22
休暇明けの学園にて。
「芸術祭…?」
「ええ、12月に行われるのよ。」
聞きなれない催しに、ほ~んと声が出た。
この寄宿学校で開かれる、文字通り芸術に関するイベントらしい。
絵画、陶芸、彫刻のような作品を制作し展示するのと。
演劇、歌、楽器演奏を披露する場合に分かれるとか。
「内容はクラスごとに決まっているの。私達は今年演劇に決まったわ!」
握り拳のリリー。ほう…学園祭ってことだな!
今日はクラス全体で話し合い。演目はすでに先生が決めてあるらしい。
それは『月光の誓い』という聞いたことがあるようなタイトルの劇。美しいお姫様と…護衛である騎士の身分違いのラブロマンスであーる!!
クラスの威信を懸けたこの演劇。小道具から演出まで最高のものにする!と皆張り切っているのだ。
「配役ですが、希望者によるオーディションで決めたいと思います。1人しかいなければ、その方に決定とさせていただきます。」
ふむ…オーディションか!私は魔法を駆使して演出係になろうかな?
でも折角だし、舞台にも立ってみたいなー…。
「ねえ、リリーはお姫様やるでしょ?」
「え、私が?」
イエス。というか、このクラスでリリー以上にお姫様に相応しい令嬢はおるまい。
綺麗な人は沢山いるけど、私にはリリーが最上の天使なのだよ!
「ほう…リリーナラリス嬢が姫か。では当然俺様が騎士という訳だな。」
「あ゛?」
「何故キレているんだお前は!!」
おっといかん、反射でデメトリアスの胸ぐらを掴んでしまった。だが反省はしてない!!
「それなら騎士は私だよ!リリーは私が守るんだから!!」
「はあっ!?お前は女だろうが!!」
だから何!?数年ぶりに宝塚モードアシュリィ発☆動!しちゃうよ!!
「あの~…私まだ、姫役やるって言ってないけど…。」
「はははは、面白い!!ならばオーディションにて白黒はっきりさせようではないか!!!まあ俺様の勝利は目に見えているがな!!」
「おうおう望むところじゃい!!」
私とデメトリアスは火花を散らし、クラスメイトは遠巻きにしている。
だが…ティモだけは、穏やかに微笑んでいる…。
「行くぞティモ!!今すぐ練習だ、何がなんでも主役はいただく!!」
その言葉にもニッコニコで後を追う。彼らの主従関係…私と三人衆とも違う絆があるみたいね。
まるでワガママな弟と、振り回される優しいお兄ちゃんみたい。
「……ねえアシュリィ?貴女とアシュレイで…姫と騎士になってはどうかしら?」
「「えっ?」」
思わずアシュレイとハモり、顔を見合わせる。
私はまだ…彼の告白に対する答えを見つけていない。でも…。
「わ…私は、まあ。いいけど…。
っいや、私は姫ってキャラじゃないでしょ!?」
「……オレは、アシュリィが姫じゃないと、やらん…。」
アシュレイがプイッと顔を背けながら言った。んな…!
「(ア…アシュレイが、攻めた!?キャー!アルビーに報告しなきゃ!)」
あれっ、リリーが勢い良く教室を飛び出した。この空気どうしてくれる!?
アシュレイと…恋人役…?
『騎士様…初めてお会いしたあの日より、わたくしは貴方をお慕いしておりました…。』
『姫…!』
この劇のラストは、月光を全身に浴びながら愛を誓い…キスをして終わる。当然キスの振り、だけど。
アシュレイと…私が?
『アシュレイ…。私、初めて会った時から…あんたの事を…。』
『アシュリィ…!』
…………ふぁーーーーーっ!!?
「む、無理無理無理っ!!!そんな演技したくないっ、やっぱ私は騎士になるんだからーーー!!!」
きゃーーー!!想像だけでもう無理!!
教室の扉を開けている暇もなく、体当たりで開けてダッシュで逃げる!
こうなったら無心で練習だー!!!
「……そんなに…オレと恋人役は…嫌なのか…。」
オレはがっくりと肩を落とした。オレの片想いってのは分かってたが…ヘコむ。
するとランスとミーナが、両側からポンっと肩を叩いた。
「アシュレイ。さっきのアシュリィ様の言葉だけど…。
偽物の恋人になるのが嫌なだけ、かもしれないぞ?」
「そうですよ!ほらアシュリィ様、ただの演技なら割り切りそうじゃないですか。」
「………!」
そ、そうかな?それはつまり…本気でオレのことを考えてくれてるんだな!?
よっし!と強く拳を握り、オレも教室を出る。
アシュリィが粉砕した扉を踏み越えて。打倒魔王陛下!を掲げて鍛練あるのみ!!
「………教室の扉無くなった。なんで誰も何も突っ込まないんだ…。」
「ふふ…アシュリィ様は相変わらずお元気ですね!」
「ミーナもそっち側かあ…。」
それから数日。本日は配役を決めるのだが…。
「「えええーーーっ!!?」」
騎士役は私とデメトリアスがエントリー。あのやり取りを見ていたせいか、他に名乗りを上げる者はいなかった。
姫も同様、リリーが出ると噂になったのか、挑む女子はいなかった。
それはいい、んだが!!
「なんでリリーは悪役魔女なの!?」
「楽しそうだもの!」
そそ、そんなあ…!こんなとこで悪役根性発揮しないで!
どーすんのこの状況、姫不在じゃん!リリーは魔女で確定してしまった…誰か、姫やって!!まだ役決まってない女子!!
「わたくしはちょっと…オホホ。」
「殿下方のお相手役には…荷が勝っているといいますか…。」
という反応がほとんど。じゃ、じゃあ、ミーナ!
「すみません…私は演出係で決まってるんです~!」
フラれた!
従者達に無理は言えない…うーーーん…。
「どーすんのデメトリアス!?」
「どうもこうも…。
アシュリィが姫をやるしかないだろう。」
「「えっ?」」
思わず目が点になり、アシュレイと共に抜けた声を出す。
その様子にデメトリアスは、呆れたように言葉を続けた。
「女子は全員拒否だろう、お前以外。それとも男子に女装させるか?」
「そ…れは。ってデメトリアス、貴方はリリーのお相手役をしたいんじゃなかったの?」
「それもあるが…俺様以外、主役に相応しい男がいないだろう!」
つまり、姫は誰でもいいのね?
えー…どうすっかな。
「そそそ、そんな…!
先生!!オレも騎士役エントリーします!!」
「アレンシア君…その。もう締め切っちゃって…。
決まらなかったら、もう1度募集する予定だけど。」
「うそぉ…。」
「アシュレイしっかり、気を確かに!」
「俺の声が聞こえますか!?」
「あわわ、全身が痙攣を起こしてます~!!」
なんかリリーと三人衆が賑やかだなあ。
デメトリアスと恋人役かー。
アシュレイだと意識しちゃうけど…デメトリアスなら気楽ではあるね。
「仕方ない…柄じゃないけど、深窓の姫君役を引き受け」
「オレが女装するからあっ!!アシュリィの恋人になりたあああああい!!!」
「「「「えええぇーーー!!?」」」」
アシュレイの魂の叫びに…教室はかつてない混乱状態に陥ったのである。
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