27



 アシュレイの覚悟を感じ…私も逃げてばかりはいられないと悟った。

 だから…




「さあ始めるぞ、女子会を!」


「「「………………。」」」


 オラに恋愛パワーを分けてくれ!!!




 私の部屋に関係者を集め、アイルは追い出し男子禁制とした。

 楽しい楽しいパジャマパーティーの幕開けじゃい!

 では…リリーからどうぞ!!


「パス。はいララ。」


「パスしまーす!はいパリスちゃん。」


「パスです!んーと…アシュリィ様!」


「駄目じゃん!!」


 もー!こっちゃ大真面目ぞ!!




「だって…私とアルビーの話って今更じゃない?」


 まあ、確かに?私は執事として、出会いから全て見届けてきたもの。

 ララの恋心も、パリスの想いも。


「マルガレーテは?まだ婚約者いないよね?」


「残念ながら、面白い話はございません。」


「じゃ…好きなタイプは?」


 マルガレーテは目を閉じて考える。


「んむ…寡黙な殿方?」


 え、そうなの。なんだか意外。

 マルガレーテ自身がお喋りだし…似たような人が好きなのかと。


「いえ、私が2人いるとか恐怖でしかありませんわ。」


 自分で言うか。じゃあ次、パメラ!



「へっ!?あ…いや、私は…。

 ご存知の通り、春までアルバート殿下の追っかけしてたし…。

 あ、リリーナラリス様!今は本当に、敬愛以上の情はありません!」


「ふふ、分かってますわパメラ様。」


 まーそうよね。でもこれからは、自由に恋愛していいんじゃない?


「実はパメラさん、結構殿方の視線集めてますよ?」


「え?そうなの…ですか?」



 マルガレーテが言うには。

 厚化粧&高圧的な態度が消え、最初は周囲も疑心暗鬼だった。


 だが最近…アルと普通に話している姿も見せて。

 高笑いは無くなり、穏やかな微笑みを披露し。

 本当に変わったのでは…?と認識が変化しているとか。


「そういえば…以前のパメラわたしはこの高身長も嫌だったのよね。

 女性はアシュリィみたいに小柄な方が可愛い、って思ってたの。」


 ん?私?確かに、そういう風潮はあるかもね。

 だけど前世を思い出したパメラは、そこも吹っ切れたようだ。今後彼女は…どんな人を好きになるのかな?


 そんでは最後、ミーナ!(寮は違うので招いた)



「わたしですか!その~…。」


「待ってたわ!聞いてよアシュリィ、彼女結構モテるのよ?」


「リリーナラリス様~!」


 そうそう、こういうのでいいんだよ。



「特に…理事長のお孫さん、ノーマン・アンドレー様。ダイス辺境伯家のイアン様。このお2人は熱烈にアタックされてるのよ。」


「へー!ミーナはどうなの?」


「ええ~!どちらも素敵な方ですけど…わたしは…。」


 ミーナは顔を真っ赤にして、困ったような嬉しそうな声を上げる。

 その時…影が揺れて。私の足下に伸びてきて。



『ふーんだ!我らがミーナ様のお相手には、どちらも相応しくないないでーす!!お頭様もそう仰ってますです。

 そうですね…ディーデリック様やアシュレイ様くらいじゃなきゃ、シャリオン家は認めないです!!』


「アシュレイは駄目だからねっ!?」


「「『えっ?』」」



 ………あ。



「何よ急に…まさか?

 ミーナが…アシュレイに気があると思ってる?」


「く…っ!」


 リリーがニヤニヤと…!いや、全員だなコンチクショウ!!




 ……ああもう!そうですよ、ずっと目を逸らしてきたけど…私は…!



 アシュレイの事が、大好きなんだよ!!!


 それを認めたくなかったのは…今までの関係が変わるのが怖かったから!

 私の嫉妬は怖いぞ!?照れ隠しで建物壊すぞ!

 愛が重いぞ!依存するぞ、浮気したら問答無用で斬り落とすぞ!!


 それでもいいって、言ってくれるなら…!



「アシュレイは絶対絶対、誰にも渡さないんだからあっ!!!」


「うふふ…ご安心くださいアシュリィ様!わたし、他に好きな人いますので!……あ。」


「「『えっ?』」」



 今…なんて?

 ミーナは汗をだらだら流し、目を泳がせるが。


 彼女の肩を、両側から私とリリーが掴む。

 に が さ ね え よ ?


 誰?おらおら吐いちまいな。へいへいへい。

 自分から話題が逸れた私は、調子に乗っていた。



「絶対秘密にしてくださいね!?

