第8話
まあ要するにだね、諸君。
このゲームの最大の被害者は、魔王リャクルなんだわ。
彼は人間を嫌うどころか、むしろもっと仲良くしたいな~とか考えていた。
だというのに。トゥルー以外のエンディングではリンベルド共々殺される。いと哀れ。
そんな哀れなリャクルを救うのは…悪役コンビ、アルバート&リリーナラリスなのだ!
リリーナラリスは家族の愛を求めた挙句に悪堕ちした。一方アルバートは、優秀な兄と弟に劣等感を抱き悪堕ちする。
まあこんな簡単な説明では言い表せないが、彼にも苦悩、葛藤があったのだ。
ともかく。悪役コンビはこのルートでのみ手を組み、主人公を陥れようとする。
話は変わるが。ゲームのタイトルでもある「月光の雫」とは、昔の魔王が遺したアイテムの名前だ。
いつの世か魔族が人間を滅ぼそうとしたら起動するようにセットしていた、魔族殺しの剣。
ちなみに人間が魔国に攻め入る事は気にしていなかったのだろう。なんも対策遺してないみたいだし。うーん、さすが魔王。
そんで月光の雫には意思があり、自分で自分の使い手である人間を選ぶらしい。
当然選ばれるのが、主人公である。
そしてこの悪役コンビだが…真相ルートでしか魔王と対峙しないのだ。
悪巧みのために人気の無い場所で会合をする2人。しかしある時、ばったり魔王と出会してしまう。
なんやかんやでそれなりに強い2人、協力してなんとか逃げる事に成功。だがその際、怨念の欠片が2人に触れた。悪堕ちしてるコンビだから、親和性が高かったのかもしれない。
そして知ってしまった。
魔王が人間を傷つけたくない事。泣き叫んでいる事。自分を止めて欲しい、殺して欲しいと訴えている事。
最初は気にも留めていなかった2人だが、ストーリーが進むにつれ他人事とは思えなくなってしまった。
自分達も最初は、誰かに止めて欲しかった。
リリーナラリスは家族に怒って欲しかった。
アルバートも家族に構って欲しかった。
今まで散々悪い事をしてきた。
罪のない人を殺したりもした。
権力を使って多くの家を潰した。
沢山の人を不幸にしてきた。
今更、気付いてしまった…。
まだ———間に合うだろうか?
「なあリリーナラリス嬢?提案があるのだが。」
「まあ、奇遇ですわね殿下。私もですの。」
魔族殺しの剣とはいえ、実体の無いものは斬れない。その為魔王ごと斬るしかない。
ならば話は簡単だ。怨念を自分達に移せばいい。
たかが人間では怨念を受け止める器として足りず、無駄死にするだけ。
だから、2人で受け入れる。
今まで悪行を重ねてきたけれど…最期に。心優しい魔王様の命だけでも救いたい。罪滅ぼしにも、ならないだろうけど。
早く、早く!主人公が魔王を殺してしまう前に!
そして禁術でもある、魂の分離魔法を応用し怨念を引き剥がす事に成功・自分達に移した。
ほんとにもう、才能も根性もあるのに使い所を間違えてまくるコンビだわ(ちなみに引き剥がす間、魔王は逆さ吊りにされていた)。
てか怨念に支配されつつも、自分を見失わないこの2人。いくら魔王は単身だったとはいえ、実は主人公よりハイスペックじゃない?
