第6話
その日もリリーはいつも通りのルーチンを終え、帰ろうとしていた。いつも子供達が数人ずつ交代でお見送りするのだが、その日は私とベラちゃん、私より年下の男の子・カルマだった。
「「「アミエル侯爵家に神の御加護があらんことを…。」」」
いつもお決まりのセリフを言って胸の前で手を組む。恒例行事だ。あとはリリーが馬車に乗り込み、見えなくなるまで笑顔で送るだけ。その時。
「!!?きゃああっっ!!」
「っお嬢様!」
「危ない!!」
突然馬車の脇から、薄汚い格好をした男が現れ、リリーに向かってナイフを突き立てようとした。
護衛何やってんの!?反応おっそい!!
私は咄嗟に男にタックルした。素早さばんざい!男は壁に叩きつけられ血を吐いて痙攣した。内臓ヤっちゃったかな?慈悲はない。
「お嬢様、お怪我は。」
そして棒立ちしていた護衛が仕方なさそうにリリーに近寄る。こいつ…。
私は立場上アミエル侯爵令嬢に話しかけるのは躊躇われる。でもまあ、護衛ならいいよねえ?
「おじさん!!ごえーなんだからお嬢様をちゃんとまもってよ!!」
ちょっと舌ったらずに言ってみた。ベラちゃん、カルマ、シスター。ドン引きしないでよ、泣くよ?
「なっ…!貴様のようなガキに何が分かる!!」
あーらら。顔真っ赤にしちゃって、情けなー。
仕事にプライド持ってんなら、まずリリーに自分の情けなさを詫びろや!!
お?今更腰の剣抜くんか。お飾りかと思ってたわー。全然怖くないぞ?おおん?
「ああ、騎士様申し訳ございません!ご覧の通り、まだ幼い娘でして…!」
「ならん!私を侮辱するという事は、延いては侯爵家に対する不敬!到底赦されるものではない!!」
おめーは侯爵家の一員じゃねーだろーがー!!…前から思ってたけど私、口悪いな?前世で一体どういう人間だったんだ?
じゃなくて!だったら先にそこで死にかけてるおっさんをどうにかしろや!どっからどう見ても侯爵令嬢に対する殺害未遂で、一族郎党斬首刑でもおかしくねーよ!?
シスターもそれは理解しているだろうが、今はなんとか私を庇おうと必死になっている。ごめんね、シスター。
護衛騎士が私に剣を向けたその時。
「おやめなさい。」
リリーが私の前に立った。
「お嬢様!!その娘は侯爵家を侮辱したのですよ!?」
「ならばお前は
この娘が動かなければ、私は今頃その男のようになっていた事でしょう。」
「なっ…!」
おうおう騎士様よ。反論できませんよね~え?流石に「私の方が早く動けた!」とは言えんよな~。実際私よりはっるっかっにっ遅かったんですし~?
お嬢様という盾を得た私は調子に乗っていた。だが口には出していないので許してほしい。
「人殺しの分際で…っ!」
騎士は荒々しく剣を納めた。そのまま自分の手を斬ってりゃ面白かったのに。
しかし人殺しねえ…随分な物言いじゃない?シスター達には聞こえないほどの小声だったが、私とリリーにはばっちり聞こえていた。
その証拠に、リリーの顔が強張っている。
その後通報を受けた警備隊がやってきて、男を連行した。既に瀕死だったが、鞭打ち10回の罰を受けた後本当に死んだらしい。
どうやらギャンブルにハマり財産を使い切り、税が払えなくなり泣く泣く娘を娼館に売ったらしい。
そんで嫁は逃げるわ、娘を売った金はそのまんまギャンブルに注ぎ込み結局税を払えずじまい。
最終的にこのクズ親父は完全なる逆恨みで、侯爵家に牙を剥いたらしい。一番の被害者娘さんじゃない??
という情報を近所のおばちゃん達の噂話からゲットしたのだった。いつの時代、どこの世界でも井戸端会議ってあるよねー。
だが気になるのはリリーだ。あの日は結局「礼は改めてする」と言い残し帰っていった。
シスターもみんなも何事もなくてよかった、もう無茶してはだめだよ?と私に言った。そいつは約束できませんね!
しっかしこのまんまじゃリリーは着実に悪役令嬢リリーナラリスへと成長していくわな。
そもそも悪堕ちしたきっかけは、幼い頃に領民に襲われて大怪我をして、傷が一生残ると言われた挙句に家族も誰も心配してくれなくて絶望したから…だし…あら?
あれ?もしかして…あの襲撃事件がそうだったの!?
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