつもミーナに付いている影だと説明した。
…ん?よくよく観察すると…もしや、ここの使用人って。
「ご明察!全員影でーす。ちなみに隠れてる5人は影専門です!」
うわー!なんかカッケエ!!表は使用人、裏では必殺仕事人って感じ!
執事もアレ、声が渋くて忍者みたいって思った影だ。
「あのさ、今日呼ばれたのって…やっぱり。」
「はい!ベンガルド様がミーナ様に相応しいか…総出で見極めさせていただきます…!!」
あの、ミーナの片想いだよね!?流石にランスが可哀想すぎるんだが。
「ご心配なく。こちらの調べで…ベンガルド様はミーナ様に、好感情を抱いていると判明しました。
今は仲の良い女友達、と言ったところでしょうか。
まあ…我らのお姫様を振るとか?無いとは思いますけど……ねっ?」
ランスーーー!!!
いざとなったら助けるから、頑張れ!
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