第二章 初めてのデート

 1 よろこび

 茜とはまた一緒のクラスだが、工藤君とは同じクラスにはならなかった。いつもラインで連絡を取り合い、時間が合う時は一緒に帰った。お互い部活に忙しく、特に工藤君は帰りが遅くなる事が多く、週に1度か2度のペースでしか会えなかった。

 4月も終りになろうという今日は、久し振りに時間が合い、一緒に帰る事になっている。部活が終わって茜が、

「テニス部終わったみたいね、今日は真ちゃんと一緒に帰るんでしょ。」と私の顔をのぞき込んで言った。

「よく分かったね。」私はとぼけた振りをしたが、すべてお見通しという感じで、

「分かるよ、さっきから愛海、そわそわして落ち着かないからさ。じゃあまた明日ね。」茜には、隠しても無駄のようだ。

校門の辺りで待っていると、真君が自転車に乗って出てきた。髪は短めのツーブロック仕上げ、日焼けした顔は切れ長の目とすっと通った鼻が、男っぽい顔つきにしている。背は私が1m56㎝で、それより10㎝以上高いから70㎝位、私の好みのタイプには違いない。2回目に会った時から、真君は私の事を愛海と呼び、私は真斗と呼ぶのが照れ臭くて真君と呼ぶようにしていた。


 真君は自転車を押しながら、私がその横を並んで歩いていると、

「愛海、髪の毛切った?」といてきた。

「うん、よく分かったね。あんまり長いと鬱陶うっとうしいからね。どう似合っている?」肩の下まで伸びていた髪を、肩の線で切り揃えてボブヘアにしていた。少し大人っぽくなったと、自分では思っている。

「おー、いいんじゃない。愛海の顔は小さくて、目がぱっちりしているから可愛いよ。よく似合っている。」と私を喜ばせる言葉を掛けてくる。

 帰り道にある小さい公園は、子供たちの姿はあまりなく、いつも閑散としていて静かだ。木陰にベンチが二つ、ブランコとジャングルジムがあるだけだ。二人でベンチに鞄を間に置いて腰掛けた。うちの学校の制服は、男子は紺のブレザーに臙脂えんじ色のネクタイ。女子は紺色のセーラー服に臙脂色のスカーフ、細かいプリーツのスカートというものだ。

「真君、部活はどうなの?」

「5月に新人戦があるから、しばらくは忙しいかな。愛海はどんな予定?」

「私は6月に定期演奏会だから、それに向けて練習だよ。」とお互いの部活の事やクラスの事を話し、時間を過ごしていた。

その内に真君が鞄に手を掛けたので、帰るのかなと思ったら、

「ねー、もっとそばに行っていい?」と鞄をどけて、身体をにじり寄せてきた。逃げるのも変なので、肩を寄せたままうつむいていた。

「今度の連休には大会が終わるから、二人でどこかへ行きたいな。」という真君に、私も同じ事を考えていたのでうれしかった。

「意思の疎通そつうというやつだね。どこへ行こうか。」と話していると、真君が左手で私の右手をつかんで下に降ろし手をつないだ。私はドキドキしていたが、とても嬉しかった。連休は、映画を観てから街で遊ぶという事になった。

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