18


「じゃあ皆、それぞれ着替えて集合ね!」


 渡された…水着?パンツじゃねえか…に着替え、海岸で女性陣を待つ。

 魔王陛下、ガイラードさん、ルーデンさん、会長、ヒュー兄上は水泳勝負を始めている。いいなー…オレ泳げないんだよな…。騎士になると鎧で泳ぐ訓練もあるとか。



「…なあ、ディーデリック。アシュリィとデメトリアス殿下、仲良くなってねえか?」


「そうか?」


 そうだ。今まで顔を合わせりゃ睨み合ってたのに…急にフレンドリーになりやがって。

 ただでさえこのディーデリックだって強力なライバルなのに…!会長も。



 いい加減オレを意識してもらわんと。手遅れになる前に!



「それより…。」


 ?ディーデリックが気まずそうに顔を逸らす。


「そろそろだ…覚悟しておけ。」


 何を…と言う前に、アシュリィの「お待たせ~」という声が響いた。



 ……はあっ!!?


「お、おま…!!ななんてはしたない格好してんだっ!!?」


「予想通りすぎる反応ありがとうございます。」


 現れた女性陣は、胸と腰元を布で隠すだけ!!馬鹿たれ、旦那以外にそんなあられもない姿見せんなっ!!!

 オレはテンパってタオルでアシュリィを巻いた。多分顔は真っ赤だと思う。



「やっぱり恥ずかしいわ、これ…。」


「ほう…いい眺めだ、やるじゃないかアシュリィ。リリーナラリス嬢、よければ俺様と…」


「どこ見てんの!リリスに触んないで!」


「ちょっとお兄様、鼻の下伸ばさないで頂戴!」


「いてて、仕方ないだろうマルガレーテ!」


「予想通りの反応ですねー。」


「皆すぐ慣れるよ。アシュレイ、いつまでやってんの?」


 これでよし。が、アシュリィはすぐにタオルを取ってしまった!ひいい!



「準備運動を怠っちゃ駄目だよ~!」


 く…!アシュリィが手足を伸ばす度に、目が離せなくなる…。ちくしょう、他の男共に見せたくね…あ?

 どいつもこいつも…アンリエッタさんやリリー、ララに注目してる。それはそれで腹立つ。



「なんだ、アレンシアはあの凹凸のない身体が好みか?」


 む、殿下が絡んで来た。ふぃー…まあいい、アシュリィの魅力はオレだけが知っていればいいんだ!!


「やはり出ているほうが魅力的だろう。アンリエッタ殿を見てみろ、同じ女性とは思えんぞ。」


「いいえ、オレは…巨乳だろうが貧乳だろうが関係ありません。あのスラっとした手足、弾ける笑顔、微妙なくびれ、控えめに主張する胸が…!」



「お前らの頭をスイカにしてやろうか?」


「「すみません…。」」



 オウ…アシュリィのアイアンクロー久しぶり。



「ったく!では…突撃イィーーー!!!」


「「「おーーー!!!」」」


 あ!待って、オレもー!!




「こん中で泳げない人ー?」


 魔国組と殿下以外手を挙げる。パリスとドロシーさんは海岸で留守番か。


「デメトリアス泳げるんだ。」


「俺様に不可能は無い!」


「あそ。じゃあティモに教えてあげなよ。

 浮き輪で漂うのもいいけど、泳ぎたい人は教えるよ。」


 …じゃ、じゃあ…アシュリィに教えてもら…


「ディード、アシュレイ見てあげてよ。私はリリーに教えるから。」


 えー!?オレが絶望していたら、見かねたのかララが口を挟む。


「アシュリィ様、リリー様にはわたしがお教えしますよ!」


「そうね!ララにお願いするわ!」


「えー…?じゃあ…」


「僕はアリスと一緒に浮かんでるね。」


 アルはフェンリルのアリスを飼っている。今回もついて来たのだが、すでに浮かんでいる。


「…ジェイドには私が教えよう。」


「では俺はヨハネス様に。マルガレーテ様はアンリエッタさんにお願いしてよろしいですか?」


 ディーデリック、アイル!ありがとう、この恩は忘れない!!


「うーん…私は浮き輪とやらください。」


「俺も。」


「ミーナとランスはそっちか。私達余っちゃったね。じゃあ行こうか、アシュレイ。」


「おう、よろしく。」


 ああ…オレは今アシュリィと手を繋いでいる…!

 2人だけの時間…ずっとこうしていたい…。





「ねーねー。ジェイドとディーデリックはアシュリィ好きじゃないの?譲っちゃっていいの?」


「僕はとっくに諦めてますよ。彼のように魔王に宣戦布告する勇気も無いし。

 彼女とは友人として仲良くしていたいと思っています。」


「ん…もちろん好きだが。アシュレイが必死そうだからなあ…。

 それにお前達に聞いた話では、彼は幼い頃から一途だったというし。

 まあ私は…4~500年後でもいいかなと。」


「スケールが違うねえ。」



 なんかアル達の声が聞こえるけど集中。


 オレの手を引き微笑むアシュリィから目が離せない。昔から変わらない…いや、ずっと綺麗になった。

 この先も隣で、お前の笑顔を見ていたい。その為ならオレは…魔王陛下にすら打ち克ってみせる。


「ん、どうしたの?」


「いいや…オレ、頑張るからな。」


「…?」



 アシュリィに会えないこの数年、ずっと自分を鍛え続けてきた。次に会う時に…成長したオレを見て欲しくて。

 もう泣き虫で短気で怖がりなオレじゃないぞ。そして…この旅行中にオレは。



 アシュリィに…告白する…!