 …ランス様、ですっ!」


 え。ランスって…あのランス・ベンガルド?

 うっそー!?…ってあら?数人は納得するように頷いている。


「驚かないの…?」


「それより「やっぱりかー」って感じかしらね。」


「ええ。むしろ他の殿方のお名前が出たら、なんで!?ですわ。」


「そんな分かりやすかったですか、わたし…!?きゃー!」


 ミーナは両手で顔を覆い、小さくなってしまった。

 どうやら寄宿学校入学前からランスが気になっていたらしい。

 それが恋だと気付いたのは去年…いいじゃんいいじゃん!けど…。



『……………………。』



 影が無言なのが怖い。

 ランス…ご愁傷様。








「……っ!?なんだ、寒気が…。」


「どうした、ランス?」


 アシュリィは今、女子会なる宴会をしているらしい。

 アイルが「追い出されました…。」とこっちに来たので、男連中もオレの部屋に集まる事にした。(ランスは寮が違うので招いた)

 飲み物をいくつかと、軽くつまめる物を用意して…と。



「アシュリィ様が、女性だけで恋バナをしたいと仰いまして。」


「ブーーーッ!!」


「わっ、汚いなあ!」


「げほっ、すまん、アル…ごふっ!」


 思わず果実酒を噴き出した。恋バナて!!な、何話してんだろう…?

 まさか、オレの話題…?



「恋バナかー。僕とリリスの話…聞・く?」


「「いや、いい。」」


「なんでー!?」


 なんでって。昔から見守ってきたし、今更っつーか…。

 毎日イチャついてんの、特等席で見せられてるし。



「リリーナラリス嬢か…。何故お前のような男を選んだのか、永遠の謎だな。」


「む。デメトリアスがなんと言おうと、リリスは渡さないよ!」


「彼女が俺様を選んだ場合、そうも言ってられんだろう?」


「むきーーーっ!!」


 アルと殿下が取っ組み合いを始めた。

 それをティモは、ニコニコと眺めている。そういえば…彼の事、よく知らないな。

 オレらより2つ年上で、平民だってくらいしか。



「あの…ティモ。」


「?」


「(うーん…)デ、デメトリアス殿下さ。本気でリリーの事好きなのか?」


「………。」にこにこ


 ティモはなんとなく嬉しそうな顔をして、持ち歩いているメモ用紙にペンを走らせた。



【最初はそうだったみたいです。

 ですが今は、アルバート殿下の反応が面白いからアプローチしてるだけのようです。】


「え…そうなんだ。」


 なら安心か?

 視界の端で、殿下にジャーマンスープレックスを喰らわすアルが見えた。オレのベッドが!!


 …前にアルが、デメトリアス殿下とは従兄弟だけど血は繋がっていない、と言っていた。

 それは、どういう意味なんだろう。


 ティモは理由を知っているのだろうか。訊ねても、いいんだろうか?



 ……いや。それは駄目だよな。


「(それに。どんな立場であろうとも、殿下は殿下だしな)」


 最初はいけ好かない男だと思ったが。最近はそうでもな


「しかし謎と言えば。アレンシアの趣味も、俺には理解し難いものだな。」


「なんですとっ!!?」


 今聞き捨てならねえ言葉が!!!どーゆー意味だコラあ!!



「…ふん!いいですよ、むしろライバルが少なくて好都合!いえ大勢いようと全て蹴散らしてみせますが!!」


「お前…何故それを本人に言えない…?」


 う…痛いところを突かれた…!



「レイは昔からそうだよね。ヘタレっていうか…追い詰められないと動けないっていうか?」


「後手に回る印象が強いような。誰かがアシュリィ様にアタックしたら「負けん!」って感じでやっと行動する、みたいな。」


 ひええ…アルとランスがいじめる…!

 チクチク口撃され、オレは布団に潜り丸まった。



【ねえデム。ちょっとアシュレイ様のお手伝いしてあげたら?】


「ん?ん…それはつまり、俺にアシュリィを口説けと言っているのか?」


 む?顔だけ出してみると…ティモが笑顔でなんか頷いている。

 その隣に座るデメトリアス殿下は、顎に手を当てて考え込んでるな。



「……まあ、アシュリィも。よーくよく見れば…中々可愛げがあるな…?」


「な……んなーーーっ!!!?」


 うそ…。この人だけは、安全だと…心のどこかで錯覚していた…!!



