第6話 先輩とおじいさん
マーク達はこの間の実践訓練を終えて何事も無かったように今日の訓練をしていた。ただマークの班の奴らのリーダーの名がロージーと言う事だけが分かった。
今日は朝から雨が降っている。
ライルとマークは外を眺めていた。最も今の時間は授業中なので真剣にやっていない状態を見られると当然怒られる。
しかしこの間の実戦訓練は二人には衝撃的なものであったし怒られてもなんとも思わない程マークは今回だけは堪えていた。
「ライル、俺の班の嫌な奴ら、名前はロージーと言ったよ。やつとこの間少し話しをしたんだ」
「そうなのか? 以前はパーカーの事を悪く言ってただろ?」
「そうなんだけどな、今となってはそんなに悪く無いみたいだよ、それと以前に訓練場の卒業生で現役の船乗りがいただろ? その中に俺たちに文句言って来たやつ」
「ああ、覚えているよ。その人もロージーと繋がっているんだろ?」
「先日訓練中に嵐の中を救難で駆けつけてくれた方の巡視船にその人が乗っていたんだけど、もう俺達に対する態度は変わってよくなっていたよ」
「そうなんだ、俺達はあいつらからするとよそ者のような存在で、自分達の領域に入って来たような感覚があったのかも知れないな、いずれにしてもまあよかったな」
午前中の訓練を終え、食事を済ませるとライルはマークに、ある話を切り出す。
「この間の話がでたんだけど、俺達の班にジェスというのがいるんだ、それが珍しい本を借りてあって不思議に思って見ていると、そのジェスは何か調べたい事があると言ってるんだ」
「調べたいこと? ここは本が借りる事ができるのだな」
「そうだよ、それで何の話か分からないだがジェスは作り話しのような事を俺に熱心な気持ちで話すんだ」
「それってどう言うことだ?」
「その話を簡単に言えば、このコンプリトルの島が狙われていると言う話なんだ」
「誰が狙っているんだ? それもなんの為に」
「だからそれを俺も調べて行きたいんだ」
「よしわかった、一緒に調べてみるか」
「話について来てくれるんだな」
「勿論だともライル」
ライルとマークは午後の訓練を終えた後図書室へ足を運んだ。
「ライル、一体どこから探せばいいのか?」
「うーん、この辺りかなあ」
図書室は中に入ると広く本の棚も高い位置まで備え付けられていて、意外に書籍の量が多かった。ライルは図書室のある項目の列にいて一つの重い本を取り出した。
「これだ、これに載ってあるかも。」
ライルはこの本を取り出しあるページを開いた
「ここ、マークここに記載してある」
(船の製造と歴史)。
この船の設計のもとは別の設計者から代用したものだ。その設計者はある組織に所属していて追放された。後に船の設計と構造の知識を世界に広める
「ライル、これが何の意味をさしているんだ?」
二人が話している所にジェスがやってきて何でも知った風に二人に言う。
「そう。そこにも載っているだろ、しかし肝心な問題の懇親の部分にはどの書籍もふれてないのだ」
二人は未だに調べている物を把握していない。
「あっジェス、丁度よかった、こっちがマーク、今話をしていた所だったよ」
ジェスは無表情で感情を顔に出さないまま二人に言う。
「この問題はあまり人に広めない方がいいんだ、この島のどこかにスパイがいるかも知れないんだ」
「スパイ?」
「大げさだな」
マークはジェスというのは変わっていると思った。
「まあ、これからおまえらも分かってくるだろう」
消灯の時間が迫ってきたので三人は部屋へ戻った。
謎は解決しないまま訓練場では練習が1年近くもたっていた。
一時帰宅が出来る時がやってきた。
「いやー久しぶりだなー家に帰れるなんて、なんだか清々しい気持ちだよ」
「そうだなマーク、天気もいいし暖かい季節になってきたし」
