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「誰が馬鹿か!!馬鹿と言う方が馬鹿なんだ!!」


「ええそーですよ私は馬鹿でーす!!貴方の方がもっと大馬鹿だがなあ!!?」


「侮辱する気か、貴様!!」


「うるっさいわボケエ!!」


「この…っバーカ!!」


「バーカバーカ!!!」




 凡そ王族同士の会話とは思えない、頭の悪いやりとりをする私達。アシュレイともこんな低レベルな喧嘩したことないよ。

 先生も生徒もだーれも近寄ろうとしない、リリーに至ってはパリスと並んで観賞しておる。見せモンじゃないんだよ!




 そのうち揃って肩で息をして、ひとまず落ち着く。色々言いたいことはあるが…



「これだけは言っておく!!

 優先順位を間違えるな!!」


「は…?」


「この授業で!!試験に受かることと!目立つことどっちが大切なんだ!!?」


 私の発言に彼は目を丸くする。言っとくがどっちも、は無しだ。貴方にはそれだけの実力は無い。

 デメトリアスは、少しの沈黙の後「…単位」と答えた。分かってるんじゃん…。


「じゃあそうしなさいよ…私はもう行くからね…疲れた。」


「ああ…。」



 ほんと疲れた…彼が何考えてんのかまるでわからん。目立ちたがりなのかアホなのか。

 リリー達のところに戻ろうとする私に、後ろから「ちょっと待て」と声がかかる。まだなんか用かコラ。



「…お前は、強さを求めているのか?」


 もちろんですが?


「…それは、魔族の本能で?それとも…理由があるのか?」


 …本能…では無いな。



「んー…昔は大切な人を守りたくて。

 今は魔国を探検するため?そんでいずれテュポーンと勝負するため…かな?」


「は……?テュポーンって、あの…神に匹敵するほどの怪物のあれか…?」


「それだよ。魔国って未開拓地域が多くてねえ。前ちょいっと探検したら、うっかりテュポーンの領域に入っちゃって。

 折角だから挑みに行ったら…「小娘が、1000年早いわ」って門前払いにされた!

 余裕ぶっこいていられんのも今のうちだ!」


「なんだそれ…。」


 私は割と本気で言ったつもりなんだけど…なんか呆れられてる?いや流石に勝てるとは思ってないよ?でも今平和なこの時、強さを求める理由って聞かれたら…なんとなくそれが出た。

 もちろんリリーとか三人衆を守る力が欲しい!とも思うけど…そっちはもう達成してるし、私が守るだけじゃ意味無いし。



「逆に聞くけど、貴方はなんで強くなりたいの?」


「……なん、で…。だったん、だろうな…。」



 …はあ。全く…もう戻ろっと。



「最後に言っとくけど…別に目立ちたいから強くなりたいって、悪いことじゃないと思うぞ?

 ただしさっきも言ったように…優先順位だけは間違えるな。」



 ビシィ!!と指を指し言ってやった(※人を指差してはいけません)。彼は私の発言に対し、無言で背中を向けた。

 その隣で、ティモが私に頭を下げる。





 結局デメトリアスは、普通に合格してた。



「さっき、すごい言い争いしてたわね。」


 リリーが楽しそうにそう言う。すごいって、どういう意味っすかね??


「そうそう、殿下が私に「何故強くなりたいのか」って聞いてきたわ。」


「ぼくも聞かれました。」


 へー。手当たり次第に聞いてんのかな?授業も終わり、教室に戻りながら雑談をする。いつの間にか話題はデメトリアスについてになっていた。



「そういえば殿下、最近姿見えないじゃない?剣の特訓してるって噂よ。」


「アシュレイ様に負けたのが悔しくて、こっそり鍛錬してるらしいです。噂ですけど。」


「へえ…。」



 その噂、多分合ってる。いつも疲れてるし、服汚れてるしたまに怪我してるし。



「頼られれば…特訓の相手ぐらいするのにね。」


「そうよねえ…多分、アルビーもアシュレイも相手してくれると思うけど。」


 ティモが相手じゃなければ…1人で特訓してるんだろうな。そんなんじゃ上達しないよ…。


 …仕方ない、少しだけお節介焼くか…。








「という訳だ。」


「どういう訳だ。」


 現在放課後、デメトリアスの尾行中☆

 メンバーは私、アシュレイ、ディード。彼の性格からして…正面から手伝ってあげよう!と言っても逆効果だろうし。まずは偵察だ!


