3 はじまり

 バスを降りる頃には、茜の説得に応じて、工藤真斗と付き合う事を承諾していた。私は男の子と話すのが苦手で、ましてや二人だけになる事さえも怖がっていた。しかし、茜のお墨付きの工藤真斗と付き合う事で、臆病な私にもけりをつけようと思った。茜は合宿中に、倉橋先輩の交際の申し込みを受けた。


 春休みが間もなく終わろうとしている3月末、茜からの呼び出しで、工藤君と3人で会うことにした。

駅前のマックの2階に上がっていくと、茜と工藤君が仲良さそうに話していた。割って入り難い雰囲気だったが、茜に声を掛けた。

「ごめん、待たせた?」

「ううん全然。」という茜は、白のブラウスの上にブルーのニット、同色のフレアスカートがよく似合っていた。長い髪は後ろで一つに束ね、学校にいる時よりも大人っぽく見えた。私は、白のパーカーにジーパン、ダッフルコートという格好で、どうにも子供っぽく見えた。一方の工藤君は黒のパーカーにジーパンで、私と示し合わせたような服を着ていた。

工藤君は私の顔を見て、照れた表情で、

「よっ!この度はどうも。」とおどけたようだった。茜は間髪を入れず、

「何それ、お膳立てしたんだから、はっきりと言いなさいよ。愛海も座ったら?」

 3人で注文したものを食べながら、部活や学校の話で盛り上がった。

「じゃあ、私は約束があるから。あとは二人で仲良くやってね。愛海、また学校でね。」と茜はさっさと帰っていった。工藤君と二人残された私は、

「何で工藤君は、私と付き合いたいの?」と気になっていた事なので訊いてみた。工藤君は私をちらっと見て、

「桐野さんのこと、前から可愛いなと思っていて…。」少し顔を赤らめながら、「俺のこと、どうかな。」と訊いてきた。

「どうって?付き合うかどうかってこと?それとも、好きかどうかってこと?」

「うんまあ、両方かな。」

私はどう応えようかと迷っていた。異性を好きになるというのはどういう事なのか、まだピンと来ていなかった。工藤君に交際を申し込まれて、嬉しかったしドキドキもした。それが好きという事ならそうだけど、多分違うと思う。黙っていると、工藤君が、

「俺は桐野さんのことが好きだよ。だから、付き合ってほしい。」いつも教室で見ていた工藤君とは別人のようで、真剣に訴えてきた。

「工藤君の気持ちは分かったよ。好きなのかどうかは別にして、私、付き合ってもいいよ。」と何とも歯切れの悪い答え方だけど、今の私には精一杯の返事をした。異性と付き合う事、一緒に過ごす事の意味はまだ分からないが、工藤君との交際に胸がわくわくして、なぜか期待している自分がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る