第十四章 初めての別れ

  1 東京の再会

 真斗とのすれ違いは、東京の大学に行くという目標によって、私を奮起ふんきさせた。希望の大学に推薦入学の募集があり、私はそれをねらってみる事にした。入試の勉強はもちろんだが、1学期の成績を上げるように努力した。

 夏休み、茜と東京の大学のオープンキャンパスに行く事になった。茜は家から通える大学を目指していたが、私に付き合ってくれた。日帰りでも良かったが、いくつか廻るという理由で1泊する事になった。ビジネスホテルを予約し、昨年の暮れに約束しておいた島本瑛士にも連絡を入れた。


 夏真っ盛りの暑い日で、東京は真夏日が予想されていた。東京駅へ向かう電車の中で、茜が真斗との事を訊いてきた。

「真斗とは最近会っていないみたいだけど、別れた訳ではないんでしょ?」

「うん、別れてないけど、しばらく会わないことにしたの。」茜はそれ以上の事に触れてこなかった。何か思う所があるようだ。

 茜の話によると、6月に彼女の家で私が話した事を気にして、真斗を呼び出したらしい。そこで明らかにされた事を、茜は一つひとつ話してくれた。

「文化祭の後の体育祭が終わって、仲間同士で打ち上げをしたらしいの。男子4人と女子3人だったみたいだけど、藤森君の家のホテルでお酒を飲んで遊んでいたみたい。」そこで、茜は飲酒をした事を責め、藤森君とどんな付き合いなのか問い詰めたらしい。さらに、茜は真斗を叱責しっせきし、藤森と交際を立つ事、心を入れ替える事を約束させ、できなければ絶交だと迫ったらしい。そして、私の事を心配して、真斗が私を本当に好きなのか、自分の欲望のために私を利用しているのではないか、女の子の気持ちが理解できない男は最低だと責め立てたという。私が彼に確かめたかった事を、茜が代弁してくれたのは有難かった。


 東京駅から飯田橋のホテルに行き荷物を置いて、昼食を食べて島本瑛士との待ち合わせ場所に出向いた。瑛士は遅れてやって来た。茜を紹介すると、大学生らしい態度で対応していた。1つ目の大学に行き、説明を聴いたり、構内を廻ったりしている間も、瑛士は一緒に行動していた。他の大学は明日廻る事にして、瑛士はスカイツリーや浅草を案内してくれた。

 渋谷に出て、夕食を三人で食べ終わった時には、午後8時を過ぎていた。渋谷の街は、これからが本番だと言わんばかりににぎやかだった。瑛士がホテルまで送ってくれた。

「明日は都合が悪くて、一緒に行けなくてごめん。さっき場所は説明した通りだから、大丈夫だよね。」と言い残して、私達と別れた。

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