 彼らが向かった先は…人気の無い裏庭?程よい広さで、よくこんな穴場見つけたな…。




 デメトリアスはまず素振り。型の練習。実戦は…ティモが作ったゴーレムが相手らしい。



「……勿体ねーな…。」


「ああ…。」


「だよねえ…。」


 聞こえないように、ヒソヒソ話す。

 やっぱり相手が単調な動きしか出来ないゴーレムじゃ、特訓にはならないよ。精々硬い相手を崩す練習なだけ。

 彼はまだまだ強くなれるはず。環境さえ揃っていれば…。



「そういえば、デメトリアスに強さを求める理由を聞かれたな。」


「え、ディードも?アシュレイは?」


「んー…前聞かれたな。」


 へえ…自分の答えを探してるのかな。他人に聞いたって、わかる訳ないのに。






 ともかく、この日は少し見学して帰った。

 そしてその数日後、状況が一変する。




「デメトリアス様~!昨日見ちゃいましたよ、いつもお1人で特訓されてるんですか?

 格好良かったです♡今度から、応援してもいいですか?」



 ナナンナナイトリーーー!!!?

 現場は学食(という名のレストラン)、多数の生徒が一堂に会する場所。そんな所で…私達とは少し離れた席で事件は起きた。



「こっそり努力するなんて…すっごく素敵です!私じゃお相手は出来ませんけど…差し入れとかさせてください!」




 やめろ馬鹿ーーー!!!


 ああいう努力を隠すタイプは、それを暴かれるのを殊更嫌うんだよ!!!しかもプライドの高い彼のこと、こんな大勢の前で…!!

 私と一緒にいるいつものメンバーも絶句してる。どうすんだよこの状況!!?他の生徒達も騒ついてるし…!!


「やっぱアレンシア様に負けたから…」とか聞こえちゃってるう!

 ほら見ろデメトリアスの顔!!顔色こそは通常通りだが、額に青筋立ててるし眉間のシワの彫りが凄まじいことになってる!

 ティモなんかは真っ青だ、ど、どうしよう…!?



 そんな中、真っ先に動いたのはアルだった。



「やー、昨日はごめんねデメトリアス。いつも僕の練習に付き合ってくれてるのに…急用が出来ちゃってさ。」


「は…?」


「今日は大丈夫だから!いつもの場所で、よろしくね。」


 アルはデメトリアスの肩に手を置き、なんでもないように言った。…よし!!



「そうだよ~。今日はアルがいないって、私に声かけてくれればよかったのに!

 いっつも男同士で特訓して~!たまには華を添えてみない?」


「え、どこに華が??」


 はっ倒すぞ!!!



 アルは肩を組み、私は腕を組み「アハハ~!」と無理やり笑う。「は?え?」じゃねえよ、合わせろボケエ!!



「え、ええ~そうなんですかあ…?でもでも、私もご一緒…」


「悪いけど、応援は間に合ってるから。」



 アルがズバッと言い放ち、「折角だから一緒にご飯食べよ~そっちの彼も」と私達の席に連れ込んだ。



「あ、私もご一緒していいですか?」



 ファーーーーー!!!??




「お断りするよ。」



 アルは誰も席に近付けないように、結界を張った。そんで周りに会話を聞かれないよう遮音する。

 ナイトリーはなんか言ってるようだけど…聞こえませーん。



「そういう訳だから、今日から私達も特訓に加わるぞ。」


「どういう訳だ!というより、なんで知って…!」


「結構噂になってますわよ。」


「んな…!?」


 彼は頭を抱えた。だがティモは嬉しそうな顔をしている。

 この大勢の前で言っちゃったんだから、観念せいや。



 そういう訳で、私達は皆で特訓することになったのでした、ちゃんちゃん。





 でも…ナイトリー、何考えてんだ…?

 実はアイルにこっそり調べてもらったんだけど…彼女は顔が良い高位貴族の男性に声をかけまくっているらしい。


 何か目的があるのか、ただの男好きか、救いようのない阿呆か…いい加減大人しくさせるしかないかなあ…?

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