ライル達が訓練場の門を出ると向こうに誰かいた。
「パーカー!」
ライルはパーカーに気づきマークと久しぶりに見るパーカーが嬉しくなって門の所まで走った。
「パーカー、元気していたか? あれから心配してたんだぞ」
マークの声にパーカーも嬉しそうに言う。
「そうなのか? 訓練で精一杯じゃなかったのかい」
「まあ、それもあるけど」
ライルはいろんな事を思った。
「外はとても退屈だったよ、訓練の方は順調だったのか?」
「そうだな、いろいろあるけど」
「そういえば二人とも、タナーって子覚えているか?」
「もちろんさ」
ライルがすぐに答えた。
「あの子、この間、港に来ていてライルを探していたよ。近々引っ越すみたいでそのとき港で会ってから見なくなってしまったんだ」
「そうなのか? 何処に引っ越すんだろうか?」
ライルはタナーに色々聞きたいことがあったので気になって思い出す。
パーカーが言う
「港、行ってみる?」
「よし言って見よう」
三人は急いで港に行ったがもうそこにタナーはいなかった。
三人はそのまま港でボーッとして時間が過ぎていった。
天気はとてもよく雲は静かにながれていて今日の港の船は少なく静かだった。
「どこ行ったんだろうね?」
ライルがボソッと言い、答えるパーカー。
「船?」
「違う」
「漁船のおやじ?」
「ちがうー」
「タナー?」
「そう」
三人はまた黙ったまま時間は流れ続けた。
「あのさ、パーカーにも話そうと思っていたんだけど、訓練場でジェスってのがいたろ?」
「あージェスか、懐かしいな」
「それがね、ジェスから始まった疑問だけど」
ライルはマークに話した時のようにパーカーにも話した。しかしパーカーもまたその話しに今ひとつピンときてなかった。
パーカーはずっと遠くを見ていた。
「世界は広いからなあ、なにがあってもおかしくないよ」
「そうだな。しかし今の俺が直面している問題がもうひとつある。それは家に帰りたくないと言う事だ」
ライルは真剣にハッキリ言った。
「ライルの家はまだ父親と喧嘩しているのかい?」
「ああ、そのままだよ。なにも変わってはない」
三人が家にも帰らずに港へ来てからもう夕方になる頃、そこに漁を終えたポブじいさんが帰って来た。
「やあ、君たち久しぶりだな。最近みなくなったと思っていたが」
「山の上の訓練場に入っていたので」
「そうかライル、お前達も船乗りになるんじゃな」
「そうです。しかし簡単ではないようです」
「そうじゃろ。船は実際に海へ出るまで分からないことも沢山あるのだ。おっ、ありがとう」
ライルはポブの船に乗って、作業を手伝った。
「ところでポブじいさん、一つ聞きたいことがあるんだけど」
ポブじいさんに尋ねようとした時ライルは思った。ジェスが言っていたようにあまり人に知られると良くないと言う事を思い出した。
「なんじゃライル」
「いや、何でもないです。また今度聞きます」
ポブじいさんは何でも知っているようなので色々と聞きたい事があったけどライルは話をはぐらかした。
するとポブじいさんから問いかけてきた。
「ライルの聞きたい事とはコンプリトルを侵略しようとする組織の実体を知りたいのだろ?」
ライル達三人は、意図を突いたおじいさんの返答にビックリして顔を見合わせていた。
「知っているのですかおじいさん」
「知っているも何も俺は昔そこにいたのだ。そしてそこの組織の一員として働いていたのだ」
「えーっつ!」
また三人は顔を見合わせた。
「そしたら、おじいさんはスパイでこの島に来たのですか?」
「はっはっはっ!」
「スパイだったら今ここでこのような話はしないし、わしはもう年寄りだ、このまま魚取りをして生きて行くだけだよ」
