第九章 初めての嫉妬
1 懐かしい再会
真斗とクリスマスを過ごした次の日から、私は母親の友人の喫茶店でアルバイトをしていた。どうしてもと頼まれて、年末までの5日間の予定だ。仕事をしていると、真斗の事を考える余裕もなく、余計な事を考えずに済んだ。
アルバイト3日目の午後、店に入ってきたのは島本瑛士だった。私は驚いて、コップを落としそうになった。瑛士君とは、中学2年の気まずい出来事があって以来、会わないようにして避けていた。瑛士君は私に気が付いていないようだったが、知らぬ顔をしているのもおかしいと思い、思い切って声を掛けた。
「瑛士兄ちゃん?」私の呼び掛けに瑛士君はびっくりして、
「あっ、愛だよね。可愛すぎて分からなかったよ。」瑛士君は大学が冬休みで、東京から帰って来ているようだ。店で長話をする訳にいかず、何となく話足りないなと思っていると、帰り際に瑛士君が言った。
「バイトいつまで?しばらくこっちにいるから、会って話さない?」
「明後日までだから、それが終わってから、5時くらいならいいよ。」
私は、瑛士君の声の懐かしさに引きずられて即答していた。真斗の事が頭をかすめたが、すぐに消えていた。
喫茶店の仕事も今日で終わりだが、後の事を考えると落ち着かなかった。昼頃に茜が顔を出したので、昼休みを一緒に過ごした。フライドチキンを食べながら、茜が真斗との事を訊いてきた。クリスマスに家に呼んだ事、そこでした事は
「えー誰なのその人?愛海とどういう関係?」茜は池で飢えている鯉が、餌に群れるように食いついてきた。仕方ないので、私は小さい頃の話を聞かせた。しかし、中学2年の時の話は、当然話さなかった。
仕事が終わり外へ出ると、瑛士君が待っていた。
「お兄ちゃん、お待たせしました。どこへ行くの?」
「お疲れ!どこか話せる所に行こうか。それから、お兄ちゃんはないだろう。」
「分かった。じゃあ、瑛士君と呼ぶことにするよ。」
「少し早いけど、愛、お腹空いてない?その辺の店で食べようか。」
瑛士君が案内したのは、小じゃれたイタリアンの店だった。「家に行こう」と言われたらどうしよう、と恐れていたが安心して付いて行った。ピザやサイドメニューをシェアして食べながら、瑛士君は大学生活や東京の話をした。あの時の気まずい出来事には、一切触れてこなかったし私も忘れていた。
「愛海は彼氏いないの?」瑛士君が訊いてきた。私はどう答えようと迷ったが、
「いるよ。もう17歳だからね。」と答えた。
「歳はあんまり関係ないだろう。うまくやっているの?」やっているという言葉を想像すると引っ掛かるが、適当に答えておいた。
「瑛士君は、彼女がもちろんいるんでしょ。」私はお返しに訊いてやった。合コンで知り合い付き合ったが、半年ほどで別れてから今はいないと言っていた。どんな付き合いだったか興味はあったが、それ以上は訊かない事にした。帰りは、
「家の車で来ているから、送って行くよ。」という言葉に甘えて、何の抵抗もなく送ってもらった。車の中で私は、東京の大学に行きたい旨、夏休みにオープンキャンパスに行く旨を話すと、瑛士君が案内してくれる事になった。家の前でラインを交換して、家に寄って行くように促したが、そのまま帰って行った。
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