第7話
悪役令嬢リリーナラリス。私が彼女を嫌いになれない理由は侯爵家にある。
これはトゥルーエンドで語られる事だが…リリーと家族は仲がよろしくない。
というより、他の家族・使用人が一方的に彼女を嫌悪しているのだ。もう嫌い通り越して無関心。リリーが善い事しようが悪い事しようがどうでもいい。
その原因はリリーの母にある。
リリーナラリスの母、レイチェル。故人である。
彼女は周囲から愛されていた。政略結婚であった夫とも深く愛し合っていたし、我が子達も使用人達も皆夫人が大好きだった。
美しく聡明、天真爛漫で慈愛に溢れる女性。ゲームの世界とはいえ、こんな完璧超人いるわっきゃねー。いたけど。
いや、絶対腹黒だとか究極の運動音痴とか、どちゃくそイビキかいてたとかマイナス面はあった筈だ!今となっては知る術もないが。
そしてありきたりだが…彼女は娘のリリーナラリスを産んだ後、産後の肥立ちが悪くて儚くなってしまったのだ。レイチェルを犠牲に生まれた娘。リリーナラリスはそんな理由で嫌われている。
…うん、リリーに非はまっっったくないね!リリーの父兄兄姉使用人は大好きなレイチェルを殺した(語弊があるぞ)リリーを恨んだ。
こんな娘のせいでレイチェルは死んだ、死ぬのならリリーナラリスが死ねばよかった!いや、生まれて来なければよかったのに!!
小さい頃からこんな事言われ続けりゃ病みますわな。しかし健気にもリリーは、家族を愛して自分の事も愛してほしがった。
使用人も皆リリーには厳しい。最低限の世話、会話のみで誰もリリーに近寄らない。
普通なら令嬢にそんな態度許されないが、当主が見て見ぬ振りどころが「いいぞもっとやれ」と言わんばかりの言動。リリーの味方は侯爵家にはいなかった。
そして今リリーは、なんとか家族に自分を見てもらおうと頑張っている段階だろう。その為の慈善活動。「おお、お前はなんて優しい子なんだ」とか言ってもらいたいんだろう。きっとマナーも勉強も頑張ってるんだろうな。
でも彼女は、家族に見てもらいたいだけで私らに興味はないんだよね。だから寄付だけで終わり。しかし彼女が自由に使える金あんの…?(後に知る事だが、当主は慈善活動自体は貴族としてプラスになるから自由にさせていたらしい。ただし功績は全て自分のモノにしていた)
そして次の段階。悪い事をして叱ってもらおうとした。好きな子をいじめちゃう男子小学生の発想である。
だがスルー。リリーがいくら問題を起こそうとお構いなし。むしろあんな我が儘娘に手を焼く、気苦労の多い家として同情を集めていた。
貴族のくせに娘の教育も出来ない無能、という評価がなぜ無い?はいはい、ゲームのご都合展開ですねわかります。
とまあふざけてみたが、実際はレイチェルの評判が社交界に知れ渡っていたからだ。
完璧な侯爵夫人レイチェル。命懸けで産んだ娘は欠陥品。それに心を痛めている家族。けっ。
そうして最終的にリリーナラリスは、やさぐれた。自分より立場の低い者を虐げる、平民に至ってはもはやゴキブリ扱い。目に入ったら即座に潰す、ああ怖い。
彼女の境遇には同情するが…だからといって他者を虐げていい訳では無い。だが気持ちはわかる…。
私の唯一の肉親だった母。もしもお母さんに「お前なんて産むんじゃなかった」なんて言われてたら、きっと絶望していた。
前にも言ったが、とても美しい母だった。レイチェルとか目じゃないわ。顔知らんけど。
母子家庭のうちはとても貧しかった。だけど2人なら、どれだけひもじくても幸せだった。お金で買えないものがある、ってやつだね。金でしか買えないものも山ほどあるのが現実だが。
だから…愛を知らないリリーが少し、可哀想とも思う。私なんかが烏滸がましいってのは分かってるけどさ。
それともう一つ、憎めない理由。トゥルーエンドでのリリーナラリスだ。
ちなみにノーマルエンドでは家を追い出され平民になり、当然厳しい生活を強いられる。
だが主人公…ミーナが世界を救った後の旅の果てに、リリーナラリスと再会したのである。
リリーナラリスは全てを失った後、もう誰にも関わりたくないと森で暮らす事を選んだそうな。
まあ魔法に長けた彼女なら、知識さえあればサバイバル生活も苦になるまい。最初は毒キノコとか食って死にかけてたらしいけど。
何十年と独りで過ごしていたら、なんだかあんなに家族に拘っていた自分がアホみたいに思えてきたという。
そうして偶然にもミーナと再会し、その顔を見たら憎しみの情など一切湧かなかった(まあミーナはリリーナラリスをハナから憎んでなどいないが)。むしろ「互いに老けたわねえ」なんて言い合えるほどだったとか。
そうして互いの立場も何も取っ払った状態で2人は語り合った。
「それでねえ…あら、リリーナラリス?何故涙を流しているのよ。
もう、ここは笑う所なのに!」
「ああ、ごめんねえ。…貴女と語らうのはこんなにも楽しいものだったのね。
あの時、若い頃…家族に囚われずもっと周りに目を向けていれば…また違った未来があったのかもしれないって、最近思うようになったのよ…。
もっと早く気付くべきだったのにね…。」
「リリーナラリス…いえ、リリー。今からでも遅くはないわ。私と、お友達になりましょう?」
「…!ええ、ええ!どうしましょう、最初で最後のお友達が出来てしまったわ!」
「あら!何最後なんて決めつけてるの。まだまだ、人生これからよ!」
「ふふ、そうね!…ありがとう、ミーナ。」
という感動的なエンディングなのだ!美しきかな、女の友情。
あとハッピーエンドだが。リリーナラリスは普通に死ぬ。裁かれて家を追い出され、失意の中その他大勢のモブと共に魔王に殺される。
ぶっちゃけ特筆すべき事はない。哀しきかな、悪役の末路。
そして重要、トゥルーエンドのリリーナラリス。
もう1人の悪役…
そう、殿下なのだ。アルバート・ベイラー。このベイラー王国の第2王子である。
この悪役コンビは偶然にも、魔王が人間の国に攻めてきた本当の理由を知ってしまう。
魔王は…自分の意思で攻めてきた訳ではない。
かつて魔族と人間が交わした和平条約。魔族側に、最後まで反発していた魔王の側近がいた。
その名はリンベルド。彼は死ぬまで人間を憎み続け…怨念を残しこの世を去った。怨念といっても彼の魔力も合わさり、最早悪霊になって魔国を彷徨っていた。
そして当代魔王に就任したリャクル。リャクルは本来穏やかで争いを好まない性質だった。だが彼は魔族にしては…優しすぎた。
その優しさがリンベルドの怨念につけ込まれてしまい、身体を乗っ取られてしまうのだった。
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