19


 ~遡ること約30分前~


「あれ、パリス。何ぼうっとしてるの?」


「アシュリィ様…アイルちゃん…ララちゃん…。」




 かくかくしかじか




「「「えええええ!!?」」」


 マジでえっ!?アシュレイが…トレイシーの事を!?


「正確には、ぼくと同じ人が好きなんだと叫んでいました。」


 うそん。…ちょっと…これは凛々の管轄ですわ。



 …そっか。そうなんだ…。


「…びっくりしたー。まあ愛の形は人それぞれだもんね!

 どうしよっかな、私はパリスを応援するつもりだったのに…困っちゃうね。」


「アシュリィ様…。」


 あはは。はは…は?はぉ~ん?

 いや、アシュレイはどんな人と結婚するのかなーとは思ってたけど。予想外というか大気圏外から飛来して来ちゃったな。


 …いや。昔は「活発な子のギャップが好き」って言ってなかった?トレイシーのギャップってなんだよ。ハゲに毛が生えた辺りか?



「…アシュリィ様。もしかしたら(いや絶対に確実に…十中八九)勘違いかもしれません。

 念の為アシュレイ様本人に確認しましょう。」


 アイル…。いや別に、私は…



「…うぃ~…魔族の体力半端ねぇ~」


「死ぬかと思った…」


 都合良くトレイシー、とヒュー登場!!今夕方だけど、朝から泳いでたんか?まあいい、トレイシー!


「あん?」


「貴方…アシュレイの事好き!?」


「は…?えーと…手のかかる弟みたいな…。」


 つまり好き!?はっきりしてよ!


「うぅ~…ん?どっちかと言や好きだろうな。」


 なんと…!


「つまり…相思相愛…!?」


「「何が!!?」」


 あわ、わわわ。困惑する大人2人は無視、ベイラーって同性婚出来たっけ!?

 私は昔からアシュレイを見てきた。優しくてヘタレだけど頼りになる男の子で、苦楽を共にしてきた。

 離れていた時期もあるけど…それでも大切な家族なんだ。彼には幸せになってもらいたいし、近くで見届けたい!!



「いいか、アシュレイを不幸にしたら許さないからな!?

 彼を泣かしていいのは私だけなんだから!お付き合いするなら、必ず私を通すように!!!」


「待て待てお前は何を言っている!?」


「トレイシー卿!?ウチの弟に何してくれてんじゃああ!!」


「はっ!?待っ、ちょ、だ…ドアホーーー!!!」

 


 アシュレイ!!あんたの本音を知りたい、本気で奴を愛しているのか!!

 確かに強くて格好良くて逞しくていい男だけど!あんたには似合わないっていうか…世間の目っていうか…お姉ちゃんは認めん!!!




 海岸沿いに走っていたら、蹲るアシュレイを見つけた。その目には涙が…

 そんなに、彼の事が好きなの?恋する乙女のように…夕日を見つめながらトレイシーを想っているの?



 このまま立ち去るべきだろうか。そう思ったけど…やっぱり本人の口から聞きたい。


 なので意を決して話し掛けた。すると顔を青くさせて、赤くさせて…忙しいやっちゃ。


 しかしこうして向かい合ってみると。夕日に反射して、彼の紫の瞳がキラキラと輝いている。

 吸い込まれそうな眼差しが照れくさくて、つい伏せてしまう。肩を掴まれ、アシュレイの顔が近付いた。…随分と精悍になったな…。


 ドキドキするけども、思い切って訊ねてみる。そうしないといけない気がするから。




「本当に…トレイシーの事が好きなの…!?」


「…………は?」



 アシュレイは目を真ん丸にして、ぽかんと口を開けた。いやほんと、ポカーンて文字が見えそう。



 それから15分程経った、彼はまだ呆然として動かない。仕方ない…。


「だからさ、あんたはパリスと同じ人が好きなんでしょ?あの子はトレイシーが好きなの。だから…」


「……はああ!?」


 やっと戻ってきた。


「待ってくれ、パリスは男だろ!?」


 は?いや…はっ?



「パリスは女の子だよ?」


「え?」


「は?」


「「あん?」」



 …………どういう事?

 落ち着こう、まず誤解を解こう…。



「どうして男の子だと思ったの?」


「…なんで男物の制服着てんだよ。」


「女子はワンピースじゃん。それだと尻尾穴の問題とか、スカート捲れたりしちゃうじゃん。だから特例でスラックスなんだよ。てかブレザーは女子のものだぞ?」


「…髪短いじゃん。」


「水が苦手だから、髪を洗う時間を短縮したいんだよ。」


「…む…胸、無いじゃん…。」


「…無じゃない、決して。貧なだけだ、オーケー?」


「…………………。」


「…え、そんだけ…?」



 あんな可愛い男がいてたまるか。ふふ…お馬鹿だなあ。


 アシュレイは動かず…徐々に顔を赤くさせた。



 え、じゃあ結局…あんたの好きな人って誰なの?

 パリスの近くにいる女性。まさかララじゃないよね!?駄目だぞ、あの子にはガイラードがいるんだから!



「……わあああああ!ばか、オレのばかああああ!!!」


「えええっ!?」


 なにごと!?突然奇声を上げて涙を流す。落ち着いて!!



「うるさい!ばか、バーーーカ!!」


 誰が馬鹿だ!!反論しようとしたら…




「うるっさい!!お前なんて、お前なんて……大好きだーーー!!!」




 …………は?



 

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