第32話



「これで全部かな。」


「よし、ありがとうトロ。大体把握出来た。

 そろそろ部屋戻っても良いかな…。」


「僕らには見せられないってことは、やっぱ…。」


「…何考えてんだお前!!」


「こっちのセリフだよ…顔赤くしちゃって。」



 アシュレイお年頃ですから。

 ちなみにトロは、純粋にお嬢様の怪我を気にしているだけである。





 そうして屋敷内の散策を終えて部屋に戻ってきた。


「そういやお前、仕事は?」


「今日は君達のサポートが仕事だって。」



 部屋をノックし、出迎えたのは…



「「うわっっ!!」」


「…ってラッシュ!びっくりしたあ…!」



 ラッシュは2人を抱えて部屋に放り投げ、ドアを閉める。そしてまた門番に戻るのだ。

 

 ああ、ラッシュはお嬢様の守護を了承した。やっぱお嬢様の魅力にメロメロに…という訳では無いらしい。

 私の熱意に圧されたってのと、多分私の側より仕事があるって思ったんだろうね…。私は自分でどうとでも出来るし。

 ラッシュの仕事は、私、アシュレイ、トロくん以外の人間がお嬢様に触れようとしたら止める事。でもお嬢様が「この人は大丈夫」と言えば良し。

 武器を持って襲いかかって来られたら、死なない程度に吹っ飛ばす事。他の細かい事は自己判断に任す。

 


「「……。」」


「あ、おかえり。どう?お嬢様、素敵でしょう!」


「「……。」」


 ちょっと…なんか言ってよ。もしかして…気にしてる?




「な、なんでお前まで短くなってんだよっ!!?」


「イメチェンさ!!」


「はああーーー!!?」


「…止める暇も無かったわ。」



 アシュレイもトロくんも、私がバッサリと髪を切った事に驚いている。

 ふふふ、今の私はサイド長めのショートボブだ!パッと見少年執事って感じ?長さ的にはアシュレイといい勝負だ。

 でもねえ、髪の長さなんて私にとっちゃ大した事ないんだよなあ。前世のヘアカタログを見せてやりたいわ。ショートヘアの魅力を分かってない!!


 語りたいとこだがもう夕方だし、まずお嬢様のご飯だね。

 お嬢様、普段食事は?大体貴族って食堂で食べるでしょ。あ、ダイニングルームって言うべきか。




「…前は部屋に食事が運ばれてたけれど、今はそれすらも無いわ。

 だから自分で取りに行くの。食事をちょうだいって言えば、無言で出てくるわ。使用人と同じ物だけど…。」


 …まあ、食事を出さないよりマシと考えよう。




「じゃあ今日からオレらが交代で取りに行くか。」


「少なかったら、食材勝手に使ってアレンジしよう。」



「あの…2人も一緒に食べてくれる?1人の食事はもう嫌なの…。トロは駄目だし…。」



 はい喜んでー!!!お嬢様が可愛すぎる…アシュレイと私でぎゅーっとする。ほら、トロくんも来いってば。

 こういう時トロくんは遠慮するんだよねえ。使用人だからって言って。そんな君にいい言葉を教えよう。それはそれ、これはこれ!!

 本来主人と食事なんて許されないけど…知った事か!「いやあ、私ら客人なんで」でごり押す。




「今日は挨拶も兼ねて、2人で行ってきます。」


「ちょっと遅くなるかもしれないけど、ラッシュが側にいますから。頼むよ、ラッシュ!」


—心得た—


 

「ほい、トロくんも。私今日は皆に話したい事もあるし、トロくんも一緒に食べるよ。今日だけね。」


「ああ、オレも。トロも聞いてくれ。」


「えええ?いいのかなあ…?」



 ぐだぐだ言うトロくんを引き摺り廊下に出る。









 さて…そろそろいいかな?


「トロくん、聞きたい事あるんだけど、いい?」


「だよねえ…なんでも聞いて。」



「大前提として、お嬢様はこの屋敷で虐げられています。トロくんは?お嬢様と仲の良いトロくんもいじめとかあるの?」


「それが、無いんだよ。」


「やっぱりか…。さっきオレら散策してた時な、何人かの使用人に会ったんだ。

 そんで、オレとアシュリィが執事見習いで来るのは聞いてたらしい。もちろん、お嬢様の執事として。

 でもなあ…んだよな。オレら、自分達以外は全員敵!って意気込んで来ただろ?

