第33話



 食後も私達はずっとおしゃべりをしていた。お茶を飲みながらね。お嬢様が美味しいって言ってくれたから、頑張って良かった!と思える。

 

 そして話題はこの1ヶ月で起きた出来事。お嬢様の話…は私が暴走したら困るから、と話してくれなかったが…。

 なので主に、伯爵邸での話になった。私達が纏めてアシュシュと呼ばれてたと言えば、お嬢様が私もそう呼ぶ!と言っていた。

 でも旦那様とか屋敷の人の話をすると、お嬢様が僅かに悲しそうな顔をするから…やっぱり私達の話に戻るのだ。



「あ、そういえば。君達が出発して数日後に、教会にお客さんが来たよ。」


 そうしたら急にトロくんがそんな事を言ったのだ。丁度トロくんが教会に立ち寄っていた時で、身なりの良い男性が訪れたらしい。

 そして養子を探している、子供達に会いたいと言った。でもお眼鏡に叶う子がいなかったのか、誰も連れずに帰ったらしい。



「もしかして、自分の子供が亡くなって、似た子を探してたとかか?」


「もしくは我が子の影武者に育てたかったとかかしら?」


「んー…幼女趣味ロリコン?」


「言いたい放題だね…。見た感じは真面目というより堅物な感じの人だったよ。

 アシュリィちゃん、ろりこんってなに?」


 知らなくていい事さ、トロくん。


 気にはなるけど…誰も連れてかれてないようだしもう来る事もないだろう。

 それよりもう遅い。そろそろ寝ないとね。



「おやすみなさい、お嬢様。」


「おやすみなさい。ラッシュが側にいますから、安心してぐっすり眠ってくださいね!」


「ええ…おやすみ。…また明日、よね!」


「「はい!」」



 また明日。これからは毎日、そう言えるんだ。落ち着いたら教会に遊びに行こう。皆もお嬢様に会いたがってるし!

 そして私達は、使用人部屋のある区画に向かう。トロくんの部屋も近いらしいから、途中まで一緒に行く。



「僕明日からは庭にいるから。何かあったら来てね。」


「おう、今日は助かったぜ。」


「おやすみー、トロくん。」


「うん、おやすみ。」



 私達の部屋は屋根裏だ。でも別に物置とかそんなんじゃなくて、ちゃんと部屋。狭いけど、寝起きするだけだから問題ない。

 それよりもこれから、アシュレイと作戦会議だ。私の部屋に集合する。念の為遮音の魔法をかけておく。




「さて、アシュレイ。初日の感想は?」


「…一言で言えば拍子抜け。お前は?」


「…違和感が気持ち悪い。」



 ふーむ。



「やっぱこの家ってさあ…だよね。」


「…具体的には?」


 どう説明したものか…。私は本を手に取り胸の前に掲げる。




「例えば。これを1枚の絵画とします。この絵は見る人全ての目を惹き、誰もが讃える名画です。ついでにこれ1枚でこの屋敷が建つほどの価値があります。

 更に言うと、この絵画は常に皆の目に入る場所に飾られています。アシュレイも毎日見る場所に。そこから移動できないと思ってください。」


「ふんふん。」


「質問。この絵画のど真ん中に黒いシミがあったらどう思う?」


「んん?…もったいねー!とか、誰だよ汚したヤツ!かな?」


「犯人はとても偉い人…不敬だけど陛下としようか。文句を言える相手じゃありません。」


「じゃあ…やっぱもったいねー、かな?」


「だよね。あと私だったら…絵を見る度に気分が悪くなると思うよ。」


「ああ、多分オレも。このシミさえ無ければ…って…ん?」


「……。」




 私の言いたい事は伝わったようだね。



 そう、言い方は悪いがお嬢様はこの家における黒いシミだ。



 シミに罪はない。でもそんな事、ギャラリーには関係無い。まあ付けた人云々は置いといて。

 この黒いシミさえなければ、未来永劫名画として語り継がれるだろうよ。


 

 この侯爵家は、貴族としては素晴らしい家なんだと思う。税は適度、領地は整備されていて治安も良い。領民からの信頼も厚いだろうし(教会関係者除く)、多分他の貴族や、下手すりゃ王家からも一目置かれているだろう。