「するとおじいさんはもうその組織には戻らないのですか?」
「戻る? ふっ、戻れないよ。戻りたくもないのだがな」
「そこでは何があったのですか?」
「すまんが今忙しいんじゃ、話すと長くなるのでまたあとでな。一つだけ言っておくがその組織の名前はライルだ、おまえはよく知っているよ」
「はっ!」
ライルは息を飲んだ。
「そうだゴークだ」
「あの六文儀の名前。今も存在するのですね?」
「ゴークは古くからある文明国家で今も当然存在する、その六文儀はわしが昔使っていたものだ」
ライルはジェスが言ったものと話がつながった。今すぐにでもジェスに報告したい気持ちだった。
「わしはもう行くからな。また聞きたい事があったらここに来い」
老人は忙しそうに帰っていった。
ライル達は遅い帰宅になってしまって、家では以前のように両親が待っていた。
「おかえりライル。ご苦労さまだったね」
ライルの母親は優しく迎えてくれた。しかし父親はと言うと相変わらずライルの事を良く思っていない。 今からおもしろくない会話が始まると思うと嫌気がさしてくる。
「ライル、訓練場へ行って少しは顔つきが変わって来たみたいだが船乗りの道は続けて行くのか」
ライルもやはりその問いかけになるとはっきりした答えが出なくなる。
「俺はまだ思案中で将来はどの道に進むか決めていないよ。訓練を期にいろんな事を覚えて夢に進んでいこうと思っている」
ライルは何時もと少し違うハッキリした声で話すようになっていた。
ライル本人は気づいていないが父親はライルが変わっていく様子が分かっていた。
翌日マークがライルの家を訪れたが、そのマークの顔は曇っていた。
「どうしたんだマーク、暗い顔して」
「うん、びっくりしないで聞いてくれ、俺船乗りを目指すのを続けていけなくなったよ」
「えっ、どうしてだ?」
「俺の家の店、ポルトは知っているだろ?パン屋の事。結局俺もポルトを継がなければいけないんだ」
「マークはやっぱり実家を次ぐのか?」
「うん、いずれは次ぐ予定だけどそれまでは訓練して船乗りになり巡視艇に載って仕事をしたかったんだ」
「だからパン屋を継ぐのは今すぐじゃないだろ?」
「それが父親の体が今調子悪いんだ。昨日家に帰ってから知ったんだけど、少し前に親父が急に倒れたらしいんだよ、今は意識を取り戻してベッドで寝ているよけど」
「それじゃー船乗りは辞めてしまうのか? 訓練場は俺一人になってしまうじゃないか、一番船に興味のない俺が一人で船の訓練をしてどうするんだ」
「ごめんな、仕方ないんだ。父親が動けなくなると家のパン屋は店を閉めるしかないんだ」
「急すぎる話だな」
「ライルの気持を分かっていてから話しをしているつもりだ。おれも父親がせっかく出した店、ポルトを潰したくないんだ」
ライルはこれから先の事が不安になってきた。
訓練場は中間解放の期間を設けてあり、その期間を使って訓練員達は家に帰っていた。家ではライルが倉庫においてある飛行自転車の修復をしていた。その横にはゴークとかかれてある六文儀が置かれている。
ライルはこれから訓練場で一人になることに不安もあったのだが自分の自転車で気を紛らわす為にいじっていた。
やがてライルは丘の上に登り、またいつもの場所で以前のように空を眺めていた。
すると下の港街の方ではなにやら騒がしかった。
ライルは六文儀を取り出しそれに付いているスコープで港の方を覗くと港にはボロボロになって帰ってきた護衛館の姿がそこにはあった。
「何があったんだ」
ライルはすぐに港の方へ走った。
あっと言う間に港へ到着すると護衛館の無惨な姿がそこにあった。帆も甲板も大砲も皆ボロボロで痛々しかった。
「どうしてこんなことになってしまったんだ」
ライルは護衛館をここまで破壊させるほどの海賊船がこの世の中にいるのかが信じられなかった。ライルは心の中で何か怒りのような、焦りのような、言葉では表せきれない感覚の物が動いた。
船の近くに寄ると大勢の人が集まっていてその中にパーカー、マークがいた。また二人の横にはマークの班であったロージー達がなにか話をしていた。
ライルに気づいたロージーが声をかける。
「おおっ、来たか。こっちに来てくれ」
「みんな来ていたんだ、大変なことになっているな」
ライルの慣れない言葉がロージーに届くと、焦る様子もなくライルに言った。
「このくらいたいしたことないよ、多少のけが人は出たものの相手は我がコンプリトル護衛館の威力に降参して撤退したのだ」
「これでこの船は平気なのか?」
「そうだよ、沈んでないだろ?」
「うん」
ライル達が話していると船の艦長らしき人が船から下りてきた。
「元気にしていたかロージー。最近は訓練場でみっちり鍛えあげられていると聞いたが」
「訓練場は遊びみたいなもんですよ、もっと本格的な訓練をして欲しい不満はありますけど。それはそうと船体の状態は大丈夫ですか?」
「ああ、これか。今回の敵船はかなり巨体だったからなあ、しかし相手の大砲を数多く受けたがこの船は頑丈で航行自体には全く影響は無かったよ」
「でも修復にはかなりの費用と時間が必要みたいですね」
「そうだな、でもこのリスクを背負ってでもコンプリトルの島の安全には変えられないし海賊達にもコンプリトルの力の強さをおもいしらせねばならない」
「海賊は他にもいるのですか」
急にライルがなげかける疑問に鑑長みたいな人が言う。
「ああ、沢山いるよ。他の国は貧しい所が多く、船乗りをしているものが食べて行けなくなってやがて海賊になったりしていくのだ。そしてこのコンプリトルに出入りする貨物船をねらったりして彼らは生活していくのだよ」
「大きな船を持っている海賊もいるのですね」
「まあ、どんな海賊もいるだろうがただの海賊だ。それらの船は旧型で性能も低く我らの船にはかなわないだろう。君たちは心配する事ない」
この艦長みたいな人は何事も無かったような顔で船を降り、迎えに来ていた馬車で街へ消えていった。
ライルは最近考え事をする時が多くなってきた。
訓練場では色々な人との出会いがあって思いのほか良い場所ではあったがパーカーが辞め、マークも続いて辞めていって結局は俺一人だ。港では海賊船の襲撃があったし、ジェスの意味深な話しなどするし、先は不安だった。また漁師のポブから貰った変な六文儀、そして今はいなくなってしまったタナー。
最近になってライルの中にいろんな問題が出てきて飛行自転車を飛ばしている場合ではなかった。
「そういえばタナーはどこに行ってしまったんだろう」
ライルの目にはこのコンプリトルだけではなく、この世界がどんどん変わって来ているように思えた。
「来たか少年」
ライルは朝から港にいて漁船にはポブが乗っていた。ポブじいさんに会いに来ていた。
「今日はしっかり教えてくれるよね」
ライルは以前から思っていた疑問を訪ねようと思い例の謎を解決させる為にジェスもつれてきた。
「この人がライルの言っていたポブじいさん?」
「そうだよ、何でも知っていてジェスの知りたい事も分かるはずだ」
「すごいよライル、こんな知り合いがいるなんて」
「俺もはじめはただのじいさんだと思っていた」
「誰がただのじいさんじゃって?」
ライル達が急にいろんな事を聞き出そうと思うと言葉が出てこない。
「ジェス、おまえ質問があるのだろ? 何か聞けよ」
ライルは丸投げするような言葉でジェスに振った。
「うーん、そうだなー、沢山ありすぎて……」
もたもたしている二人に待てずポブが話しを切りだした。