 


「…?(なんかアシュレイがさっきから百面相してる…面白~)」





 海から上がると、パリスがタオルを持って来てくれた。…前から思ってたんだけど。


「ありがとう、パリス。」


「えへへ。」


 こいつ…アシュリィに近くないか…!?

 アイルみたいに適度な距離を保てよ!男のくせに、いつもベタベタして!ララはいいけどお前は駄目だろ!


 が、アシュリィの可愛がっている従者にそんな事言えん…。オレ情けない。

 近くを通りがかったディーデリックに相談だ。



「パリスはアシュリィが好きなんだろうか…。」


「え?好きだろう。」


「こう、恋愛的な意味で!」


「…それは無いと思うぞ?」


 分からないだろ!?魔国は身分差とか気にしないみたいだし。アシュリィ好みの可愛い系だし!!オレ勝ち目無いじゃん!!


「(無いと思うんだけどな…)まあ確かに、パリスは好きな人がいるらしい。」


 !?そんな…誰かまでは知らんって、もう本人に確認するしか!

 その前に。周囲は誰もいない…よし。



「ディーデリック!オレは…アシュリィに告白するぞ!」


「そうか。」


 …そんだけ!?いや、もっとないの!?


「私に止める権利は無い。アシュリィがお前を選ぶなら…私はそれまでだったのだ。

 彼女は不誠実を嫌う。好意が無ければ友人であろうともキッパリ振るだろう。私も散々「貴方とは結婚しないよ」「兄にしか見えない」と言われてきたからな…。」


 ディーデリックは悲しげに笑った。そうか…。

 オレもたとえ振られても。諦められない…彼女の隣に立ちたい!!



「…私も人間のように短命だったなら。恋に一生懸命になれたのだろうか…。」



 その問いに対する答えを、オレは持ち合わせていない。無言で背中を向けて歩き出す。



 アシュリィ…オレは。

 初めて会った8歳のあの時から。ずっと…お前の事が好きだ。

 そう言ったら、お前はどんな反応をする?笑い飛ばされる気がするが…どうか、オレの気持ちを聞いてほしい。




 ん…?はっ!!パリス発見、しかも1人だ!!

 チャーンス!こっそり手招きし、彼の正面に向かい立つ!!


「どうかされたんですか?」


「パリス…お、お主は…」


「(お主て)」


「アシュ……すっ好きな奴がいるとはまことか!?」


「…うええっ!?なんですかいきなり!?」


 いいから答えて!!

 パリスは徐々に顔を染めて…両手で頬を覆い、口元を綻ばせる。尻尾を揺らし、耳を後ろにぺたっと寝かした。


「…います。誰かは、秘密です。」


 ぐ…!いや、想定の範囲内だ。

 じゃあヒントくれ。どんな奴だ!?


「(アシュレイ様、恋バナ好きだったの…?)んーと…優しくって格好良くて、頼りになる人です。」


 アシュリィじゃねーか!


「いい匂いがして、笑った顔は可愛くて、仲間想いで。」


 アシュリィじゃねーか!!


「すっごく強くて、男らしくて!」


 アシュリィしかいねえじゃねーか!!!



「ちくしょおおお!!オレだってあいつが好きなんだからな、ぜってー諦めねえぞ!!」



 うわああああん!オレは居た堪れなくて泣きながら逃げた。

 次に泣く時は、アシュリィに想いを告げる時って決めてたのに…!!わああああぁぁ!!



「…え。へ…?あなたも…が好きなんですか…!?」






 ぐすん。誰もいない砂浜で膝を抱える。

 太陽が水平線に沈んでいく…オレの気分も…はぁ。



「…アシュレイ」


 !?アシュリィ…!


「…パリスに、聞いたよ。」


 え…言っちゃったの!?そんな…!オレからちゃんと言いたかったのに!


 血の気が引く感覚を覚えるが…アシュリィは隣に腰を下ろしオレを見つめる。

 眉を下げて切なそうな表情だ。まさ、か。



「アシュリィ…?」


「……………。」



 お前の頬が染まっているのは、夕日のせいか?それとも…


 オレと…同じ想いなのか…?



「アシュレイ…。」


「……!」



 目を伏せて両手を胸に当てている。可愛い。

 オレの心臓がうるさいくらいに鳴っている。頭が真っ白になって、無意識に彼女の肩に手を置いた。このまま、抱き締めてもいいだろうか…。



「……アシュレイは、本当に…」



 ……!




「本当に…トレイシーの事が好きなの…!?」





 …………は?

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