23



「あーっ、アルバート様あ♡ディーデリック様も!休暇の間、全然お会いできなくて寂しかったです~!」


 うわ、出た。くねくねくねくね歩いて来るナイトリー嬢…その歩き方凄い、器用だね。


「あのあの、この後お時間ございます?」


「「無い。じゃっ。」」


 ディーデリックと揃ってシュバッ!と手で制し、ナイトリー嬢に背を向け猛ダッシュ。

 なんか後ろから「もーぉ、照れ屋さん♡」とか聞こえるのは幻聴かな。




「はあ…アレはすごいな。魔族にはいないタイプだ。」


「いや人間にも滅多にいないからね?勘違いしないでよね。」


 アレが人間の基準だと思われたら堪らないからね。



「あら、殿下にディーデリック様。」


「お疲れのようですね。」


 お。今度は正面からトゥリン兄妹参上だ。

 僕ら今からリリス達に会いに行くの、と言ったら一緒に行くって。

 魔国楽しかったねー、とか雑談をしつつ移動。その時…。



「あ…。」


「…?っ!!!」バタンっ!!


「?今の令嬢は?」


 とある教室から出て来たと思ったら、すぐ引っ込んだ…スプリングフィールド嬢だ。


「今のがか?よく見えなかったが…。」


「見なくていーよ、行こう。」


 彼女には散々付き纏われたからねー。今はこのディーデリックのお陰で平和平和。



「「おーい、殿下ー!」」


 ん?後ろから声を掛けられた。今日はやたらと知り合いに遭遇するな。



「「ろーほーろーほー、朗報です!」」


 彼らは…2年生でアギラール公爵家の息子、リオネル&エイベル兄弟だよ。顔立ちも髪型も声もそっくりで、両親以外見分けに苦労するんだ。

 でもジェイドも完璧に判別できるんだ…なんでだろ。えーと、どっちがどっち?


「もう、僕がリオネルですよっ!」


「僕がエイベルです!」


「わ、ごめんね。」


「いや逆だろう。」


「「「えっ?」」」


 ディーデリックの発言に、その場の全員が注目した。



「?今リオネルと言ったのがエイベルだろう?」


「「うそ…なんで分かったんですか…?」」


 あ、騙したな!んもー、彼らはこういう事するんだから!

 でもディーデリックは彼らと知り合って、まだ数度しか顔を合わせていない。なのになんで…。


「なんでって……勘?」


 えー…。何それ、魔族凄い。


「正確には「彼は今嘘をついている」と感じたからだ。すまないが、それ以上表現できん。

 それより朗報とは?」


「「あっ!そうだった!


 鳳凰会に平和が戻ってきたんですよー!!」」



 …え?思いがけない言葉に、僕らは返事もできなかった。


 双子曰く…スプリングフィールド嬢が、気付けば顔を出さないんだと。

 それで調べてみたら、春の時点で鳳凰会を脱会してたとか。自動的に、彼女の紹介で入った令嬢も皆同じ。

 どういう事?トゥリン兄妹の出番だよー。


「そうですね…鳳凰会については、私達にはなんとも言えませんが。

 確かに最近の彼女は大人しくなっています。」


「私を…魔族を避けていたんじゃないのか?」


「そのはずなんだけど…。」


「んと…『成績はいいけどマナー最悪』って評価は、実は去年のものなんですの。今は取り巻きの令嬢も連れてないし…人が変わったように静かなんです。

 でも元々があの性格ですから、今は魔族を恐れて猫被ってるだけ…と言われていますわ。」



 ???それ以上の情報が無さすぎて、全員で首を傾げるばかり。

 ここは…兄妹に調査を任せる。



「「とにかく!これで殿下達も鳳凰会に戻れますね!」」


 まあそうだね。彼女が牛耳ってなければ、放課後アシュリィ達とのんびりお茶できるし。そうだ、兄妹も入会してもらおうかな?

 またサロンに行くよ、と言って双子とは別れた。





 4年生の教室にやって来た。でも…まだ授業終わってないの?賑やか。


「今日はオーディションと言っていなかったか?」


「長引いてるのかな…。」


 オーディション…見てみたい。

 ディーデリックに飛んでもらい、僕は背中にくっついた。そして壁の上部にある、換気用の窓から覗いたら…。




「アシュリィ、そのブラシ取ってちょうだい。」


「はーい。口紅何色にする?」


「そうね…真っ赤は避けたいわよね。」


「アシュレイ様は髪の毛綺麗ですねえ。セットし甲斐があります!」


「眉毛はちょっと整えるだけでよさそうですね。」


「……………。」



 何この状況。レイを囲うリリス、アシュリィ、ララ、パリス…羨ましいっ!!

