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 休暇明けの学園にて。


「芸術祭…?」


「ええ、12月に行われるのよ。」


 聞きなれない催しに、ほ~んと声が出た。



 この寄宿学校で開かれる、文字通り芸術に関するイベントらしい。

 絵画、陶芸、彫刻のような作品を制作し展示するのと。

 演劇、歌、楽器演奏を披露する場合に分かれるとか。


「内容はクラスごとに決まっているの。私達は今年演劇に決まったわ!」


 握り拳のリリー。ほう…学園祭ってことだな!



 今日はクラス全体で話し合い。演目はすでに先生が決めてあるらしい。


 それは『月光の誓い』という聞いたことがあるようなタイトルの劇。美しいお姫様と…護衛である騎士の身分違いのラブロマンスであーる!!

 クラスの威信を懸けたこの演劇。小道具から演出まで最高のものにする!と皆張り切っているのだ。



「配役ですが、希望者によるオーディションで決めたいと思います。1人しかいなければ、その方に決定とさせていただきます。」


 ふむ…オーディションか!私は魔法を駆使して演出係になろうかな?

 でも折角だし、舞台にも立ってみたいなー…。



「ねえ、リリーはお姫様やるでしょ?」


「え、私が?」


 イエス。というか、このクラスでリリー以上にお姫様に相応しい令嬢はおるまい。

 綺麗な人は沢山いるけど、私にはリリーが最上の天使なのだよ!



「ほう…リリーナラリス嬢が姫か。では当然俺様が騎士という訳だな。」


「あ゛?」


「何故キレているんだお前は!!」


 おっといかん、反射でデメトリアスの胸ぐらを掴んでしまった。だが反省はしてない!!


「それなら騎士は私だよ!リリーは私が守るんだから!!」


「はあっ!?お前は女だろうが!!」


 だから何!?数年ぶりに宝塚モードアシュリィ発☆動!しちゃうよ!!



「あの~…私まだ、姫役やるって言ってないけど…。」


「はははは、面白い!!ならばオーディションにて白黒はっきりさせようではないか!!!まあ俺様の勝利は目に見えているがな!!」


「おうおう望むところじゃい!!」


 私とデメトリアスは火花を散らし、クラスメイトは遠巻きにしている。

 だが…ティモだけは、穏やかに微笑んでいる…。



「行くぞティモ!!今すぐ練習だ、何がなんでも主役はいただく!!」


 その言葉にもニッコニコで後を追う。彼らの主従関係…私と三人衆とも違う絆があるみたいね。

 まるでワガママな弟と、振り回される優しいお兄ちゃんみたい。




「……ねえアシュリィ?貴女とアシュレイで…姫と騎士になってはどうかしら?」


「「えっ?」」


 思わずアシュレイとハモり、顔を見合わせる。

 私はまだ…彼の告白に対する答えを見つけていない。でも…。



「わ…私は、まあ。いいけど…。

 っいや、私は姫ってキャラじゃないでしょ!?」


「……オレは、アシュリィが姫じゃないと、やらん…。」


 アシュレイがプイッと顔を背けながら言った。んな…!


「(ア…アシュレイが、攻めた!?キャー!アルビーに報告しなきゃ!)」


 あれっ、リリーが勢い良く教室を飛び出した。この空気どうしてくれる!?


 アシュレイと…恋人役…?




『騎士様…初めてお会いしたあの日より、わたくしは貴方をお慕いしておりました…。』


『姫…!』


 この劇のラストは、月光を全身に浴びながら愛を誓い…キスをして終わる。当然キスの振り、だけど。


 アシュレイと…私が?



『アシュレイ…。私、初めて会った時から…あんたの事を…。』


『アシュリィ…!』



 …………ふぁーーーーーっ!!?



「む、無理無理無理っ!!!そんな演技したくないっ、やっぱ私は騎士になるんだからーーー!!!」


 きゃーーー!!想像だけでもう無理!!

 教室の扉を開けている暇もなく、体当たりで開けてダッシュで逃げる!

 こうなったら無心で練習だー!!!






「……そんなに…オレと恋人役は…嫌なのか…。」


 オレはがっくりと肩を落とした。オレの片想いってのは分かってたが…ヘコむ。

 するとランスとミーナが、両側からポンっと肩を叩いた。


「アシュレイ。さっきのアシュリィ様の言葉だけど…。

 偽物の恋人になるのが嫌なだけ、かもしれないぞ?」


「そうですよ!ほらアシュリィ様、ただの演技なら割り切りそうじゃないですか。」


「………!」


 そ、そうかな?それはつまり…本気でオレのことを考えてくれてるんだな!?


 よっし!と強く拳を握り、オレも教室を出る。

 アシュリィが粉砕した扉を踏み越えて。打倒魔王陛下!を掲げて鍛練あるのみ!!




「………教室の扉無くなった。なんで誰も何も突っ込まないんだ…。」


「ふふ…アシュリィ様は相変わらずお元気ですね!」


「ミーナもそっち側かあ…。」






 それから数日。本日は配役を決めるのだが…。


「「えええーーーっ!!?」」


 騎士役は私とデメトリアスがエントリー。あのやり取りを見ていたせいか、他に名乗りを上げる者はいなかった。

 姫も同様、リリーが出ると噂になったのか、挑む女子はいなかった。


 それはいい、んだが!!



「なんでリリーは悪役魔女なの!?」


「楽しそうだもの!」


 そそ、そんなあ…!こんなとこで悪役根性発揮しないで!

 どーすんのこの状況、姫不在じゃん!リリーは魔女で確定してしまった…誰か、姫やって!!まだ役決まってない女子!!



「わたくしはちょっと…オホホ。」

「殿下方のお相手役には…荷が勝っているといいますか…。」


 という反応がほとんど。じゃ、じゃあ、ミーナ!


「すみません…私は演出係で決まってるんです~!」


 フラれた!

 従者達に無理は言えない…うーーーん…。



「どーすんのデメトリアス!?」


「どうもこうも…。

 アシュリィが姫をやるしかないだろう。」


「「えっ?」」


 思わず目が点になり、アシュレイと共に抜けた声を出す。

 その様子にデメトリアスは、呆れたように言葉を続けた。



「女子は全員拒否だろう、お前以外。それとも男子に女装させるか?」


「そ…れは。ってデメトリアス、貴方はリリーのお相手役をしたいんじゃなかったの?」


「それもあるが…俺様以外、主役に相応しい男がいないだろう!」


 つまり、姫は誰でもいいのね?



 えー…どうすっかな。




「そそそ、そんな…!

 先生!!オレも騎士役エントリーします!!」


「アレンシア君…その。もう締め切っちゃって…。

 決まらなかったら、もう1度募集する予定だけど。」


「うそぉ…。」


「アシュレイしっかり、気を確かに!」


「俺の声が聞こえますか!?」


「あわわ、全身が痙攣を起こしてます~!!」




 なんかリリーと三人衆が賑やかだなあ。

 デメトリアスと恋人役かー。

 アシュレイだと意識しちゃうけど…デメトリアスなら気楽ではあるね。


「仕方ない…柄じゃないけど、深窓の姫君役を引き受け」


「オレが女装するからあっ!!アシュリィの恋人になりたあああああい!!!」


「「「「えええぇーーー!!?」」」」



 アシュレイの魂の叫びに…教室はかつてない混乱状態に陥ったのである。


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