2 裏切られた夜

 ホテルの部屋はツインにしては狭く感じたが、料金からしたらこんなものかと納得した。交替でシャワーを浴び、私が出て来ると茜は着替えていた。

「茜、どうしたの?どこかに出掛けるの?」

「うん、夕方、英之に連絡したら、会いに来てくれると言うから、そこまで出て来るね。」茜はそれだけ説明すると、部屋から出て行ってしまった。私は一人残され、ベッドに横になって大学の資料を見ていた。しばらくして、誰かが部屋をノックする音に気が付いた。茜が帰って来たのかと思いドアを開けると、そこには瑛士が立っていた。

「愛海、不用心だな。いきなり開けたりして。」と言いながら、瑛士は部屋の中に足を踏み入れた。私は疑う事もなく、招き入れていた。

「どうしたの?瑛士君。まだ何か用があったの?」と言う間もなく、私はベッドに押し倒されていた。瑛士は私を押さえつけ、

「愛海、今でも好きだよ。もう男性経験はあるんだろ。」と言って、私の自由を奪って服の上から触ってきた。男性経験なんて嫌な言葉を掛けられ、

「何言っているの?お兄ちゃん、最低。」と私は瑛士の手の動きから逃れようと、無我夢中で抵抗した。すると、部屋のドアが開いて、茜が帰って来た。

「どういう事?愛海が嫌がっているじゃない。早く出て行って!」と茜は、瑛士を怒鳴り付けた。瑛士はぶつぶつ言いながら、部屋から出て行った。


「茜が来てくれなかったら、どうなっていたか…。助かった。」泣きながら私は、茜にすがり付いていた。茜は何事が起ったのか理解できなかったようで、

「どういう事なの、愛海。島本さんとはそういう仲だったの?」と訊いてきた。

「違うよ、瑛士君が一方的に私を…。中学の時も無理矢理キスしてきたことがあって、それから男子に対する不信感を持つようになったの。去年、久し振りに会って自然と話せたし、私も大人になったし、もう大丈夫だと思っていたのに。」私は一気にそこまで話し終えた所で、茜は解かってくれたようでなぐさめてくれた。


 自分はどうして男の子に、こういう扱いを受けるのだろう。瑛士にしても真斗にしても、欲望のはけ口として私を見ているだけではないか。私自身にがあるのだろうが、男子がそのに入り込もうとしているのも事実だ。

ベッドにうつぶせて、泣きながらこんな事を考えていた。やっと落ち着いて、

「茜、ごめんね。余計な心配させて。真斗には、今の事は秘密にしておいてね。気にするといけないから。」と言った。

「もちろんだよ。言う訳ないでしょ。」茜はきっぱりと言った。

「ところで、倉橋先輩とは会えたの?」と私は訊いた。茜からは、さっきの瑛士を追い返した威勢いせいの良さは消えていた。

「会えたけど、正式に振られた。彼には彼女ができたみたい。よりを戻そうと思ったのは、大きな間違いだった。悲しいね。」今度は私が茜を慰める番だった。   


 翌日は何事もなかったかのごとく、ホテルの朝食を満喫し、二人で残りの大学を廻った。茜には茜の、私には私の悩みを抱えながらも、日常を過ごしている。今、悩みの大半を占めているのが恋愛に関する事であり、大人になるのは面倒だとつくづく実感する。身体と心の成長がアンバランスで、均衡きんこうを保つのは難しい。真斗も同じように悩んでいるように思う。東京から帰ったら、真斗ともう一度会って、真斗の思いを聞いてみようと思った。

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