 じゃなくて。なんでレイをメイクアップしてるの…?




「かんせーい!

 …ヤバい、可愛い…。意外とアリかも…。」


 僕はナシかなー。どういう状況?



 それで…なんかデメトリアスとアシュリィが騎士の演技をする。どっちも上手い、けど。


「うーむ…やはりアシュリィは身長が足りんな。」


「ねー。しかも姫?のレイがデカいし。」


 と言うか、レイはデメトリアスよりも身長あるんだけど。どうしてこうなった?


「予想だが…アシュリィが騎士役をやりたがって、恋人になりたいアシュレイが姫を望んだんじゃ?」


 その線が濃厚だろうね。

 結果は予想通り…デメトリアスが騎士に選ばれた。アシュリィとレイは床に両腕を突いて落ち込んで、リリス達は腹を抱えて笑ってる。




「ふ…やはり主役は俺様にこそ相応しい。しかし姫がな…。

 まあ安心しろ。相手が誰であろうと手は抜かん。」


「姫は辞退します!!!」


 あ。レイがメイクをゴシゴシ落とし、膝を抱えて教室の隅っこに収まった。




 もういいかな?そう思い床に降り、扉をノックしてから開けた。


「ねえねえ、何があったの?」


「あ、アルビー。それが…かくかくしかじか。」


「え。クラスメイトが揃ってる中で、告白っぽい事しちゃったの!?」


「ううう~~~…!!」


 この子は、またなんて事を…ぶふっ!!

 お相手のアシュリィは、困ったように唇を尖らせ頬を染めている。



「あの…アシュレイ。わ、私。今回は…その。」


「!!!さっきのは忘れろ!!」


 レイは顔を真っ赤にして、ばひゅんと教室から逃げた。あーあ。



「ねえデメトリアス。騎士役代わってあげれば?」


「断る。最初からエントリーしなかったあいつが悪い。」


 だよねー。

 でも、ちょっとだけレイが可哀想に思えてきたぞ。もしこれで振られちゃったら…うむー。



 とりあえず僕とディーデリックでレイを追いかけた。どこかなー。


「あの2人、上手くいくかなあ。」


「え?アシュリィはどう見ても、アシュレイを好いているだろう。」


「え?」


 あらびっくり。君の目にはそう見えるの…?



「以前アシュレイには言ったが…彼女は不誠実を嫌う。

 もしもアシュレイに恋心など微塵も無ければ、とっくに振っているさ。相手に気を持たせるような愚かな真似はしない。

 つまり…自分の感情に気付いていないんだろう。それも時間の問題だとは思うがな。」


 そう、なの?


 それが本当なら…嬉しい。





 レイが行きそうな場所…僕の勘が正しければ。


「何やってんだ大将…?」


「………うるさい…。」


 やっぱいた。職員室…トレイシーの机の下にいる。



「あ、殿下。今度は何が…?」


「んっとねー…むっ。」


「なんでもないっ!!邪魔したな!」


 僕が説明しようとしたら、レイに口を塞がれた。もごご。

 いや、今更彼に隠すようなこと?


「他の先生方もいんだろうが…!」


 なるほどー。


 お邪魔しましたー、と職員室を後にする。



「あ…アシュレイ…。」


 丁度その時、アシュリィ達が前からやって来た。今日このパターン多いな。


 でも…アシュリィは珍しく目を伏せて、もじもじしてる。なんか…本当に脈アリっぽい…!?


「(ここは気を利かせるべきかな?)」


「(そうしましょう、さり気なく去りましょう。)」


 リリスとアイコンタクトを取り、他の皆にも目線で合図する。そ~…っと離れようとしたら。




「あ…スプリングフィールド嬢…。」


「え…ひいっ!?」


 失礼な。彼女は引き攣った表情をして、逃走を図る。本当に変わったな…。

 前だったらこうして、偶然を装って僕に声を掛けてくるのが当たり前だったのに。




 だけどスプリングフィールド嬢に誰よりも反応したのは、アシュリィだった。




「えっ、三月場所令嬢!?どこどこどれ!?」


「誰が大阪場所よ!!せめて人間に喩えなさいよね!!」


「じゃあ明石志賀之助?」


「誰が初代横綱よっ!!」


「あははっ!………は?」


「え……。」


 え?アシュリィとスプリングフィールド嬢は何を言ってるの?全然ついていけないんだけど。

 それは僕だけでなく、その場の全員。



 当の本人達は…目を大きく開き、呆然としているようだ。

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