「(何考えてんだろうデメトリアス?まさか…発破掛けようとしてる~?)」


「(んん…?嘘をついている風ではないな)」


「(デメトリアスくん、もう一声!)」


「(実際アシュリィ様の相手なんて、魔族かアシュレイにしか無理だよな)」


「(新たなスキャンダルのネタが…?)」


「(アシュレイ様…これは…ファイト!)」


「(デム、その調子だよ!)」


「う…うぅ~…!

 アシュリィは置いといて!!えーとランス!お前誰か好きな人いないのか!?」


「えっ!?そんな急に言われても…。」


「ならヨハネス!ジェイド!アイル!ティモ!!」


「「「「……………。」」」」


 全員すいっと顔を逸らす!!

 じゃあもうこの話題やめよう、歴史の先生のヅラについて語り合おう!



「ぶっちゃけレイは、アシュリィをどう思…あっ。」


「蒸し返すなバーーーカ!!大好きですっ!!!」


 布団も部屋も飛び出して、オレは廊下をひた走る!!






「………はー…。」


 ロビーまでやって来て、火照った頭と身体を冷やす。

 女子寮へ続く廊下を眺め、思い浮かぶのは彼女の顔ばかり。



「アシュリィ…今何してんのかなー…。」


「呼んだ?」


「ぶっ!?」


 後ろから声を掛けられ、跳び上がってしまった。いたのかお前!!


「そこの椅子でぼーっとしてたら、あんたが変な顔で走って来たんだよ。」


「そ…か。」


「「……………。」」



 なんか…会話が続かない。どちらからともなく、椅子を並べて座った。

 ん…?アシュリィは部屋着姿じゃねえか…!?薄手のシャツに、足を見せつけるショートパンツ。靴下は膝上まであるけど…!


「ばかっ!!こんな共用スペースで…!(オレ以外の男に)太もも見せんなっ!!!」


 と自分のカーディガンを彼女の足に乗せた。


「あ…ありがと…。」


「………おう。」



 そこからまた無言の時間が流れる。


 …幸せ。




「…………(誰も、いないね…?)」


 ん?アシュリィが…カーディガンを握り締め。

 頬を紅潮させ…可愛くオレを睨み。すくっと立ち上がり。オレの横に、座…


 うええぇっ!?確かにここの椅子は、1人掛けにしては大きいけど!

 2人座ったら…いくらアシュリィが細くても!はわぁ~密着してるぁ!!温かいぬあ~!

 しかもアシュリィは、オレの左手を取り…指を絡めて握った。これは…!恋人繋ぎってヤツ!?


 ヤバい心臓がむっちゃ暴れてる!もう自分の鼓動しか聞こえない。はわわわ。



「(アシュレイ、すっごいドキドキしてる。そのお陰で…私の鼓動を隠せるけど…)」



 誰か助けて…心臓が爆発して死ぬ…!

 いいや、ずっとこうしていたい。その相反する感情がオレを苦しめるぅ…。

 ぎゅっと左手に力を入れると…彼女はオレの肩に頭を乗せた。



 あれ…もしかして。

 これって…オレの片想いじゃ、ない…?



「………アシュリィ。」


「…何?」


 震える唇で言葉を紡ぐ。お前は…



 オレの事、男としてどう思ってる?

 絶対、魔王陛下に勝ってみせるから。待っていてくれるか?

 デメトリアス殿下や、ディーデリックや、会長じゃなくて。オレを選んで欲しい。

 オレ達は同じ想いだと…勘違いしてもいいか?



「オレの事……ぁ、や…。


 お前の……好きな…好きなタイプって、どんな男だ?」



 ヘタレた!!!そういうとこだぞオレ!!!



「………強くて、逞しくて、仲間想いで。」


 …会長の事じゃないよな…?




「可愛くて、泣き虫で。

 私の為に…お父様に挑んでくれる人。」


「へ。」



 それ、は。


 アシュリィは腰を上げ…オレの前に立ち。

 オレの肩に手を置くと、見た事の無い表情をしている。

 唇を結び…初めて見た時から心を奪われた、赤い瞳がオレを射抜く。


「っ!!」


 オレは…アシュリィの腰を抱き。引き寄せ──…




「あーーーっ!アシュレイ様、浮気はダメですよっ!ぷんぷん!」


「「!!?」」


 遠くからなんか、甲高い声で呼ばれた!?

 犯人は…アンナ・ナイトリー令嬢!?



 いや、あの。ここ…アスル寮だが?寮生以外はたとえ生徒でも…許可無く立ち入れないんだが?

 つー事は…まさか。



「「(ふ…不法侵入しやがったーーー!!!)」」



 警備仕事しろ!!!


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