15


「このボールは俺様の物だ!!邪魔をするなああ!!」


「こっちのセリフだよ!」


 

 おー、やってるやってる。

 アメフトの方はこっちチームの圧勝に終わり、アシュレイと共にサッカーの応援に来た。いやー、ナイトリーを撒くのに時間かかった…。


 アルとディードは敵だから、アイルとデメトリアスとランスの応援を…と思ったのだが。王族2人がすんげー張り切ってるようだ。



「…なあ、オレサッカーのルール詳しくないんだけど…なんか無茶苦茶じゃないか?」


「確かに…。」


 私もそれほど詳しくないけど。アシュレイとパリスと並んで観戦すること数分。なんか…全員めちゃくちゃな動きしてる。



「一切パスとかしようとしませんね…。」


「どいつもこいつも我こそは!ってボール追いかけてんな…。」


「ポジションとかまるで無いね…。」


 なんならキーパーもフィールド走り回ってる。何があった?



「説明致しましょう!」


「「「わあっ!!?」」」


 

 びっっくりしたあ!!いきなり後ろからマルガレーテが出てきて、心臓止まるかと思った…。


 そのマルガレーテ曰く。

 最初はルールに則って進んでいたらしいのだが…ほとんどの生徒が完全にルールを理解しておらず、何度も試合を止めるハメになった。


 そこで審判のトレイシーが

「面倒だから、エリア内でキーパー以外が手を使うのとラフプレーは禁止。それ以外は自由!!」

 というルールに変更したらしい。そこからもうこうなったとか。



「いやあ、その後大変でしたわ。

 それならば、とキーパーのディーデリック様がボールを抱えて相手ゴールに直接運んだり。流石にそれは駄目だ、と言われまして。普通にペナルティエリア以外ではキーパーも手を使ってはいけない、となりました。

 そしてラインの外では手を使っていいのでは?とアルバート殿下がわざと外にボールを出し、抱えて走ったり。それは先生に怒られていましたが。

 その後もちょくちょくルールを調整して、ようやく試合っぽくなりましたの。」


「なんだそれ…。」


「アメフトも少しだけルールは簡略化されてたけど…こりゃ…去年よりひでえ…。」


 そして今、ひたすら全員でボールを奪い合うというこの状況に落ち着いたらしい。

 小学生か。いや小学生でもちゃんとルール守るわ。なんで前もって勉強しとかない?


「この国ではあまりスポーツは浸透していませんから…このイベントも特に重要なものではないのですよ。」



 そういえば、練習時間も少なかったな…。

 全員ひたすら走り回ってるせいか、体力切れで倒れてる生徒も少なくない。よく見たらヨハネスも横たわってるわ。


 さっきからアルとデメトリアスがラフプレーギリギリのやり取りをしている。「貴様あああ!」「邪魔だってば!」「貴様には絶対負けん!」「僕だって!!」と。楽しそうだなお前ら。



 そういえばリリーはどこかなー?と思って探していたら…すぐ見つかった。




「アルバート様、頑張ってくださーい!デメトリアス様もー!!

 …リリーナラリス様は、婚約者だっていうのに、アルバート様の応援をしないんですか?」


「今の私達は敵同士。敵を応援出来ないわ。それにどちらも頑張れ、なんて…真剣勝負をしている者に対する侮辱だわ。」


「そんな言い方無いんじゃないですかあ?みんな頑張っているんだからみんな優勝、でいいじゃないですか。」


「それは貴女の考えよ。私に押し付けないで頂戴。」


「ふーん。

 どっちも頑張れー!!」




 おおう。撒いたと思ったナイトリーはここにいたのか…。さーて、どうするか。

 アシュレイが出て行くとまた面倒なことになりそうなので、パリスと一緒に残して私だけリリーの元に向かう。

 私に気付いたララが席を立ち、後ろに移動した。うんうん、リリーとナイトリーの間にいてくれたんだな。そして今度は私に押し付…託したな。

 そして私はナイトリーは完全無視してリリーに話しかける。



「リリー、今どうなってるの?」


「あらアシュリィ。見ての通り…89対76よ。こっちが劣勢ね。」


「何その点数!?点取り合戦じゃん!!

 まあいいか…デメトリアスー!頑張れ!!アルに負けんなー!!

 パスしろパス!!ランスがガラ空きだぞ!アイルも走れ走れ!!」



 私が応援を始めたら…リリーがくすくす笑ってた。令嬢として、あんまり大声を出すのははしたないって言われるけど…私にゃ関係ない。そーれ!


「ディード邪魔すんなー!!キーパーなんだからゴール守ってろ!

 デメトリアス、根性見せろー!!」


「ふふ…デメトリアス殿下ー、頑張ってください!」



「!!ああ、もちろんだともリリーナラリス嬢。アルには絶対負けな…あ。」


「私の声援は無視かコラあ!?ボール取られてんじゃないか、しっかりしろー!!」



 あんのクソ皇子、リリーの声援に応えようとしてボール取られてやがる。負けたらはっ倒す!



「わー、アシュリィ様女の子なのにそんな言葉使い駄目ですよう。」


 無視しろ私。


 私とリリーが一切無視して応援し続けていたら、「何それ、偉ければ他人を無視してもいいの!?ありえない!」と言ってナイトリーは消えた。

 いやよくは無いけどさ。私にも感情というものがありまして…やっと静かになって安心したわ。




 その後も点を取っては取られ、アルとかオウンゴールして「よっし!!」とか言っちゃう始末。アホか。

 最終的に102対97という結果に終わった。はい、こっちの負けです。

 でもアメフトとテニスでは勝ってるので…総合的にはうちの勝ち。ただ勝ったからといって何かある訳でもなし、ひたすら疲れただけである。



 でもまあ…面白かったよ。たまにはルール無用のバトルってのも悪くない。私達はプロじゃないんだしい。

 デメトリアスもこれを機に、勝ち負けにこだわらず試合を楽しむという…



「くそ…負けた!次は絶対勝つ…!!…違う!次なんて考えるから…!」


 駄目だこりゃ。彼は一体何と戦ってんだ…。


 皆でお疲れ様ーとかこの後どうするかー。なんて言いながら移動するのも、学生って感じでいいよね。ここが日本だったら、この後ファミレスにでも行く勢いだ。

 


「ええい!アルバート、次は俺様が勝つ!!」



 ビシっ!!とアルを指差しそう宣言し、デメトリアスは去って行った。そんなに勝ちたいんかい。




「いやー…次って来年だけど。僕もう卒業してるんだけどなあ…。」




 そんなアルの呟きは、彼に届くことは無いのでした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る