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「バーーーカ!!アシュリィなんて大っ好きだ!アホ、タコーーー!!文句あんのかコラアァー!!」


「へああっ!?」


 おー、やってるやってる。

 大将はうつ伏せに倒れて泣き叫んでいる。成人迎えた男がよ…今まで溜めてきた感情が爆発してるな。



「あの…アシュレイ…その、」


「!!う……うああああああっ!!!」


 あ、逃げた。お嬢は置き去りにされ、伸ばした手が行き場を失くしている。


「…好き?私を…?」


 お嬢はその場にへたり込む。何かブツブツ言っているが聞こえねえや。



 ちなみに俺らは現在近くの岩場にいる。パリス達から事情を聞き、こっそり覗き見をしていたのだ。


「ふ…ふふん…っ!アシュレイ、やっちゃったなぁ…っふぅん。」


 子供達とヒュー卿は超笑いを堪えている。特にアイルは我慢しすぎて顔が紫色になってるわ。

 っていうか…どういう誤解から大将が俺に惚れている流れになったんだ?従者達はその辺は教えてくれなかったが…オエッ。



「ふふっん…ぼふぉっ!」


 ん?岩を挟んだ向こう側に…腹を抱えた魔王と四天王がいる。


「ひぃ…ははっ。アシュリィはああいう子が好きなのかな。」


「血筋ですねえ、陛下。」


 血?どういう事だ?



「やあ、トレイシー。いやね、シルビアさん…あの子のお母さんなんだけど。」



 魔王陛下は語ってくれた。

 この5人は成人して魔国を出て、200年程世界中を旅していた。

 そして約40年前ベイラー王国で、当時4歳の奥方と出会った。


「シルビアさんは山中で彷徨っていた。置いて行かれたって本人が言ってたから…口減らしに捨てられた可能性が高くてね。

 放っておけないから、どこか孤児院に預けようとしたんだよね。でもついて来たがった。」


「あの頑固さ、アシュリィ様にしっかり受け継がれていますね。」


「違いないな。」


 彼らは声を上げて笑った。魔族にとっちゃ…40年前なんてつい最近なのかもな。



「どうしても追い掛けてくるから、仕方なく連れて行った。

 でも、いつまでも一緒にはいられない。シルビアさんが13歳の時、僕達は魔国に帰るって言ったら一緒に行くって聞かないんだ。そして…」



『駄目だよ、君は人間の国で幸せになるんだ。』


『やだ。行く。絶対行く。連れてけ!!』


『もう!聞き分けのない子は嫌いだよ!』


『ハアァ~!?こっちは大好きですけどお!?リャクルさんのお嫁さんになりたいんですけどおお!!?』


『えー…じゃあ結婚する?』


『うんっ!!♡♡♡』




「…てな感じで、彼女が18歳になるのを待ってから結婚したんだー。

 好きですけど、文句あんの!?って感じに超ブチ切れながら告白されて、可愛いって思っちゃったんだよね。」


 …なるほど。でも結局…魔国を飛び出したんだよな?


「…そこが難しいとこだよね。魔族ぼくらにとってさ、恋愛って人生において重要じゃないんだ。

 僕はシルビアさんを愛していたけど。離れるって言われたら…「そっか、元気でね」ってなっちゃうんだ。一緒にいなくても、どこかで幸せでいてくれればいい。

 だからさ、恋の駆け引きとかも出来ないんだよね。僕ら単純馬鹿だから、言われた事をそのまま受け止めちゃう。

 更に言えば伴侶より子供の方を大事にするんだ。」


 それであの溺愛か。お嬢は混じっているせいで、感性がやや人間寄りらしいが。



「結婚ね~…」


 俺もそろそろ嫁探すかねえ。自分で言うのもナンだが、結構モテるんだぜ…んあ?


「……………。」


 パリスが無言で手を繋いでくる。めっちゃ頬膨らませて…突つくと空気が抜けた。ふはっ。


 いやまあ、気付いてるとも。これでも察しはいい方だ、好かれてる事くらい分かる。でもなー…お嬢もだけど、歳が離れすぎてんだよな。どうすっか…。



 まあひとまず、俺は大将を追っ掛けてみるか。面白い事になってそうだし。その前に、と。


「よっ!モテるねえお嬢さん!」


「…か、揶揄わないでっ!こっちゃ本気で戸惑ってんぞ!?

 アレだな。『ショタだと思っていた隣人に数年後再会したら高校生になってて、熱烈なアタックに翻弄されるアラサーOL』ってこんな気分なのかな…?

 アシュレイとか全然考えてなかった…。」


 何言ってんだコイツ?でも…脈アリっぽいな。よかったじゃねえか、大将!






 さーて、どこかな~っと。俺の勘が正しければ…いた。アルバート殿下の部屋に。


「何やってんのこの子。急に入って来てすんごい泣いてるよ?」


「…ひっく。うぇ…ぐす…えぐ…」


 おっ、リリーナラリス嬢もいる。こっちのカップルもお熱いねえ。俺は丁寧に説明してやった。



「え…じゃあ。貴方勢いで告白しちゃったの!?」


「あっはっはっはっ!!」


「うぅ~~~!」


 はー、涙で枕を濡らすって初めて見たわ。ぐすぐす言いながら情けないツラをしている。


「オレだってぇ…もっとちゃんとしたかった…!なのに頭真っ白になって…止まらなくて。

 夜景の見えるレストランで…薔薇の花束を渡して…見つめ合って…愛していますって言いたかったあ…!」


「「「(意外にロマンチストだ…)」」」


 何年も考えていた告白大作戦を自分で台無しにしてる。哀れな。

 体がデカくなっても腕っ節が強くなっても、落ち着いてもヘタレっぷりは治んねえんだな。仕方ねえ、人生の先輩が手助けしてやりますか!



「そっかー。俺もお嬢狙ってたんだよなあ。」


「はあっ!?」


 食い付き早っ。一気に涙引っ込んでら。


「あんないい女、滅多にいねえぜ?大将がヘタ打って混乱してるだろうし、付け入る隙はありそうだな~。いきなりベッドに誘っちゃおうかな~?」


「だめだ!!!嫌だ…嫌だ!!」


 布団も部屋も飛び出してった。最初から逃げんなよ…ヘタレめ。



「ねえトレイシー卿。」


 ん?リリーナラリス嬢が真面目な顔してる。


「本当に…アシュリィの事、好きなの?」


「…さあ?どうでしょうねえ。」


 そう返事をし、部屋を出た。

 嘘でも誤魔化しでもない。本当に分かんねえんだ。

 もしもあん時…初めて会った時。あの子が成人してたら掻っ攫ってたと思う。それくらいには好きだ。


「俺もあと15年遅く生まれてりゃあなあ。」



 そうすりゃもっと面白い事になってたかもな。ま…言っても始まらねえか。


 



 頑張れよ、大将!!

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