 そして侯爵家内部も。使用人は皆笑顔で仕事してるし、侯爵本人も穏やかな紳士だ。まだ会ってないけど…多分お嬢様の兄弟も私達優しいと思う。

 お嬢様に対してのみ厳しい。お嬢様の味方に対しては普通。


 だから、気持ち悪い。



「んん?オレらって…黒いシミを讃える異端者だったりする?」


「多分だけど、頭おかしいと思われてるよ。」


「マジか…だから優しいのか…?」



 かもね。お節介焼きは、私達の目を醒ませようとしてくるかも~?

 でもそうなってくると難しいな…。





「んでも余計に面倒くさいなー。こりゃぶん殴って済む問題じゃない。」


「(最初からそういう問題じゃねえよ…。)」


 なんだその目?おおん??




「目的変更。この家の人間全員半ごろ…はっ倒してからお嬢様を連れ出すつもりだったけど…まず調査が必要だわ。」


「(そういや魔族って皆脳筋なんだっけ…コイツぜってえ魔族だ…)具体的には?」


「なんかその顔と間が気になるけど…そうだね。

 まず、私達の目的その1!!

 お嬢様の保護。理想はどこかの貴族に養女にしてもらう。ベンガルド伯爵家が一番だけど…そう簡単にはいかないだろうな。いざとなったら教会に行くか。

 そん時は、例え侯爵自ら地面にめり込むまで土下座しても許さん。使用人も全員だ。ただ…トロくんみたいに若い使用人は保留。いいね?」


「おう。目的その2!!

 力のある貴族との繋がりを作る。でもこっちは出来れば、ってところか?」


「うん。アシュレイの家族についても、私達でも少しは調査出来るし。」


「はいよ。…さて、今日はもう解散すっか?明日も早いし。」


 

 そうすっか。

 …この家の人達、お嬢様の味方しようって人本当にいなかったのかな?ひとりも?トロくんのように、夫人と面識がない人全員?…亡くなった奥様、レイチェル様…何者??魅了の魔法でも使えんの?

 あながち間違いでもないと思うけどな。



 ん?よくよく考えたら…お嬢様が虐げられているのは、産後奥様が他界したから。

 お嬢様の姉の……えーと…お姉様はお嬢様のひとつ上。

 他の人はともかく精々1歳の子供が、母親の事覚えてるのか?



 …明日。他の兄弟達にも会ってみよう。





「そういえばさ。本当に絵画が汚れた場合どうすんだろうな?」


 部屋を出て行こうとしたアシュレイが、ふと気になったかのように問いかけてくる。



「んー、そりゃ専門の人に修理を依頼するか…魔法師だったら、そういう魔法を創る事も出来るかもね?

 特定の成分のみ除去するとか、時間を操作……」


「…アシュリィ?」














『…やった…!遂に…完成……!時間…魔法!これで……を助け…!』




「おい、アシュリィ?おい!」






 頭が痛い。誰かの声が脳内に響く。



 だれ…?どこかで…きいたことあるような…?






「アシュリィ!オレの声が聞こえるか!?」






 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!頭が、割れてしまいそうな…!


 お前は誰だ!!私の頭の中で、訳の分からないコトを…!!?







『起きた事は覆せない。死んだ者は生き返らない。だったら、時間を巻き戻せばいい!!

 ああ、この時間遡行魔法を開発するのに…460年もかかってしまった…でも、大した事じゃない。

 待っていて。アナタが死んだあの日より…さらに昔に遡り。アナタの命を救ってみせる。大丈夫、失敗してもまた戻ればいいんだから!


 今行くよ、※※※…!』

 






「アシュリィ!!!」




「う…あうぅ…」




 だめだ…私はそのままベッドに倒れ込んだ。そのまま意識が遠くなる。

 最後に感じたのは…私を抱きとめた温もり…。




「アシュ…!寝てる…?おい…!」






 なんでなの…なんでこんなに胸が締め付けられるのよう…!



 



 誰よ…


 ※※※って…








「寝てるみたいだが…どうしよう?」

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