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 そんなこんなで、すっかり忘れてた!騒動の元凶を!



「あ!結局私が姫役じゃん!?」


「そら、練習するぞ。」


 芸術祭は12月、今は9月。練習早くない?


「何言っている、この俺様が主役なんだぞ!?半端な演技などしてみろ、許さんからな!」


 さいですか。

 デメトリアスはどうにもやる気満々のご様子…はあ。


 まあ私は一度読めば、台本はすぐ覚えちゃう。なんなら全員の台詞言えるぜ。


 今学期は週に1回、芸術祭に向けた授業がある。

 絵を描いたり楽器の練習したり、私達は劇の準備だね。

 教室があるのとは別棟に移動です。




 全体練習の前に、個々で軽く台詞合わせをする事に。



『オーッホッホッホッ!!多くの罠を乗り越えてよく来たわね、その度胸だけは認めてあげるわ!!

 ひ弱な人間共が束になろうとも、ワタクシの敵ではなくてよーーー!!!』



 リリー!ノリノリで高笑い…楽しそうで何よりです。


「ふむ…リリーナラリス嬢は、あのような姿も愛らしいな。」


「おっと同感。もうリリーは何をしても可愛いんだよ…。」


「「……………。」」


 私とデメトリアスは…ガシっと腕を組んだ。気が合うね!!




 さて、こっちも練習始めるか。


「じゃあ2人のシーンを通してみる?」


「ああ。」


 デメトリアスはオーディションの時点で暗記していたらしい…やるね。

 彼と恋人なんて、ちゃんちゃらおかしいやーい!とか思ってたけど。



『騎士様…!どうかお戻りになって、行っては駄目。』


『姫。私は…』


わたくしと一緒に逃げましょう。お願い…1人にしないで…。』


『……いいえ。私は参ります。どうか信じて…待っていてください。』



 デメトリアスと手を取り合い、渾身の演技を披露する。

 クラスメイトの誰もが見惚れている。ふむ…意外と楽しいなこれ。


「………………。」


 まあアシュレイだけは。

 眉間に皺を寄せて、目に涙を溜めて…唇をきゅっと結び。三角座りで演技を睨みつけているが。



 さて、劇のラスト。騎士と姫は抱擁を交わす。

 う…流石に照れるな。デメトリアス、なんかいい匂いする…。


『(……アシュリィ、こうして触れると…見た目以上に小柄に感じるな)姫…ずっと、こうしたかった。』


『はい…騎士様。』


 デメトリアスの腕が、私の後頭部と腰に回される。

 これは…むぅん、ちょっとドキドキする。


 いくつかの台詞を挟み、身体を離し…見つめ合う。そして顔が近付くと…。

 きゃあっ!と女子の歓声が聞こえてくる。いや、キスの振りですから。

 私が目を瞑った、その瞬間。


「(ん?今何か…?)」


「…………。」


 あ、ほっぺにキスされたのか。すぐに気付いた。

 きゃーーーっ!という黄色い声が部屋中に響く。まさか…!?


「ちちち違うよ!?ほっぺ、頬にしただけだからっ!

 何すんのさー!」


「こっちの方がリアリティがあるだろう?」


 まあ、この反応からして確かに。


「むーん…!でももう練習ではやらないでよ!」


「分かっている。俺様もお前のような外見ウサギ、中身メスゴリラに何度もキスする趣味は無い。」


 やんのかテメエコラ。




「ぬわっ!?」


 静かに拳に力を溜めていたら、後ろから肩を掴まれ、すごい力で引っ張られる!?誰だ…って。


「アシュレイ!?」


「………………。」


 アシュレイは泣く寸前の表情で、キッとデメトリアスを睨んだ。

 デメトリアスは肩を竦め、「今日の練習はここまでだな」とその場を離れる。



 いや…この状況どうしろと?私は現在、アシュレイに後ろから抱き締められている。

 この間の騒動で、アシュレイの想いはクラス中が知るところに。誰もが微笑ましげに、私達を見守っている…!


「なあに、嫉妬?」


 なーんちゃって…


「…………………うん。」

 

 素直か!!!!


