2 初デート

 5月のゴールデンウイークの終わり、真君と約束したデートの日になった。Tシャツの上にクリーム色のニットセーターを着て、少しひざ上のフレアスカートで駅へと向かった。

 駅に着くと、真君は白のパーカーにジーパンというさわやかな恰好かっこうで、スマホを見ながら立っていた。近くに寄って、

「おはよ、待った?」と声を掛けると、照れ臭そうに挨拶が返ってきた。

 電車に乗って3駅目で下車し、娯楽施設の集まるビルの中で、今話題のアニメ映画を観た。

「面白かったね、あの主人公の女の子、活き活きしていて可愛らしかったね。」

「このアニメずっと観たかったから、真君と一緒に観られて良かった。この後どうするの?」と真君の後ろを歩きながら、私は訊いた。

「そうだな、腹減ったからファミレス行く?」

 近くのファミレスで食事をしながら、お互いの家の事や将来の事を話した。

 私の家は両親と中2の妹の4人家族。真君は母親と小6の妹の3人家族で、真君が小学生の頃に両親が離婚して、母親は働いているので家に居ないことが多いようだ。将来についての話は、私から話し出した。

「私はまだ分からないけど、東京に行きたいと思っている。何を勉強するか決まってないけど、一人暮らしをして大学に行きたい。」

「そうなんだ。俺も大学行きたいけど、勉強あんまりしてないし、家の事もあるし、まだ決めてない。」と真君は、ぶっきら棒に言った。

 ファミレスに居座って2時間が経過していた。外に出て、ゲーセンに行く事になった。対戦ゲームやクレーンゲーム、プリクラも二人で撮った。その頃には打ち解けて、自然に手を繋いでいた。肩をぶつけ合ったり、真君が背中に手を廻して来たり、とても楽しい時間を過ごした。男の子と一緒にいるのはちょっと気を遣うが、女の子同士とはまた違う感じがしてとても新鮮だった。


 帰りの電車の中でも、肩を寄せ合い、手を繋いで座って部活の事や学校の事を話していた。私は、何となくこのまま別れるのが寂しいような、物足りないような気がしていた。駅に着いて、さよならするつもりだったが、

「近くまで送って行くよ。」と真君が言ってきた。

「いいよ、帰る方向が違うし、遅くなるよ。」

「まだ大丈夫だよ。じゃあいつもの公園まで行くから、そこで別れよ。」

本当は嬉しかった。まだ真君と一緒にいられると思うと胸が弾んだ。そのまま手を繋いで公園に着くと、まだ別れ難くてベンチに並んで腰掛けた。真君が販売機で缶ジュースを買ってきてくれた。

「じゃあ、ジュースを飲み終わるまでね。」という私の肩に真君の手が置かれ、傍に引き寄せられた。大人しそうに見える真君だけど、意外と積極的だ。しかも、肩を引き寄せる手には力が込められていた。私は真君からすっと身を交わして、ブランコの方に歩いて行った。

 夕闇が迫っている公園を出て、私は南へ歩いて10分、真君は自転車で北へ10分の所に家がある。


 帰り道を歩きながら、今日1日の事を考えていた。真君は初めから私を愛海と呼んでいて、距離をなくそうとしていたのに、私はそれに抵抗があってあえて真君と呼んでいた。今日のデートで、二人の距離は少し縮まったように思えた。だから、この時から私は、真君の事を真斗と呼ぶ事に決めた。

 男の子は何を考えているのかよく分からない。楽しく話している時もずっと、触れようとか、肩を抱こうとか、そんな事を考えているのかな。私が幼稚なのかもしれないが、一緒にいるのが楽しいだけで、それ以上の事は考えられない。確かに寄り添って座っている時は心地良かった。ゲームをやっている時に髪を触られてゾクッとしたし、肩に手を置かれた時も悪い気はしなかった。でも、その先はまだ考えたくない。だから真斗から瞬間逃れたのだけれど、真斗はどう思ったのだろうか。今度会った時に、取り敢えず謝ろうと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る