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「やっぱりさ、小説は冒頭に『この物語はフィクションです。実際の人物・団体・なんちゃらには一切関係ありません』って書くべきだよね。」


「どうしたんですかアシュリィ様、急に…。」


 今私は自室にて、三人衆と一緒に課題をやっているところだ。でも自分の分は終わったので、皆を見ている。

 でも皆優秀なので、私は本を読みながら時折口を出しているだけなのだが…。



「フィクション…作り話ですよね?そんな注意書きしなくても、普通に考えて分かるのでは?」


 アイルの発言に、ララもパリスも同意する。



「いやいや、そんなこと無いって。普通じゃない人ってのはいるもんよ、良くも悪くもね。

 まあこれ見てよ。」



 3人に、今読んでいる小説のあらすじを見せた。


 それは庶民として生活していた女の子が、母親の再婚により貴族の仲間入りをするもの。

 この寄宿学校のように学園に通うも、周囲からは庶民だのなんだの馬鹿にされる。それでも持ち前のガッツやら明るさやらで、なんやかんや頑張る。

 そんでその天真爛漫な彼女は、色んな闇を抱える男性を癒し、好意を寄せられ、最終的に王子様と結婚するらしいぞ。


 うん、お約束やらご都合主義全開の作品だけど…フィクションですから。でも…



「「「ああ~…。」」」



 ね、思うでしょ?勘違いしてそうな人がいるって。



「でも注意書きしても…読みますかね?わたしだったらスルーしちゃうかも…。」


「ぼくは…何当たり前のことを、って思うかも。」


「俺も同じく。というより、この物語の主人公はちゃんと努力してるんですよね?」


「まあね。努力してマナーとか貴族社会に溶け込もうと頑張ってるみたい。もちろん勉強だって。」


 誰かと比較する気はないけどさ。その誰かさんは自分に酔ってる感じするんだよね。





「それよりさ、ララはガイラードとどうなの?」


「ええ~!」


 そのまま恋バナ始まった。いやあ、私も女の子ですから~こういう話も割と好きなのです。



「えへへ~!ガイラードさん、わたしが学園を卒業しても心変わりしてなければ…受け入れてくれるんですって!!

 きゃー!!そんな心配しなくても、ララの心も体もあなたの物です!!

 体ですって!!きゃー!きゃあー!!」


「いてっいってえ!!」


 バッシバシとアイルの背中を叩きながら叫ぶララ。うんうん、恋する乙女だねえ~。上手くいきそうで良かった。


「ねえねえパリスちゃんは?好きなんでしょ?」


「ぶっ!!」


 急に話を振られたパリスは噴き出し、顔を真っ赤にして狼狽た。


「いや、好きっていうか…そもそも向こうはぼくのこと、そんな風に見てないし…!」


「何言ってんの!恋愛ってのは、アタックした方が勝つのよ!!ねえアシュリィ様!?」


「うん…相手が嫌がってなければね…。」


 何故かふいにアイニーを思い出した…アタックとは一歩間違えれば恐怖以外の何物でもないわ。

 にしてもパリスの好きな人か。確かにはあんまり意識してないねー……応援してるぞ!!


「アシュリィ様…!がっ、頑張りまーす!」


「いてててって!!」


 またアイルの背中が被害に遭っている。そのアイルは好きな人とかいんのかな?



「そうそう、アイルちゃんのそういう話全然聞かないよね。」


「だって俺、特に好きな人とかいないからな…。」


 つまらん。せめて好きなタイプとかないの?見た目の好みでもいいしさ。



「えー…。見た目は特に…性格は…頑張る人、でしょうか。」


 なるほど、曖昧だな!

 アイルはいずれ私の執事を辞めて、人間の国で暮らすことになる。その時誰か、彼の側にいてくれればいいんだけど。



「俺達より、アシュリィ様はどうなんですか?やっぱりディーデリック様とご結婚されるのですか?」


「そりゃ無いな。」


「断言されるんですね…。」



 正直、ディードは。彼のことが嫌いなんかじゃ無いしむしろ好きだけど…彼と結婚する未来がまるで浮かばない。

 婚約の話もあったけど、彼は世間を知らなすぎるから…ぶっちゃけ魔国に私以外の選択肢が無かったとも言える。

 全く無い訳じゃなかったけど、一番身近な異性が私だったってことだ。

 現にこの学園に来てから、一度もそういう話とかされてないし。


 実は魔族と人間の夫婦って多いらしいんだよね。ただ子供が授からないのと、魔族は若いまま残されるから…同じようにパートナーを失った魔族同士で再婚することが多いらしい。

 だからディードも…誰か人間の女性と結ばれるかもしれないね。ただアイニーやアンナ・ナイトリーみたいのだけは勘弁だけども。

 異性として意識してないにしても、彼は私にとってお兄さんみたいなモンだから。変な女に引っかからんよう注意せねば。




「…ん?」


「どうしましたか?」


「いや今、外…」


 現在時刻は午後7時。なんか窓の外に…




「おい!」



「「おわあああ!!?」」

 


 うっわ!カーテンを開けた瞬間、ディードの顔面が現れた!!思わずパリスと抱き合って逃げた。


「な、何してるんですかディーデリック様!?ここは淑女のお部屋ですよ、マナー違反ですー!」


 言ったれララ!何しに来たんだお前は!!



「何しに、ではない。デメトリアスの特訓、今日は6時からではないのか?」


「……今日はもうアシュレイと特訓中だよ…。ディードは明日のからだよ…。」



「………すまん、おやすみ。」



 そう言ってまた消えた。なんだろう、なんでたまにポンコツになるのかな奴は…?



「すっかり空回りしてますね。」


「アイル。どゆこと?」


「ディーデリック様は、気合を入れると空回りするみたいですね。それだけ殿下との特訓に力を入れていらっしゃるんでしょう。」



 なるほど。



 デメトリアスの特訓に付き合うようになって、1週間ほど過ぎた。



 それで分かったことは…彼は魔法はあまり得意ではない。いやあ精鋭チームに選ばれる実力と才能はあるんだけど、天才では無いってことだ。

 それを理解させるのに5日かかった…どんだけだよ。今はアシュレイと一緒に剣の特訓中である。んでもアシュレイ、人に教えるのは苦手らしい。やっぱ師匠が必要か…面倒見のいいディードなんかは結構相手してくれてるけど。



 まあ、私達がどこまでデメトリアスの事情に首突っ込むかが問題だな。今はなんとなく放っとけないからな…。




「………。」


「ん?パリス何か言った?」


「いえ、早く課題終わらせちゃいましょうか!」


 そういやそうだった。

 しっかしディード、もしや会話聞いてたか…?まさかねえ…。











「……あそこまで意識されてないとは思わなかったな…どうするか…。」



 どうやらガッツリ聞いていたようだが、私は知る由も無いのであった。


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