 くるっと身体を回転させられ、正面から抱き合う体勢に…!

 ひえー!さっきと違って…心臓が飛び出そうな程暴れてるうう!!


「(なんで、こんなに顔が熱いの!!)アシュレイ…。」


「…………なに。」


「あの…一旦離れない?」


「…………………オレも、キスしていいなら。」


 んな…っ!!


 リリー、ララ、パリス、ミーナが…過去最高潮に目を輝かせている!!!

 違う違う、私こんな乙女なキャラじゃない!!

 魔王の娘で、悪役令嬢の親友で、メスゴリラで…っ!



「「「「きゃあーーーッ!!!」」」」


 え?今何か…額にふにっと、温かいものが触れた。

 顔を上げれば…真っ赤なアシュレイが、困った顔をしている。

 今…アシュレイ、キ…っ!?


「ひゃ…ひゃあああああっ!!!」


「ずえっ!!!」



 バギィッ!! ドゴオォン…


 テンパった私は、アシュレイの顎にアッパーを叩き込んでしまった!

 豪速で天井に突き刺さるアシュレイ…やっちまったーーー!!!




「きゃあああああっ!!?先生、床からアレンシア様が生えてきましたっ!!!」


「レイ…何、してるの…?」


「あ、アル。そうか、真上は5年生が練習中だったか。」


 天井と床を突き抜けたアシュレイは、アルの足元に到達したらしい。

 ごめえええん!!今引っこ抜くから…!!えいえい!



「ねえ、大丈夫?」


「もちろんだ。オレはこういう時の為…防御を重点的に鍛えてきたからな!!」


「うーん。流石…あの子と恋愛する猛者は格が違うねぇ。」


「……アシュレイ。今お前の防御ステータスはいくつなんだ?」


「オレ?えーと…1092だっ」ずぼっ


「「あ。」」



 あ、抜けた!!

 ごめんねアシュレイ、痛かったでしょう!?

 頭から血を流すアシュレイ。彼を膝枕して傷を癒す。



「いや、大丈夫だ。オレは…お前の全てを受け入れたい。

 この程度で…オレは揺るがない。」


「ア、アシュレイ…。」


 そう語る彼の表情は…何かを決意したような、力強いものだった。


「……もうっ!!アシュレイったら、何言ってるの!!」


「ぐへえっ!!!」


 今度は思いっきり突き飛ばしてしまった。

 アシュレイは壁を破壊し床に突っ伏しながらも…「な?」と言いウインクしながら親指を立てた。



 アシュレイ…まさかそこまで、私の事を…!?

 ど、どうしよう。嬉しくて…顔がニヤけちゃう…!!




「…わー、レイってば1mくらい突き抜けてたんだねえ。」


「本当に彼は人間なのか…?」


 天井に空いた穴の向こうから、アルとディードの声が聞こえてくる。



「ちなみにだけど、ディーデリックの防御は?」


「私は1860だ。」


「わお、凄い。

 でもレイは、称号の効果で魔族との戦闘時、全ての能力値が2倍になっているはず。」


「じゃあつまり…アシュレイは。アシュリィの攻撃を…2184で受ける?」


「そうなるね。」



 きゃあ、きゃあ!!アシュレイがここまで本気だったなんて…!

 まさか、結婚とか考えてらっしゃる!?きゃあ~っ!!!





「(……天井に穴、壁は粉砕。

 中央では頬に手を添えて悶えるメスゴリラ。

 上から冷静に分析する男2人。

 他は全員廊下に避難…なんだこのクラスは…)」



 デメトリアスはティモを背中に隠し。教室の隅で…腕を組んで遠くを見つめていた。







名前:アシュレイ・アレンシア

性別:男

職業:公爵令息

Lv.6(2)


HP  1550/1550(750)

MP  101/101(90)

ATK 995(43)

DEF 1092(65)

INT  65(85)

AGI  919(44)

LUK 30(45)



スキル:剣術

    耐久(HPが半分以下になると、DEFが20%上昇する)

    逃走(HPが20%以下になると、AGIが50%上昇する)

称号:魔剣に選ばれし者



 アシュレイ現在のステータス。()は同世代の平均値。

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