間話1
絵本の続き・抜粋
これ以上人間を駆逐されたくないジャスリー王子と、これ以上魔物や魔獣の棲む自然を荒らされたくないシュルヴィアフェス。
二人は長い間、視線を交わし、言葉を交わし、意思を交わし――そうしていつしか、愛を交わし。
二人の間にはリンドという名の男の子も生まれ、ついに二人は決意しました。
ジャスリー王子は各国を巡り、人々が魔精力の搾取を止めるようにと。
シュルヴィアフェスは各聖域を巡り、魔獣が人間の粛正を止めるようにと。
それぞれの力で以て、説き伏せていったのです。
◇ ◇ ◇
人間を代表して魔王の使者である王獣『マデラギガンダ』と対峙した、聖女シュルヴィアフェスとジャスリー王子。
両者の間で、一つの取り決めがなされました。
魔王の臣下である魔獣は引かせる。
その代わり、聖女シュルヴィアフェスがその契約の証として魔王に仕えること。
魔界に足を運び、魔王を鎮めてみせよ、と。
わたしからシュルヴィアフェスを奪ってくれるな、とジャスリー王子は涙ながらに訴えましたが、魔王の使者は聞き入れませんでした。
そんなジャスリー王子を押し留め、聖女シュルヴィアフェスは一歩前に踏み出ると、静かに頷きました。
魔王の申し出に応じる決意を固めたのです。
「聖女シュルヴィアフェスが生きている間、我々は人間の世界には関与しないことを約束しよう」
魔王がロワーネの谷の奥、そして魔界へと引き換えし――人間たちの棲む世界から、魔獣たちが一斉にいなくなりました。
魔物たちは川に、森に、海にと残っていましたが、人間に必要以上に存在を脅かされない限りは手を出させない、と魔王は誓いました。
しかし……聖女がその寿命でもって魔王を抑えてくれるだけ。
では、その後はどうなってしまうのか。
「見張ることだな、お前が。人間たちを」
魔王の使者は、ジャスリーに向かって言いました。
「人間が再び大地を穢すようなことがあれば、魔王は再び人間の粛清に乗り出すであろう」
ジャスリーはワイズ王国に帰り、このことを国王に報告しました。
すると国王は、ジャスリーではなくジャスリーの息子リンドに『リンドブロム』の称号と『大公』の爵位を与えました。
「人間が過ちを繰り返さぬように……聖女の血を引くお前の息子、リンドが立つしかあるまい」
ジャスリーはあくまで魔王と敵対した人間。聖女との子であるリンドが『魔王との約定の象徴』として頂点に立つのがふさわしい、と。
ジャスリー王子とその息子リンド・リンドブロム大公爵は、魔王が蘇ることのないよう世界を見張る『番人』としての役目を担うことになったのです。
これまでの戦いに従ってくれていた臣下、民を引き連れ、ジャスリー王子は聖域であるロワーネの谷のすぐ目の前に広がる平地にやってきました。
そしてここに白く美しい城が築かれ、息子リンドブロムを主とした『リンドブロム大公国』が誕生したのです。
その役目は、聖女の血により授けられた『神のお告げを聞く力』で世界を守ること。
魔王との約定により、人間が大地を荒らすことのないよう見張り、代わりに粛正すること。
こうしてリンドブロム大公国は『リンドブロム聖女騎士団』を各国に派遣し、世界が滅亡の道を辿ることのないよう、その均衡を保つ役割を果たし続けているのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます