怪獣の匣
宮古遠
怪獣が匣の中にいます。決して外に出さないでください
「ほんとうに
いつの時代からこの世にあったか全く判らぬ、一辺およそ5キロメートルはあろうかという巨大な白い匣が中央に鎮座しているこの国では、そうした匣についての議論『匣論争』が、たびたび起こる。
「え、這入っております」
そうして議論が行われては、なぜかそれらは最終的に「なにくそう」「こなくそう」という肉弾戦の様相を呈し、髪をひっぱり引っ張る髪のない場合ははげ上がった頭をはたきヤジが飛び座布団が舞い踊りフラッシュが乱舞しプラカード凶器攻撃官房長官スープレックス総理大臣ロメロスペシャル―――などという血で血を洗う取っ組み合いの議論が交わされ、国会中継というものは謂わばひとつのパフォーマンス劇場と化し、最近では最高視聴率が七〇%を超える盛況であった。
「またやってるよ」
色々の起こる平和な世の中の色々の論議をつけっぱなしのテレビ画面越しにぼうっとうだうだ目撃しながら、僕といううだつの上がらぬ弱虫男は世の中に対する傍観者を決め込み、匣から半径一〇キロメートル圏内にあるが故に激安の賃料で住めるアパート(治安もお察し)の部屋―――家賃の催促状やガスや水道の請求書どもがどこかに潜むが無視され続ける万年床の散らかった部屋の中で、夏のうだる熱さにぐええぐええとやられながら、近所のスーパーで売っていた激安ぐでぐで素麺(ただ腹が膨れるためだけに存在する「うまさ」などという文字がそもそも存在しないであろう食い物)を、カセットコンロと鍋で湯がいて、ペットボトルの水でシメて、ずるるずるるとすすっていた。
が突然、
「ピンポン」
と音が鳴ったのでこりゃ催促の通知者がやってきやがったなと素麺を口に含んだまま居留守を決め込もうと思っていたら、
「バン」
と勢いよくアパートの玄関が扉ごとブチ壊され(通算101回目のぶちこわし)、
「匣の開け方が判った!」
と女―――こんな風に突然たびたび僕の家へとやってきては一緒にうだうだとするだけの関係性の、記憶喪失身元不明の怪しい自称『神さまの贈り物』たる活発白髪低身長系ロリっ娘美少女のルルさん(31歳独身)が、パンパンに膨れたケミカルな色をしたキャリーバッグをガダッと持ち上げ引きずりやってきて、はあはあ息を荒げるままにギラギラ血走る青色の目で、居留守を偽る僕を見据えた。
「ばご?」
「匣!」
「ほっふふ?」
「ボーックス!」
叫ぶルルさん。
わかっている。
素麺を食いつつ喋っているので、言葉がねじれるだけである。
「だからわたし、今日で最後ね」
「―――ん」
そうしてルルさんはどたどたとスニーカーをほっぽりキャリーを捨て去り壊れたままの扉を戻し上着を脱いで下着だけになって「あぢー」と僕の部屋へ当たり前のように上がり込んで、「なにくってんの?」「素麺」と僕の素麺をみて、「わたしも食べます」と告げるまま、洗い場に干していた百均で買ったセット小鉢の片割れへ、ベストな濃さで薄めためんつゆを注ぎ、素麺を箸で器用につかみ、ちゅるちゅるちゅると素麺をすすった。
「のびてるが素麺」
「だろう」
「んまい」
「んまいか」
「だるだるで」
「んまいのか?」
「んまい」
「んまいか」
「んまい」
まではよかったのだが、突如ルルさんは「うっ」と云って、
「きもちわるい」
「え」
告白をした。
「はきそう」
「ええーっ」
さっきまでの元気がみるみるうちに失われ、ルルさんの美少女然とした顔が白雪姫に毒々リンゴを食わせようとしたしわくちゃばあさんみたくなってゆく。が、この場合死にそうになっているのは白雪姫でなくリンゴを喰わせようとするばあさんの側だから、「このままだと『毒リンゴ婆さんリンゴ毒殺事件』めいたなにかになりそうだなー」などと考えたが、まったくもって意味が分からん。
―――これは出よるな
迅速に慌て始めた僕は、素麺をずるりと咥えたまま、「部屋の中で吐かれちゃ掃除をするのに困るぞう」と思ったので、どうにかそのルルさんの「吐きそう」と云っている物体つまりは「産み出されるのが確定的な身元不明女の吐瀉物」を受け入れうる抱擁袋を、わたわたおろおろ探し求めた。が、そうしてわたおろするうち、みるみるルルさんがオロロのデロロになってくるし、慌てている間というのは考えが狭まってしまうのもあるし手元の小鉢じゃ小せえしでもう、どうしようもなくなって、
「ん」
と着ていたダボダボシャツを、彼女の口の真下へ寄せて、全手動排出物受け入れ袋に、変身させてやるしかなかった。
「うごえ、おえろえ、おええろげげえ」
―――おぎゃあ
元気に産まれた美少女のゲロ―――名はゲロ美。ゲロ美の身体は素麺だけで構成されていて、ぐでぐでの素麺を喰ったときにだけ現れる大変レアなゲロ。ゲローと鳴く―――と思っていたがその考えは浅はかで、素麺前に色々のものをゲロ美の血肉としていたらしい。なのでなんというかちょっと、文面としてここに表すにはえげつなさ過ぎるので、以下ゲロ美のことは『ゲーミングゲロ美』と呼称することにする―――をその衣服の器の中で受け止め、受け止めきれず、僕の昼飯たるだるだる素麺すべてにゲーミングゲロ美がどばっとかかり、名状しがたきゲーミングゲロ美素麺モンスターというこの世に生まれたことそのものが罪な食物が、キチンとこの世に爆誕した。
「なにやっとるんですお前さん方」
これからグヘヘとスレンダーゲロ美少女ルルさんにパカッと恥部も全てもおっぴろげにされちまう(真偽不明)であろう白き匣の表層が、うだうだ汚れる僕らをズイと眺め、幾何学的にパンと瞬き、ケケケと僕に嗤った気がした。
ふざけるな。
◆
「―――で」
「うん」
「匣の開け方が判ったって、どういうこと?」
ゲロ騒動がひと段落したので、寝そべる僕はルルさんに、匣の開け方のことを尋ねた。
「匣の開け方は開け方」
「そうではなく」
「なく?」
「なんでそれがわかったのか」
「あーはー?」
欧米人でもなんでもないのに、欧米みたいな声としぐさで「んふ」と笑ったと思ったら、
「9%酒を延々呑んでー、そう、たぶんあれは10本くらいだったかな。決めまくってなにもかもどうでもよくなってうわーたのしーうわーかなしーてなってたら、なんだか滅茶苦茶回りたくなって。だから頭を支点に路上で、ヘッドスピンをしまくったのよ。いえーいって。そしたらなんか、その回転がよかったのか判らないんだけど、たぶん地球そのものの自転回転数とわたしの回転速度というのが、奇跡的合致をしたんだろうね。合わさって電波を受信したっていうか、地球のなんか主的な? やばいみてくれのなんか、名前がやたらクソ長くてだからそのおじさんの名前、全然覚えらんなかったんだけど、とにかくそのおじさん『私は神。教えてほしいことあったら、なんでも自由に云ってみんしゃい』みたくいうから『おお』と思って、『匣の開け方わかります? ドゥーユーミーン?』てたずねたら『おーイエス! これじゃよこれっじゃよお嬢さん。いえいいえーいおっぱいみせて』『ないものをねだるな』『ひんっひんっ』『でも見せよう』『うっひょー!(神昇天)』て感じで開け方教えてくれたんだよね。そのあともなんかよく分からないものいろいろ沢山食べさせてくれたし、なんか生きた飴もくれた」
「そしてここへやってきて」
「うん」
「勢い余って素麺を食い」
「うん」
「ゲロ美を産み出しまくったと」
「そうなるね」
「なるほどなあ」
なるほどだろうか。
「いまその飴舐めてるけど、みる?」
「みる」
「んあー」
粘液の糸を引きながらかはーと口を僕の眼前へくんっと近づけたルルさんは、舌の上でコロコロと転がされているヤツを示した。確かにそれは、舐めたらパチパチするヤツだった。けれどもしかするとそれは、なにかやばい飴ちゃんなのかもしれない。だってパチパチしていたし、確かに生きていたというか、脈打っている気がしたから。舌で触ったらドクドクしたし。
「がりー」
の一言で死んだけど。
「かじるなよ」
「いいじゃん」
「虫歯なってもしらないよ」
「いいの」
ふふとわらう。
がり、がり、がり、がり。
揺れに合わせて砕ける飴。
かじるなとは、云ったものの。かじりたくなるのは僕だって判る。齧った方が食べた気するし。でも生きた飴というやつだからかじるとそこで死ぬんだし、躍り食いで胃に溶かす方が心象的には楽だと思った。寝そべり揺れてそう思った。
ルルさんの話すいろいろの事柄がほんとうというか現実だとはあんまり思わないけれど、そもそも彼女は自分自身がよくわからないし、そんな彼女がもっともらしく僕に話すのだから、それは正しく現実だろう。あるわけないとは思いながらも、あるんだろうなと理解をした。
「―――どう思う?」
急に聞かれる。
「どう思うとは」
「匣のこと、開けて良い物なのかどうか」
「開けたいんでしょ」
「そうだけど」云って続ける。
「一応やっとくもんなのかなって。こういうの」
「どういうの」
「開けるなー行くなー傍にいろー、ひいんひひいんみたいなさ」
身体をやたらくねらせる。
「ない」
「ええ」
「絶対にない」
「なんでさ」
「だって僕がどうしたって、結局は逃げて開けるでしょ」
「それはそう」
「ずうっと開けたかったんでしょ?」
「それもそう」
「匣を開けて、開けた嬉しさの中に死にたいんでしょ?」
「そう」
「なら意味なくない?」
「つまんないなあ」
「つまんなくて結構です」
うだうだとして、少し黙る。
互いの吐息だけを聞く。
―――止まる。
「開け方が判ったって云ってたけど」
「うん」
「中身が何かは聞いたりした?」
「ううん。開け方、開け方だけ」
「そう」
止まったまま、突然ルルさんが僕の腹をなぞる。
「怪獣さ、這入ってるかな」
「どうだろね」
「なにが這入っててほしいとかある」
「―――べつに」
「あるんだ、なんか」
「ちがうよ」
「ちがわないじゃん」
「うるさいな」
「なに這入っててほしいの? ねえ」
「いいじゃん別に」
「いいじゃんかー最後なんだし」
「いやだ」
「いっちゃいなよーねえってばー」
また動き出す。
なめくじみたいに。
僕は答える。
「もうなんだっていいんだよ。匣の中身がなんだって、出しちゃったらもう終わりなんだから。おんなじように出て、出して―――そのまま虚しく消えればいい」
「―――そっか」
ぶっきらぼうな僕の手を、柔らかで温かい手が握る。
「ごめんねいままで」
「気にしないでよ」
「?」
「謝りたくて、ツラくなるから」
「―――うん」
呟きながら彼女が垂れる。銀の髪が雨になって、ぼくの身体に降り注ぐ。僕を包む。密着する。引っ掻く。齧る。齧る。齧る。
感触が、包まれてるみたいで好きだった。
好きだったから、生きたくなるから、ルルさんのことを受け入れた。小さな体で僕のことを、ずうっと包んでもらっていた。そうしていつも最後の果てに、起き上がっては死にたくなった。だからそうして死にたくなるから、匣の中身にそう願った。絶対あり得ないことを。僕にとっての幸せを。
噛まれて死んだ飴の味。
精液の味。
ゲロ美。
◆
つけっぱなしだったテレビが騒がしく延々と鳴っていたのが、印象的な朝だった。
「匣が開いてしまいました」
基本的にはこれだった。
が、なんともややこしかった。
匣があき、そのコトに対する報道や噂が、色々の場所やSNSで、発信されていったのだが、各人の見解がまったくもって異なっていて、それはもう、騒がしかった。
まず起こったのは、「匣の中にはまぎれもなく怪獣がはいっていた」という人々と「匣の中には怪獣などまったくはいっていなかった」という人々とによる分離と、論争だった。いったいどういうことかというと、つまりはその、「IN怪獣」派と「NOT IN怪獣」という両方の「正しき現実」が、同時に同空間に、しかし認識を別として、同時に生じてしまったらしい。だからどちらも正しくて、どちらも正しく間違っていた。
『怪獣が匣の中にいます。決して外へ出さないでください』
半分は確かに当たっていたが、半分はまったく間違っていた。どうしてこうなったのか考えるなか行き当たった結論は「もしかするとこの文言は、その『現象』に対峙し、これを書き残した者が、それ―――つまりは、なんらかの想像を具現化しうる『願望機的概念』そのものを、中身が怪獣だという理解をするまま後世へ遺した文言であるらしい」というものであった。
つまりこれは警告文でありながら、匣の中にそれが這入っていることを望んだ者の願望文言―――呪詛的文言の意味合いも有する文面になってしまっているということだった。太古に『中身は怪獣である』とわざわざ匣へ書き残した何者かの行動が、善意由来のものだったか、悪意由来ものだったかはもう、解釈次第でしかない。
が、中には怪獣でなく、ぼくみたいに別のモノの這入っているのを、匣の中に想像し、目撃した人も大勢いた。その中でも多かったのが、有名な実験の印象イメージが匣に対し先行していたからなのか、「匣の中に這入っていたのは怪獣ではなく巨大猫だ」「巨大な猫の死体だ」という二分だった。
けれどそこからがなんというか、どうにも少しややこしく、
「匣の中に這入っていた猫は『黒』『白』『サビ』『キジ』『三毛』『ドラ』『少女』『宇宙』猫だ! お前はなにを云っている!」
などという模様や種類分類による匣入り猫宗教の分派が生じることになった。「あがめよ」「和解せよ」「悔い改めよ」と、基本的に云っている文言は誰も彼も似たり寄ったりではあったが、そうした諸々の違いについての事柄をここへ書き記すにはとても字数が足りないし、まったくの知識不足なので、割愛させてもらおうと思う。
ちなみに国会はプロレスから、なぜか異能バトル会場と化した。やたらとニヒルな総理と官房長が魑魅魍魎の参加者と化した議員闘技場の真ん中で、「残像だ」「わたしも」「なにい」と云い、延々互いの背後に現れる映像はとてもシュールで面白かった。面白かったが、それしか終始起こらないで次回へ続きまくるので、国会中継視聴率は、あっという間に一桁になった。というか正直この変貌は、匣とまったく関係がない気がする。なんだこいつら(ごめんなさい)。
―――とにかく。
匣の中に這入っていた色々のことにより、情報の錯綜、混ざり合いというものは世間に対しある一定の混乱状態を生じさせるには十分だった。
その情報の混ざり合いにより匣論争は混沌とし、そうしたものを聞いていると、這入っていないが這入っており、怪獣の見た目は猫のようで、サメのような背びれがあり、特撮めいた光線を吐き、無数の翼が生えており、100本タコ足のぬめぬめとした、マトリョーシカみたいなうろこのケーキに被われたもふもふのなにか―――というような感じで。だから情報集結そのものが、
という諸々の事実を、どうして僕がこんなにも冷静に、俯瞰的に推察をすることができたのかというと―――そんなことはまったくなく、僕自身、匣の中身の影響を受け、匣の中からあるものがジュワッと大きく飛び出したのを、この目でしっかり目撃した。それが結局、僕が僕を殺すことを、やめるに至る
『ああー巨大で素っ裸の、それはもうエチチなおねえさんが、匣の中に這入ってたらなあ。そしたら子宮世界の中へ這入って、赤ちゃんになって生まれないまま、ずうっとずうっとオギャッて眠っていられるのになあ』
これが僕の中身だ。
ひどいったらありゃしない。
が実際そうなったから、なんというかどうしようもない。
仮に噂が広まったとすると、
「あいつの中身、巨女らしいぜ」
「まじで」
「きも」
「子宮にいたい願望なんて、卵子の頃に卒業しないといけないのにね」
「ね」
などと馬鹿にされるのだろうか。
つらい。
けれどまだ、罵倒のほうが、
「おお同士よ! 匣の中に巨大で素っ裸のそれはもうエチチなおねえさんが這入っていてほしいと願ったものたちだけが暮らすことの出来る、エチチ巨女同盟国を建国しよう!」