 どころか頑張ってね、とか言われるし…拍子抜けっつーか…。」

 

「やっぱり…ちょっとそれに関しては、夜じっくり話し合うよ。とにかく!今は屋敷の人達に友好的に接する事。

 お嬢様を悪く言われても、「自分はそう思いませんけどね」くらいに留めとく事。いいね?」



 アシュレイが頷いたのを確認し、厨房に急ぐ。トロくんは複雑そうな表情をしている。…今まで、この屋敷でお嬢様を1人で守ってくれてありがとね。




「ここか…すいませーん。」




「ん?おお、お前ら見習い執事かい、ちびっこいなあ!」


「あら、可愛いわねえ。でも男の子と女の子って聞いてたけど…。」


「あ、私女です。」


「あらやだ!どうしたのその髪型!?」


「ふっふっふ、おかしいでしょう。でも、ステキだと思いません?常識抜きに考えたら。」


「ま、まあ、確かに?可愛いけど…。」


 厨房にいたのは4人。料理長っぽいのと女将さんって感じの人が話しかけてきた。



「それより、ボク達食事を貰いに来ました。リリーお嬢様とボク達3人。4人分ください。

 それと使用人は専用の食事スペースがあると聞いてますけど、ボク達毎日お嬢様と食べますので、毎回貰いに来ますね。」


「……おうよ!今用意すっから、ちと待ってな。」


 そう言って2人共奥に引っ込んだ。




「どう思う?」


「そうだね…なんて言ったらいいんだろ。ちょっと気持ち悪い…。」


「オレも…。」




 その後出された食事をワゴンに乗せて、とっとと移動する。内容は…まあ良し。貴族のお嬢様にお出しするモンじゃないが…栄養は問題無いだろう。






 そしてお嬢様の部屋で食事する。お嬢様が楽しそうでなによりです。




「それで2人は、お話があるんでしょ?」


「そうそう、アシュレイからどうぞ。」


「ん…実は…」




 …ふむふむ。つまりアシュレイはスラムの仲間…いや家族達を探したいと。そんでその目的の為に執事になりたかった。それを謝罪したいと。



「なんで謝罪するのかしら?」


「へ…?いやだって…こう…お嬢様を護りたい気持ちに嘘はないけど、利用してるような気がしまして…ですね?」


「いや、謝罪いらないよ?ねえアシュリィちゃん。」


「その通り。むしろあんたが「オレはスラムから解放されたんだっ!過去は忘れて自由に生きるぜヒャッハー!!」とか言う方が嫌だわ。」


「言わねーよ!?」


「じゃあいいじゃん。利用出来るものはなんでも利用しなさいよ。私は一緒に執事の勉強して、ずっとあんたの本気を見てきたんだぞ。

 お嬢様を護りたい気持ち、その為の努力に嘘は無い。というより、私だって微力ながら協力するよ?ねえお嬢様。」


「ええそうよ。私も…出来る事は少ないと思うけれど、手伝える事があったら遠慮なく言って?ねえトロ。」


「そうそう。僕は何も出来ないかもしれないけど…愚痴や弱音くらいいつでも聞くよ。」


「……。」



 アシュレイ、そんな事考えてたのか。

 教会に初めて来た時から、ずっと悩んでたのは気付いてた。ご飯食べててもちびっ子達と遊んでる時も。お手伝いしてる間もお風呂…は知らん。


 多分ずっと…ここに家族がいればって思ってたんだね。目の前で家族を失うのは…そりゃ辛いよ…。

 無事でいてくれればいいけど…流石に楽観は出来ない。でも調査は早い方がいい。

 そしてアシュレイの、権力ちからのある貴族と繋がりたいってのに可笑しな所はないぞ。

 …ハロルドさんには話したんだよね?伯爵家で何か調査してくれている可能性もある。



 …うお!?アシュレイ泣いてらっしゃる!?

 えーと、えーと、えーっと…!お嬢様もトロくんもあたふたするしかねえ!

 トロくん、そのデザートのミカンに親指つっこんでハンドパワ~ってやつ、私が教えたんじゃん!アシュレイも知ってるよ!!見事にテンパってるね。



「わり…もう、大丈夫だから…。早く言わなくて、ごめんな。今度から…すぐに相談するから。」


 

「えーっと、あ、そうだ!私も皆に報告があるんだけど!」


「何々!?」


「すっごく聞きたいわ!」


「…あははっオレも!」



 ふいー。…皆、受け入れてくれるといいけど…。

 私が真顔になったもんだから、皆も真剣な顔をする。






「私自身まだ受け入れられてないんだけど…私…私…。」



 3人が緊張してるのが伝わる。ええい、ままよ!



「私…人間じゃないかもしれないの…!」




「「「…は?」」」



「だから…っ純粋な人間じゃないんだって!もしかしたら魔族かもしれないし、それすらも違うかもしれない…!」






 …………。







「「「人間だと思ってたの!!?」」」





 ……おん?


「どどど、どういう意味よーーー!!!?」


 何この反応!?すんごいカミングアウトじゃん!ここは「お前が何者だろうと、オレ達との友情は変わらない…!」とか言うとこでしょーーー!!?


「いや友情は変わんねーけど!今更だろーが!」


「あなたのステータス、詳しい数字は知らないけど人間のものじゃないわよね?」


「魔族どころか、魔王様って言われても納得するよ?」



 んな…!三者三様に言いたい放題言ってくれる…!いや人間離れしてるのは分かってたけど!人間じゃないとは思わなかったの!!!



「はあ、緊張して損したわ。早く食べちゃいましょう。」


「そうですね。」


「アシュリィ、冷めるぞ?」



 



「もう…!もおーーー!!!」







 清水の舞台から飛び降りる気持ちでカミングアウトしたのに…!


 でも…皆笑ってるから…ま・いっか!!

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