第14話 塚山廉也5

 俺もこの男に倣い、すかさず名刺を取り出す。

 名刺にはやはり、社名が書かれれている。名が知れた運輸会社だった。ではジャーナリストというのが嘘なのだろうか。

 佐川一紀さがわいっき。それがこの男の名前だった。佐川は俺の名刺をじっくりと眺め、何度も顔と見比べる


「どうした。なにかおかしいか」


「いえ、貿易関係の仕事だったですね。てっきり警備会社かと」


「それは目つきの話だろ」


「すみません」


 佐川は笑いながら謝る。

 しかし、この男の社交性には舌を巻く。ほんの数分前に会っただけなのにも関わらず、気が付けば親しくなっているのだ。

 リーダー気質があると言ったところか。この男にテロの事を言えば、協力してくれるかもしれないとまで思った。


「どうやら、収まりましたね」


 佐川はゲートのほうを見てそう言う。気が付くと、篠原の暴走は止まっていた。


「そろそろ行きましょうか」


「そうだな、時間か。……ちょっと俺、トイレに行ってくる。佐川君は先に行ってて構わないよ」


「分かりました。どこの席ですか、もしかしたら近くかもしれません」


「君はエコノミークラスか」


「もしかして、違うんですか」


「ちょっとね」


「流石ですね。僕とは格が違う」


「そんなことないよ。君も努力すればいずれ乗れるようになるさ」


「頑張ります」


 佐川は笑顔を見せて、去っていった。

 まるでこちらの隠したいことを把握しているように核心をついてくる。流石にチケットを見せるわけにはいかない。台湾行きと言うこと自体が真っ赤な嘘なのだ。座る座席もなにもそもそも乗る飛行機が違う。

 そもそも、俺が搭乗する飛行機が無事に飛び立つかどうかすら分からない。同じ、中国方面の飛行機なのだ。ハイジャックの影響でフライトが中止になるのが普通だ。

 俺はその後もトイレに籠ったまま、六時を迎えた。


 そして四回目の九日を迎える。慣れたもので、もう驚かなかった。

 今回は空港内にあるコンビニの一従業員だ。俺はシフトの合間を利用し、塚山との接触を試みた。

 ここで佐川よりも先に接触しなければならない。

 俺は時間を見計らって。台湾行きゲート前に向かった。するとやはり、そこに塚山は居て、お馴染みのベンチに腰かけている。


「ハワイ」


 俺が唐突に問いかけても、こちらを睨みつけるだけで何の返答もない。やはり、俺の意思は反映していないのだ。

 塚山や篠原はただの人形なのかもしれない。

 しかし、尚志には少なからず、俺に似た意思はあった。つまり俺が抜ければ、元々の人格に戻るが俺が操作した時間だけ、無意識に同じ言動を繰り返すということなる。さらに、篠原は今回も暴れた。

 俺が一度憑依し、操った人は何度周回しても、同じ動きをするということになる。そのためいま俺が操っているコンビニ店員も次周では意味もなく、塚山に向かって「ハワイ」と問いかけるだろう。

 依然としてハイジャックは起き続ける。俺はコンビニのレジに立ちながら、真剣に考え始めた。

 このテロの本当の目的とそれを防ぐ方法。この「繰り返し」を駆使し、由和を助けなれば永遠と九月九日から抜け出せない気がした。


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