「嫌です」
こうなるよりはマシな気もする。
「あ、おはよう」
「おはよう」
素っ裸になって出てきた記憶喪失身元不明の怪しい自称『神さまの贈り物』たる活発白髪低身長系ロリっ娘美少女ルルさん(31歳独身巨女)。僕の巨女願望がどうして彼女になったかはもう、僕のそれまでのルルさんとの、ウダウダ生活そのすべてが、匣の中身に対する考えへ、多大に影響を与えたとしか云いようがない。
「けれどそうであったとしても、ちょっと安直すぎやしないか」
僕は僕に思ったが、出てきたからにはどうしようもない。
あとこれは、ルルさんの足元へ向かおうと、巨女ルルさんとうだうだ話しながら(声は反響するというより、直接脳内にルルさんの声が聞こえる感じで、違和感がなかった)歩くあいだに判ったことなのだが、どうもいまのルルさんはなんというか、匣を開けて、開けたときの成就の多幸のままに死んだ直後のルルさんがここへ巨大化―――いわば召喚されて、僕の願う願望と合わさって、顕現しているようだった。だから厳密にいえば、このルルさんはルルさんであって、ルルさんではないのかもしれない。
が、そのあたりのことを考え出すと、またきっと長々とウダウダすると思うので、そうしたうだりの考えに、僕は「おさらば」を決め込んだ。そうして僕は、無数のミサイルの爆発や無数のハラヘリ猫の噛みつき強襲を受けながらもびくともしないルルさん―――巨女ルルさんの御足もとへ辿り着き、
「きのうさ」
「うん」
「匣の中になにが這入っててほしい、て聞いたじゃん」
「うん」
「僕さ、なんていうか実は」
「うん」
「ああー巨大で素っ裸の、それはもうエチチなおねえさんが、匣の中に這入ってたらなあ―――て思ってたんだよね」
告白をした。
「ご覧の有様だもんね」
「うん」
「しかもこれには続きがあって」
「つづき」
「そしたら子宮世界の中へ這入って、赤ちゃんになって生まれないまま、ずうっとずうっとオギャッて眠っていられるのになあ―――て、考えちゃってたワケなのね」
「それは流石に気持ちわるいね」
「よかった」
「え」
「安心した」
「なんで」
「肯定されなかったから」
「なるほど。で―――」
ルルさんが続ける。
「その、キミのえろいねーちゃんの想像が結局、散々ああいうことしてたのもあるから」
「うん」
「わたしと同化しちゃった、てこと?」
「シンクロフュージョン、みたいな」
「シンクロ?」
「そう」
「ヒュージョン?」
「フュージョン」
「合体?」
「合体」
「コスモスさんとジャスティスさんが―――」
「やめなさい」
「はい」
少しの沈黙。
すぐ終わる。
「それでどうする? 這入っちゃう?」
「いいの?」
「まあ、いいんじゃない?」
「願望とくっついたせいか」
「そうかもだし、じゃないかもしれない」
「ややこしいな」
「レジェンドだね」
「やめなさい」
「はい」
そうして僕は、爆炎花園の響きの中、うんこ座りにしゃがみ込んだ巨女ルルさんの中へ、
「じゃあまあ」
「うん」
「お邪魔します」
「はい」
とうとう這入り込もうとした。
が、突如巨女ルルさんは「うっ」と云って、
「きもちわるい」
「え」
「はきそう」
「ええーっ」
となったので僕は、
「ん」
と着ていたダボダボシャツを、彼女の口の真下へ寄せて、全手動排出物受け入れ袋に、またもや変身さすしかなかった。
「うごえ、おえろえ、おええろげげえ」
―――おぎゃあ
怪獣の吐く熱焔みたいに、めちゃめちゃに生まれた美少女のゲロ焔流。
小さいけれど大きなロリっ子、美少女ルルさんの産み出したこの世の苦しみ。
ゲーミングゲロ美マーク2。
「いまはまだ、そのときではないということか」
ゲロ美の海へ浸る中、おっさんの声がケケケと鳴った。
誰だお前。
怪獣の匣 宮古遠 @miyako_oti
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます