第61話


 

 オオオオオオオオオオオ!!!



 …盛り上がってるなー、会場。さっきの子だろうか。…集中!!助けたければ確実に任務を遂行する!!

 当然裏方にもスタッフが多数いる。さっきの子には悪いが、なんとか時間稼いでくんないかな。あの盛り上がりならすぐには決まらないだろうし。私はまず、落札済みの部屋に侵入。見張りを眠らせる。



『眠れ』



 この眠りの魔法、自分よりレベルが高い相手には効かないらしい。私で言えばレベル11以上の相手には効果が無いが…そんな人間いないらしいし!

 さて、見張り2人が寝たのを確認して商品を一か所に集める。これに結界と場所特定の魔法をかけ…これでこの建物が倒壊しようとも、商品は無事だし見つけられる。


 …月光の雫。以前見た時は白銀に輝いていた刀身は、錆び付いて薄汚れている。本来なら、こいつが覚醒する事など無ければいいのに…近いうちに目を覚ますんだろうな。…こいつだけ今持って行こうっと。見張りが起きる前に移動しよ。



 そして月光の雫を抱えたまま移動する。道中のスタッフには触れぬよう気を付けて…建物内の見取り図通りなら、この部屋に他の商品はあるはず。さっきと同じようにドアを開け見張りを眠らせ、中に入る。

 そこには、色とりどりのお宝と…人間。



「う…ぐすっ…おかあさあん…。」


「…………。」


 2人だ。どちらも服を着ておらず、首輪を着けている。泣いてる子と諦め顔の子。この場を保護すれば私の仕事は終わり、透明化を解き彼らの前に姿を現す。


「ひいっ…あなた、だあれ?」


 めっちゃ可愛い女の子だ!いきなり姿を現した私に驚いたが、同じ子供だと気付いて安心してくれた。



「助けに来た。ちょっと待ちなさい。」


「……どうすんだよ」


 諦め顔の男の子が答えた。良かった、ちゃんと意思はあったか。


「ひとまず首輪取るか。…魔法は効かないみたいね。」


 隷属の首輪。本で読んだが、この国でも奴隷が認められていた数百年前までは使われていたらしい。主人の命に逆らえない、居場所特定など様々な効果がある。胸糞悪い代物だ。


「この首輪は対魔法の効果がある。鍵が無けりゃ外せねえ。…いいからお前は逃げろ。同じように捕まりてえのか。」


 この状況で私の心配か…はあ、優しい子なんだな。この子は。でもまあ、魔法が効かないんじゃ仕方ない。


「そうだよう…早くあなたは逃げ…え。」


「え。」



 バキイッ!!!



「魔法が効かなければ、物理で引き千切れば良くない?」


「「………。」」


 呆然とする女の子の足下には、真っ二つになった鉄の塊。別に特別なことはしちゃいないよ、両側から引っ張っただけ。結構脆いね。


「んな訳あるか…。」


 男の子の方も同様に千切った。そしてカーテンを取り2人に巻き付ける。ちと汚いが、今は我慢してくれ。



「じゃあ私は行くね。この会場は今からパニックになるけど…この部屋にいれば絶対大丈夫だから。また、後で会おうね。」


 2人にそう言い残し、眠らせた見張りを引き摺り部屋を出る。今度は部屋全体に強力な結界を施して…と。少し騒がしいな。やっと敵さん異常に気付いたか、いっちょやったるかあ!!!




 私は魔力を手に集める。魔力の刃を飛ばす時の要領だが…より多く、より圧縮して。魔力が目に見える程に濃くなってきた頃…



「おい!そこのガキ何してやが…」




 ———投げる!!!



「喰らいやがれえええーーー!!!!」


「な——…」


 

 圧縮した魔力は…爆弾のように破裂する!!!








~トレイシーside~




 心なしか舞台裏が騒がしい。そろそろお嬢の仕事も終わる頃か…俺も準備しねえと。

 と、やたら慌てたスタッフが司会に近付く。俺は耳がいいので、この距離なら奴らの会話は丸聞こえだ。



「なんだ、今一番の盛り上がりなんだぞ!!」


「それどころではありません支配人!!裏で…」




 ドガアアアアアン!!!



 ——合図!!


 会場が大きく揺れ、俺はステージに跳ぶ。そして俺愛用の武器、戦斧を取り出した。俺の身の丈をも超える、デカい斧だ。どこに隠してたかって?魔法で縮めてたんだよ。

 魔法は苦手な俺が唯一得意とする、物質を小さくする魔法。ただし大きくは出来ないし生き物も無理。更に重量は変わらないから、クソ重いことこの上ない。慣れたが。


 その戦斧でまず、檻をぶっ壊す。競りにかけられた獣憑きの子供を最優先に保護する。獣憑きとは、呪われた人間のことだ。正確には呪われたのは本人でなく先祖だが。

 まあ今はいい。子供に上着を被せて抱え、斧をステージ上に叩きつける!!


 

 ズガン!!!


「きゃあああああ!!!」

「うわあああ!警備、警備はどうした!?」

「取り押さえろ!!」


 状況を理解出来ていなかった観客共が騒ぎ出す。そして警備共が俺を取り押さえようとするが…遅えんだよ。

 俺に向けられるいくつもの剣。それを腕ごとぶった斬る。相手は何が起きたか理解出来ておらず、数秒遅れて奇声をあげる。



「ぐ、ぎゃああっ!!」

「があああ…!!」


「痛えか?苦しいか?今楽にしてやるよ。」


 そのまま…首を落とす。

 俺は決して善人ではない。こいつらのような外道に堕ちたつもりもないが…どちらかと言えば悪人だ。だから、これは俺の仕事だ。お嬢や大将のような子供が手を汚す必要は無い。




「安心しろ。伯爵の旦那にも団長にも許可は貰ってある。警備、スタッフは生死問わず。観客は癪だが生け捕り。

 さあ、逃げ回れ!!!」



 そして俺は斧を振るう。最早警備も逃げ回っているが…無様だな。照明だけは傷付けぬよう、振るう、振るう。その度に建物の破片は飛び散り血が舞うが…構わず振るう。

 外に出ようとしても結界に阻まれて不可能。そこに斧を担いで迫れば面白いようにパニックになって逃げ回る。


 いつもは腐った仕事の為に振るうことも多いが…どんな理由があろうと殺人に変わりなし。悪人同士、仲良く殺し合おうぜ?









「お待たせー!!!血塗れじゃん!!怪我した!?」


「全部返り血だ。それより、こんなモンでいいか?」


「オッケイ!!ぶちかませ!」


 お嬢…普通の女の子だったら俺の姿見たら卒倒すると思うんだが。まあ初めて会った時から異常だったしな、こりゃー大将苦労するわ。…あと10年早く生まれていたら、俺もお嬢に惚れてたかもな。

 お嬢に子供を託して少し離れる。天井に向かい、照明弾を放つ。これは天井や結界をもすり抜ける、本当にただ光るだけの魔法だ。


 放った直後、ジュリアの結界が解かれた気配がした。観客共は喜び外に出ようとしたが…



「全員捕縛しろ!!!」



 副団長の声が響く。さて、後は任せましょうかね。

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