「よし、それでは言うがな。皆も知っているだろうがこの間の護衛館を狙った襲撃事件は分かるよな? あれはゴークの仕業じゃ」
「えーっ!」
ライルとジェスは唖然とした。
「だって、船の艦長みたいな人が海賊船だと言っていました」
「ふっふっふっ。海軍もそれを隠しているんじゃよ」
「へ? なぜそれを隠さなければならないのですか?」
「以前からも海軍はゴークの存在をわかっていたんだが敵はあまりにも規模の大きい組織であって、相手に本気を出されるとコンプリトルの船は太刀打ち出来ない。その事実を島の人に知られると海軍としては都合悪いんじゃよ」
「それでは僕たちは海軍に騙されているのですか?」
「そうでもないさ、このコンプリトルの護衛館とその乗組員達は自分達が我が国の船力は劣っていないと信じているし、今回の海戦もその志を持っての戦いで挑んでいるのは間違いない。ここの島の人たちを不安にさせたくない、ただそれだけじゃよ」
「しかしまた、いつ襲ってくるのか分からないのですね」
「ああそうだな、またいつ来るだろうか分からないな」
「その時はどうすればいいのですか?」
「どうすることも出来ない。やつらの力ははかり知れないんじゃろな」
「くそー、何も出来ないなんて」
「ほんと怖いよな」
ジェスも話を目の当たりにするととても恐ろしかった。
「ポブじいさんは何でそこにいたんですか?」
ライルが質問らしい事を初めて言った。
「昔にさかのぼるが、わしは貧しい国で生まれた。ある日わしと、わしの家族は他の恵まれた国を求め、大勢乗せた船で海へ出ていた。その船は古く小さかったはずだがそれに対して乗っている人が多かったので、沢山乗せた船は航海途中の海の真ん中で座礁した。まだ赤子だったわしは籠にのせられたまま海上に浮遊していた。わしの家族と他の人は何処に行ったのか、死んだのか全くわからなくなってしまったのじゃ」
「すごい人生だ!」
「それからと言うと潮に流されているうちに、わしは通りかかった船に引き上げられ、そこで、ある家族に育てられた。わしの記憶はそこからしかなくその家族の子供として生まれたと本気で信じていた。その家族は次第にわしに武術や武器の扱い方を教育していく。そこの国の子供はみな同じような教育を受け、成人に近づくにつれ殺人の方法も教わる、その国は軍事国家だったんだ、わしは既にその国ゴークの国民だった。」
「殺人……」
「それからわしはいかなる時もその国に貢献してきた。でも本当の両親がいたことをあとから聞かされて実は殺されていたと言う事を聞かされた」
「殺されたって誰からなの?」
「殺したのはわしが住んでいた国ゴークの者だ。後から聞かされた話じゃった、あの時は本当言うと船が座礁したのでなくゴークの国の船に沈められたのじゃったよ。あのゴークの国はコンプリトルの島より狭い国だ、しかし昔から戦争や海戦を繰り返してきて領土を増やしてきたり、他から財を奪ったりして文明は他の国と比べものにならない位急激に発達した。戦争は殺しをやる。実際わしも何人も殺してきた。そのおかげでわしはその国の階級を上がっていったのだ。しかしそれを続けて行くのが自分で嫌になり、わしの考えを上へ申しでるが、相手にされないだけでなく反逆者としての扱いを受けてしまい、それから監獄へ20年ほど入れられたのじゃ」
ライルとジェスはポブじいさんの話がどんどん恐くなってきた。
「それからわしは同じ監獄にいた仲間と一緒に脱獄を計画した。その監獄ではほぼ反逆者の罪に囚われたものが多かった。わしは頭が悪かったがそこにいた仲間は頭の切れる男で念密な計画をたてて脱獄は成功した。その男の名前は今でも忘れないよ、ルイと言うやつで顔も良くいい男じゃった」
「ルイ? 俺のおじいさんと同じ名前だ」
「たしかわしと同じ位の年だったよ。ライルのおじいさんはまだ生きているのかねえ?」
「いいえ、ぼくのおじいさんはぼくのお父さんが小さいときに、海へ出て嵐に巻き込まれ死んでしまったよ」
「ほう、そうなのか。しかしその人の遺体とかは見つかったのかね? 嵐にあったのも事実なのかね?」
「それは分からないですけど。でもまさか」
ライルは一瞬頭から冷や汗がでた、その瞬間周りの海が広く遠くみえはじめた。
「わしの仲間だったルイは島に男の子を一人残してきてしまったと言っていたが、わし達は脱獄した後は、お互い逃亡地をあかさず見つからないよう隠れて暮らす事に、決めて分かれたのだ。だから今もルイの逃亡先は分かっていないし、囚われた場所へ戻るとすぐに身元がばれてしまうから、ルイがライルのおじいさんだったとしてももうこのコンプリトルへは二度と戻らないだろう」
ライルはかたまったままだ。
「わしもそうやって今まで身を潜めて漁師としてくらしているんだ、ライルには話しをしてしまったが殺人犯や反逆者などと知れては大変だからな。またこれからも同じくひっそりと暮らしていくだけだよ」
ライルはやっぱり驚いていた。ジェスは納得したような顔でポブじいさんを見つめていた。
ライルがジェスの顔を見て言った。
「俺のじいさんはその時生きていたんだ! 漁船に乗って嵐に合って死んだのじゃなかったんだ」
「よかったな、今も生きているといいよな」
「生きているさ、きっと。親父に教えなければならない」
「ライル! ちょっと待ってくれ、出来ればわしの話を人にはしないでくれるか」
「ああっ、そうですね。それはしかたがないです」
「そうじゃよ、それにライルの父親はそのおじいさんが嵐で亡くなったと信じているんじゃろ、それをライルが今更否定しても信じないじゃろうし、父親の為にもそのままにしておいた方がいい場合もあるのじゃないのか?」
「うん、そうかもしれない」
「しかしライル、そのゴークってのがこの島を占領してしまったら俺たちはどうなるんだ?」
「そうだな、どうなってしまうんだろう。皆殺されてしまうのかな」
「恐ろしいこと言うよなライルは」
「うむ、ライルの言う通り奴らは卑劣じゃ、いずれそうなってもおかしくはないじゃろ」
「よーし、ジェス。俺に力を貸してくれるか、俺たちでゴークをたおそうじゃないか!」
「よくもこんな時にそんな冗談を言えるよな!」
「だって、どうする事もできないのだもん」
ライルとジェスはひと段落して家路に戻った。
時刻は夕暮れ時で街は夕日で赤く染まっていて今日の島内はとても平和だった。
冬が過ぎ去ろうとしていて少しだけ春の兆しが見えてきて、その季節に近づいて来た。
そして一時帰宅の期間を過ぎ後半の訓練場試練がまた始まった。
皆一度家に帰ったせいで後半の訓練に来ないものが何人かあり、つらくて逃げ出していた。こうなるとその人達は脱落者と見なされもうここへは戻って来れない。
ここに残った者は数える程度で今まで仲良しだった3人のパーカー、マークはもういなく仲間は僕一人だけだ、理由は違うが2人はもうここにはいない。
「なあライル、マークはどうしたんだ? 来ていないだろ」
ライルがロージーに答える。
「マークは突然だった」
ロージーは訓練場へ入った時にはマークに意地悪ばかりしていたが最近はマークに心を開いていたのもあって、ロージーはとても残念そうにしていた。一緒に船乗りを目指すと思っていたが故だ。
「そうだったんだ、マークも色々と大変なんだな、奴は体力もあってなかなかいい乗員になろうとしたろうに……」
「本当に残念だったよ、俺は船にはあまり興味ないんだけど、訓練場に入って中途半端に訓練をしている中で、周りの人が本気で訓練に挑んでると、なぜ俺だけ取り残されてしまったんだろうと複雑な気持になるよ、矛盾しているよな」
「世の中矛盾だらけさ、俺だって勢いだけで生きているだけでそれが無くなるとどうすればいいのか分からなくなるだろう、正確が傲慢だからか周りは寄りつかなくなるし友達もいないさ」
「ロージーは仲間がいるじゃないか」
「ああ、おれにいつもついてきてる奴らは家来みたいなもんさ」
「家来?」
「あいつらも俺と一緒で孤独なやつらなんだ。皆親無し、海で亡くした者もいたり親に捨てられたやつもいる。それを俺がな。正確には俺の親が面倒見ている。皆は俺がいないと生きていけないし生きるのに必死だ」
「知らなかった、今まではただ君たちの事を怖がって嫌な感じでしか見ていなかったよ」
「そうだろうな、なれているから。俺たちは皆それでやってきた」
ライルは初めてロージーとまじまじと顔を見ながら真剣な話をした。そういう自分を見て我で少し成長したかのような気持ちに浸っていた。
「ロージーは何になりたいのか決まっているの?」
「ははっ、おれは巡視艇と言わずに護衛館に決まっているよ」
「護衛館……すごいなー、恐くないの」
「ああ、この間の海戦の事か?」
「そうそう、あれは……」
ライルがゴークの事を言いかけたがポブじいに忠告された事を思い出しやめた。
「大丈夫だよ、この島の護衛館は優秀だろ? 艦長も言ってたろ」
「うっ、うんそうだよな」
ライルは思う。ロージーは何にも知らないんだ。ゴークの事を知ったらどう思うだろう。そうなるとロージーは逃げ出すのだろうか、ロージーの家来とやらも逃げ出すのだろうか。実際の事を話せないもどかしさがライルの気持ちを葛藤させる。
いや、本当は僕自身が騙されていて実際にはゴークと言う国は存在しなく、ポブじいさんにおもしろおかしく嘘をつかれているとか。そういえば現実にはゴークが島を襲って来たのをこの目では見ていないし、この間の海戦も敵の正体が未だはっきりしていない。
ライルは恐怖心からか、精神が揺らいで色々と考え込んでは、ハッキリ見えない闇を模索していた。
訓練は残った人間で行程をこなしていた。ジェスは相変わらず物静かでゴークの事は口にせず、ひたすら訓練にはげんでいた。
「後半は巡視艇や護衛館の基礎知識を学ぶ。それは護衛機材の取り扱いや攻撃用の大砲の扱い。この島における海上の領土を知り、海賊が我が領土への進入を防ぐためのものでわが領土に入ってくると攻撃の対象になる事などを勉強する」
訓練が続くにつれ内容は濃くなってきた。その内容は敵との接近船となった場合の為に、ナイフまた鉄砲の扱いを次に勉強していく。ライルはそんな訓練内容になって来るとだんだん何で自分がここにいるのだろうと思い嫌になってきた。
地下の訓練室で銃声が鳴っている。
「いたっ!」
手持ちの銃はあまり精度がよくなく、飛距離が出ないわりには腕への衝撃がとてつもなく大きいものだった。
授業はライルの精神に追い打ちをかけるように、さらに人間を一度で致命的な打撃方法を習っていく。
ライルはこんな技や方法は一生に一度も使う事無いだろうと思いながら聞いていた。そんなときライルはやっぱり船乗りはやめとこうと思ったりしたり、やっぱり親父の工場でも継ごうかなと考えたりしていた。
ライルは丘の上で飛行機械の事を考えている時が一番幸せだった。
「飛行機? そういえば見上げている空の飛行機、ゴークが飛ばしていると言っていたなー、それが本当ならすごい文明だなゴーク。タナーも知っているのかな? ゴークの飛行機をタナーに聞けないまま、いなくなってしまったなあ、元気しているのかなタナー」
ライルの気持ちはもやもやしながら訓練は順調に進んでいった。
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