17


 一瞬にしてディスター城に到着!!

 皆お邪魔しまーすと挨拶をして、城を興味深そうに眺める。お父様は仕事ガンバッテね。「そんなー!」



「ガイラードさん。お久しぶりです!」


「ああ、アシュレイ。鍛錬は続けているか?」


「はい!後ほどお手合わせお願いします!!」


 おっとガイラード登場。折角なので男性陣は兵士の訓練に参加するらしい。

 では女性陣はこちら、私のお部屋にご案内!



「わあ…お部屋の装飾も、王国とは全然違いますね!」


 目を輝かせるミーナの影をじっと見つめる。動いた…いるな?そろっと近寄り、影を繋げる。


『ミーナ様いる所に影いますでーす!ていうかなんでシャリオン家に来てくれなかったんですかー!?』


 だってー。まあ好きに見て回ってよ。

 アンリエッタとドロシーも入り、こちらは女子トークを楽しむ。主に水着の相談だが。



「何よこれ!?ほとんど下着じゃないの!」


「水着だもん。リリーはこっちのビキニ似合うと思うよ~。」


 うーん、赤面するリリー可愛い。というかここには現在、タイプの違う美女美少女大集合で眼福眼福。それぞれに似合いそうな水着を用意するのたーのしーい!



 海に向かうのは明日、滞在予定は2週間。それ以上は転移の魔法陣を維持してる人が干からびかねない。




 お昼の時間になり男子チームと合流。皆ボロボロになっており、アルは魂が抜けている。


「僕、武術は専門外なのに…。」


「アルビー、大丈夫…?」


 リリーに膝枕されてめっちゃ鼻の下伸ばしてる。放っておこう。

 ってトレイシーは?デメトリアスとティモも見当たらないけど。


「会長ならガイラードさんに捕まってる。デメトリアス殿下は自主的に残ってるみたいだな。」


 ふむ…気になるので、皆にはランチにしてもらって1人で練武場に向かった。そこには…




「うおっ!?やべっ、はええ!!」


「…!重い、やるな!!」


 トレイシーは自慢の戦斧を振り回し、短剣のガイラードと一進一退の攻防を繰り広げている。頑丈だな、あの短剣。


 ガギン!ヒュッ、ガァンッ!と、斧を振る度風圧が凄まじい。トレイシーって本当に人間かな?

 …逞しい太い腕、長い四肢。戦闘時の獣のような目に、汗を拭う仕草…格好いいと思ってしまう。…っといかん、見惚れてる場合じゃないわ。



「…………。」


 離れた所にデメトリアス発見。背中にティモをくっ付け拳を握り、2人を睨んでいる。



「ひー、魔族半端ねえ。」


「いや、お前も人間とは思えない強さだった。」


 ガイラード達は健闘を称え合う。ん…そこにデメトリアスが近付き…トレイシーに何か言って…すごすご去って行く…?



「彼、今なんて言ってたの?」


「ん、お嬢か。いや…強さを求める理由を聞かれた。」


 まだ聞いて回ってんのかい。で、なんて答えた?


「生きるため。」


 …そっか。



「しかしアシュリィ様。やはり彼は惜しいですね。自分の強みが分かれば、もっと強くなれるでしょうに。」


 え、デメトリアスの事?どうやら彼は基礎や体力、身体能力は素晴らしいと。

 そしてガイラードの見立てでは…剣よりも、槍なんかの長物の方が合っているのではないかとな?


 でもなー。目立ちたがりで格好つけの奴だ。槍は地味とか思ってんじゃ…………そうだ!!



 思い付いた、デメトリアスにぴったりな武器!!ようし、壊れた剣とか集めて…錬成!



「これは…槍ですか?」


「こっち側は斧っぽいな。」



 うっふっふ。これは…ハルバードだ!!!



 懐かしいなあ、愛斗がハマったバトル漫画の主人公が使ってたんだよなあ。

 基本的には先端の槍部分による突きで、状況によって横の斧の部分で叩き割る戦法も。斧の反対側、鎌で敵を引っ掛ける事も可能。

 しかし扱いが難しいらしく、作ったはいいが使えるかなあ?一応刃は潰してある。


「貸してみ。…ふーん、こりゃいい。」


 トレイシーが奪い、ヒュンヒュン振ってみせる。簡単に使い方を説明するが、結構サマになってるわ。


「うし。ガイラード、いっちょ相手頼む。お嬢は殿下を呼んで来てくれ。」



 任せろ。彼が去って行った方向を追うと…いた。人気の無い洗濯場の裏で、剣を振り回している。

 特訓を見られたくないだろうし、ここは演技しますかね。



「デメトリアス~、どーこー?」



 わざと大声で呼べば、彼は剣を放り投げて平静を装った。

 頃合いを見て「いた!」と近付く。なんか用かと睨まれたので、有無を言わさず連行した。


「貴様、なんのつもりだ!?」


「いーから来なさいっての。」




 練武場に戻るとトレイシーはすぐ気付き、ちょっと見てろと言う。

 お?ガイラードは剣に持ち替え…2人は同時に地面を蹴った。


「はっ!」


「っくぅ…!」


 トレイシーの鋭い突きをガイラードが剣で受け止め、素早く回り込み距離を詰める。

 だが柄をぶん回し剣を払い、そのまま後退った。

 もう一度ガイラードが迫るも、今度は斧のように振り下ろす。間一髪避け、剣がトレイシーの喉元に…!


「おっとお!」


 す、すげえ!避けて突いて薙いで飛んで殴って、ハイレベルな戦いが目の前で!思わず手に汗握る名試合!!

 最終的にはガイラードの勝利に終わるも、大健闘だよトレイシー!?



「すごい…!」


 デメトリアスも目を輝かせている。これは…いい傾向か…!?


「ふー。」


 トレイシーは荒れた呼吸を整え、ハルバードの持ち手部分を布で拭いてからデメトリアスに差し出した。


「殿下。こちらの武器は…アシュリィ様が貴方へと拵えた物です。」


「は…?貴様が、俺様に…?」


 イエス。余計な事するな!とか文句でも言われるかと思ったけど…デメトリアスは素直に受け取った。ちょっとびっくり。



「…これはハルバードって武器だよ。使い方は…」


 私が説明して、トレイシーが実際に振ってみせる。

 次、振ってみるよう渡すと…



「ふっ!!…はあっ!」


「「おお~~~!」」


 パチパチパチ、思わず拍手してしまう。すごいじゃん、形になってる!

 ランチを終えた面子もやって来て、ハルバードを見てテンションアゲアゲ、男の子よの~。

 アシュレイが相手して、ルーデンも指導してくれて。アルはあっさり負けて、女の子は応援をする。


 少し仲良くなれた気がする。実は無理矢理連れて来ちゃったの、悪かったなーと思ってたけど。予定あったかもしれないのに来てくれて、本当は優しい人なのかな…?


「ん?」


 ティモが袖を引っ張る。筆談か、何…



【ありがとうございます。デムのあんなに楽しそうな顔は初めて見ました】



 デム?彼はそれだけ見せると、頭を下げて離れた。

 ただの従者にしては…随分と砕けてるな…?



 私の困惑など関係なく、デメトリアス達は楽しそう。

 どうやら今後はトレイシーを師とする方向のようで、アシュレイと兄弟弟子ですね!と笑い合っている。



「素敵です、デメトリアス殿下。」


「リリーナラリス嬢。どうだ?俺様に惚れ直したか?」


「最初っから惚れてないよっ!!」


 あっ。アルの踵落としが炸裂した!その時、デメトリアスと目が合った。なんとなく、逸らさずにいたら…



 ありがとう



 と、彼の唇が動いた。

 見間違いかと思ったが、珍しく赤面しているので正しいのだろう。


「…何笑ってんだ、お前?」


「んー?ひみつ!」





 夜、デメトリアスが1人でいるのを発見した。

 星を眺めているようで、寝巻き姿で外にいたのだ。


 わざと足音を立てながら近付く。一瞥されるも、彼は動かない。


「「…………。」」


 並んで空を見上げる。今までなら「用が無ければ失せろ」くらい言われてたろうに。




「…美しい星空だな。」


「うん、私もそう思う。

 …前にも聞いたけどさ。どうして貴方は強くなりたいの?」



 今なら素直に教えてくれそうな気がした。

 彼は剣だけでなく、魔法でも1番を目指そうとしている。んなモン土台無理な話。超強いトレイシーだって魔法はからっきし。どうして、そこまで?



「…俺様からも質問だ。お前は従者達をどう思っている。」


 なんじゃそら。前にも言ったけど、馬鹿にするなら貴方相手でも許さない。私にとって大切な部下で、家族で、友人なんだから。



「…俺様はな。最初貴様は奴隷を好む女だと思った。」


「はあっ!?」


 見直したと思ったら、何を言うか!!

 反射的に胸倉を掴むも、デメトリアスは一切表情を変えない。

 ……落ち着け、私。もういい大人なんだから…冷静に続きを促す。



「知っているだろう。獣憑きとは迫害されるか、ほぼ愛玩用の奴隷だ。

 だから…貴様は他人から趣味だと思われているぞ。」


「…あ!貴方初めてパリスを見た時に顔を歪めたの…そのせい!?」


「よく覚えているな。」



 ま じ か !

 じゃあ私、奴隷を連れ歩く嫌な女だと思われてる!?


「少なくとも俺様はそう感じた。魔族殿は随分悪趣味だな、と。」

 

 うわ、へこむ…!街を歩いてる時、たまーに嫌な視線を感じたのもそのせいか!!

 パリスには不快な思いをさせていたんだな…謝らないと…。


 でもあの子を隠すような真似をしたくなかった。私の…可愛い従者なんだもの。


「守っているつもりだったけど…自己満足だったのかな…。」


「…俺も…」


「え?」


「最初は。ただ…ティモを守れる強さが欲しかった。それだけだった、はずなんだ。」


 それがどうしてこうなったんだろうな、と彼は自嘲気味に笑った。その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。


 それ以上は何も語らず城に入って行った。ほんの少しだけ…彼の本心が垣間見えた、かな…。

 私も戻ろう…。





「パリス~!!今までごめん!!」


「へあ?どうしたんですか…?」


 寝る前に、パリスを抱き締めながら謝罪する。事情を話すとパリスは軽快に笑った。なんで!?


「…貴女と出会うまでは、沢山嫌な思いをしてきました。苦しい、死にたい、生まれてきたくなかった。そんな事ばかり。

 でも今は…貴女が可愛いと言ってくれるから。この姿で生まれて良かったとすら思っています。

 それに不快感なんて一切ありません。他人の視線なんてどうでもいいんです。

 ぼくを守ってくれる貴女が。一緒にいてくれるアイルちゃんとララちゃんがいるから。ぼくは今、とっても幸せです!」


「パ、パリスぅ~!」


 うわあああん!と情けなくも泣いてしまった。

 まだまだ子供だと思ってたけど…こんなに立派になってえ~!!


 ありがとう、私の大好きな友達。これからもよろしくね!


 それに客観的視点を教えてくれたデメトリアスにも、お礼を言わなきゃね。きっと「なんの事だ?」ってとぼけるかもしれないけど。



 次の日、早速デメトリアス発見!



「おはよう、デメトリアス。」


「ああ、おはようアシュリィ。」


「…昨日はありがとう。」


「ふん、なんの事か分からないな。」



 やっぱり!分かりやすいな貴方は!


 …ん?今、初めて名前を呼ばれた気がする。




「な、なな…!アシュリィ、いつの間に殿下と…!?」



 あ、いたんだアシュレイ。

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