ともかく準備は、整った。
主人公と悪役コンビが相対する場面。
魔王を追って来た主人公が目にしたのは、魔王に剣を突き立てようとするアルバートの姿。
「やっと来たか、ミーナ!(もしくはランス)」
「ふふ、ほんとに愚図で鈍間ですわねえ。勇者が聞いて呆れますわ。」
「殿下、アミエル様…!どういう事ですか!?」
「見ての通りだ。説明しないと分からないのかい?」
「仕方ありませんわ、殿下。まあ上に立つ者の責務として、説明して差し上げましょうよ。」
「ふむ、リリーナラリス嬢は優しいのだな。簡単な事さ。
僕達は魔王を使い、この国を滅ぼそうとしたのだよ。僕達を敬わないこの国も、他の国も気に食わないからね。」
「でもこの魔王、役に立たないんですのよ。せっかく魔族と人間を派手に戦わせて、その隙に国を乗っ取ろうと思いましたのに。」
「僕達は魔族を意のままに操れる魔法を開発したのさ。なのにこの魔王ときたら…抵抗しやがって全く計画が進みやしない!」
「ですのでいい加減始末して、私達自ら貴女達も始末してあげようと思いましたの。丁度いい所で来てしまいましたわねえ。」
「「(ちょっと言い訳が苦しいか…?)」」
「なんですって…!?確かにお2人は性格が悪く腹黒で陰湿ですけれど!いつも他人を使う事なく正々堂々と嫌がらせをしてきたではありませんか!?」
主人公は少し、天然だった。
密かにダメージを受けているコンビだが、その程度で折れるはずもなく。最後の最期まで悪役を演じきった。
主人公は最終的に2人を斬り、リンベルドの怨念も完全に消滅する。
そうして脅威が去った後、月光の雫はまた眠りにつくのであった…。
かつて、魔族と人間を争わせようとした2人の悪魔がいた。
心優しき魔王を操るも計画は失敗に終わり、2人は勇者に討ち倒された。
操られていた魔王も正気に戻り、その後人間達と良好な関係を築いた…というのが、世界に広まったお話。
だがその後、主人公には回復した魔王より事の真相が明かされる。アルバートとリリーナラリスは魔王を救い、延いては魔族と人間の関係を盤石なものにした。
だが今更真相を広める事は出来ない。
恐らく誰もが思うだろう。「優しい魔王と勇者だから、あの悪人どもにも情けをかけてるに違いない」と。
人間の国ではもう、あの2人は世界を滅ぼそうとした悪魔として語り継がれることだろう。
故に魔王は、魔国では真相を語り継ぐ事を主人公と約束する。
その後主人公は、悪魔を討った勇者と持て囃される事に耐えられず、魔国に渡る。
そしてその生を終えるまで、アルバート・ベイラーとリリーナラリス・アミエルを想い続けた——
というお話。めでたしめでた…めでたくねーよ!?!
もおおおおお!!!こんなコンビだからゲームのファンからの人気も高くて、もう1人の主人公なんて言われるんだよお!!ヒロインは魔王。
しかも魔王によって、最終局面で主人公が駆けつけるまでの間、約5時間も剣を突き立てる寸前のポーズをしていた事が明かされる。いつ主人公が来るか分からないから。
魔王は身体も動かせなかったようだが、辛うじて意識はあったらしい。
「まだかな?ちょっと僕、腕プルプルしてきたんだけど。」
「きっともうすぐですわ!私も魔法でお支えしますから、頑張ってくださいまし!」
なんつー可愛らしいやりとりしてたらしいんだよ!!惚れるわ、バーーーカ!!!
あ、ちなみに主人公の恋愛相手コンビは真相ルートじゃ空気だよ。
そんなこんなで、私はリリーを嫌いになれない。もちろんアルバートも。
特に今、まだ悪さをしていないし…。
「アシュリィ!アミエル様がいらしたわよ!」
とと、ゲームの内容思い出してる場合じゃなかった!ベラちゃんの声で我にかえる。
今日はリリーが久しぶりに来る。あの事件以降、実に3週間ぶりだ。
急いで出迎えに行く。玄関に着くと、リリーは既に馬車から降りてきていた。
そしていつも通り、初老のシスターが言葉を交わす。基本的にリリーと直接喋るのは、彼女だけだ。
「アミエル様、お久しぶりですわ。子供達も皆、アミエル様がいらっしゃるのを心待ちにしておりましたの。」
正確には寄付されるお金や物資をですけどねー!
簡単に挨拶を交わした後、なんとリリーはこちらを向いた。勘違いかと思ったが、確かにあの目は私を映している。
その証拠に、さっきまで私の近くにいたベラちゃんもカルマもニックも遠く離れている。裏切り者どもがーーー!!
そしてそのまま私に近づいて来て、口を開く。
「…あなた。少々よろしいかしら?」
「っ!はい。もちろんです。」
あ、お礼の話かな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます