第60話


 ゾクリ……


 なんだ?今なんか…ものすごい寒気が…?武者震い、かな?これから大事な作戦開始なんだから、気合入れてかなきゃ!



 オークション会場はザイン領の端にある。周囲に民家は無く、すぐ側には深い森が広がっている。ここでなら多少魔法をぶっ放しても大丈夫だろう。

 会場より離れた場所、集合場所に丁度騎士達も到着したらしい。そこで団長は作戦を伝える。あらかじめ地図を見ながら、待機場所は決めていた。その周辺を私とアシュレイが調査する。もしも見張りなんかがいたらやばいからね。

 ん、なんで私達なのかって?そりゃ私だったら相手を音も無く落とせるし何より…。





「おい坊主共、何してんだ?」


「ん?僕達この辺初めて来たんだけど、迷ったみたいなんだー。」


「おじさん道知らねえ?俺ら近くの町にいたはずなんだ。」


「ったくしょうがねえな…あっちに真っ直ぐだ。もうこっちに来んじゃねえぞ。」


「「ありがとー!」」





 

「ここには見張りが2人いました。眠らせて成り代わるか、この場は捨てるかしないといけませんね。」


「よし、了解。始まるまでは荒事は避けたい、全員ここは気を付けろ!」


 とまあ、見つかってもとぼけられるのさ!この格好からして男の振りになるが…まあいいさ。他にも方法はあるけど、これが確実で簡単なんだ。

 さて…下準備も終わったところで、潜入開始!正装に身を包むトレイシー…は、まるで貴族だな。こりゃすごい。そして私は身体を透明にし、肩車!!話し合いの結果このスタイルに落ち着いた。トレイシーは自然に歩けるし、私も高い所から周囲を見下ろせる。それに透明になってるだけだから、触られたらバレるし。ここになんかある!って。だから他人と接触しないこの高さがいい。




「では行ってきます!」


 作戦開始!!







「ようこそおいでくださいました。招待状を拝見致します。」


「どうぞ。」


 トレイシーが受付のような所で招待状を渡す。それをじっくり見た受付は笑顔で仮面を差し出す。


「はい、確認されました。それではこちらをお着けになって、あちらの扉からお進みください。」

 

「ありがとう。」



 第一関門突破!進んだ先には…薄暗いホール。誰も彼もが仮面を着けている。うーんそれっぽい…。

 どうやら席は決まっているみたいで、トレイシーは良い席のようだ。舞台に近く、私も行動しやすい。ありがとうシャリオン伯!!

 トレイシーが私の左足を叩く。左を見ろってことね…エイス・ザイン!!うわ、実物見たの初めてだけど、本物のカエルよりカエルらしい。あれ仮面意味ないな、バレバレじゃん!!


 そんな発見もしつつ、歓談する仮面の紳士淑女を通り過ぎ席に座る。…ん?子爵がこっち来る…ん…んん!?


「「(お前席隣かよ!!?)」」


 嘘でしょ、そんな奇跡ある!?しかも話しかけてきやがったあああーーー!!!




「いやあ、相変わらずここの空気は肌に合う。今宵の商品が楽しみでたまりません。そうは思いませんか?」


「…ええ、まことに。何度足を運んでも、年甲斐もなく心躍るというもの。貴殿も同様と見受ける。」


 武士かお前は!なんでシャリオン邸のように振る舞えないのさ!!あん時感心してたのに、お前はこの場でどういうキャラを通す気だ!ああほら、カエルにも引かれてんじゃん!

 だが幸いにもそれ以上の会話は無く、ステージが騒がしくなってきた。



 私の仕事は、盛り上がってきた中盤で舞台裏に侵入すること。落札された物もその場で客に渡すのでなく帰る前らしく、それまでは保管されている。

 なので私が商品を全て保護したところでトレイシーに合図する。合図を受けたトレイシーが大暴れ、会場をめちゃくちゃにする。

 だが騎士が突入するまで1人でも逃したくないので、ジュリアさんが巨大な結界を会場全体に張る。

 トレイシーが外に合図したらジュリアさんが魔法を解き、騎士突入…の流れである。



 なので暫くは、大人しくオークションを見ていようっと。ちょっと興味あるしね。…奴隷とかは嫌だけど。この国奴隷禁止だし。





「それではお集まりの紳士淑女の皆々様。ご来場いただきありがとうございます!」


 お、始まった!


「…それでは挨拶もそこそこに、早速競りを開始致しましょう!今回も素晴らしい商品が揃っておりますよ!」


 会場内が拍手に包まれる。バレなそうなので私もイエーイ!!と言いながら拍手する。貴様ら全員数時間後にゃブタ箱だぜえ!!今のうちにはしゃいどきなあ!!!…足をつねられた。



「さあまずは小手調べ。最近発掘された剣でして…年代物で美しい装飾が施されてはおりますが、いかんせん斬れ味が悪い。格安価格でスタート致しましょう!」


 おお、剣!!どんなかな!…とわくわくしながら待っていたのだが…。




「ほああああっっ!!?」


 会場内の歓声と共に、つい私も叫んでしまった…!ああ、周囲の視線が…!!


「あの…失礼。今の可愛らしい声は貴方でしょうか?」


「………あっははは!これは失礼した。私は興奮するとついこのような声が出てしまうのですよ。いやあ素晴らしい剣だあっはっはっは!!!」


 いてててて!!!ごめんごめんってば!!そんなにつねんないでー!!




 いやだって、あれ…「月光の雫」じゃねーか!!なんでこんな所に…!?発掘されてんじゃねーよ、用があるまで埋まってろ!!

 ただ覚醒はしていないな。まあゲームでもあと数年先だし…最優先でとっとこう。



「それでは、30セキズから!スタートです!!」



 やっっっす!!!300万円相当かよ、300億でも足んねーよ!馬鹿かお前ら、そいつに値なんか付けらんねえよ!?伝説どころか幻の逸品だよ、これだから素人は!!!

 トレイシーの頭を3回叩く。買え、という合図だ。もちろん払わんが。オークションの参加者になりきるため、何回かは競りに参加するつもりだったんだよね。さっきトレイシーは素晴らしい剣って言ってたし、周囲には怪しまれまい。



「…50セキズ!!」


「はい、50セキズ出ました!他にはいらっしゃいませんか!?…それでは、そちらの紳士様50セキズで落札でーす!!」


 会場内が盛り上がってきた。落札したトレイシーに係員が近付き、カードを渡す。落札の証だ。



 その後もオークションは進み、そろそろ動こうかな…。トレイシーの頭を撫でる。作戦開始の合図だ。僅かに頷いたのを確認し、ステージ上に飛び移る。足音を立てないよう、そーっと、だ。

 そのまま商品が出てくる幕の裏に…おとと、新しい商品が出てきちゃった。少し避けて商品に目を向けると…人間、か?シーツが被さってるけど、僅かに中が見えた。…後で、必ず助けてあげるからね。そう決意しながら裏に進む。








「さあーて、お次は目玉商品ですよ!!この国では見られない、獣憑きの子供です!!5千セキズからスタート!!!」

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