第11話 塚山廉也2

 スマホないしは情報端末を駆使し、確認したところこの塚山廉也つかやまれんやという男も篠原と同じく、貿易関係の仕事だ。しかし予想通り、常務レベルの重役でさらに若い。俗に言うエリートだ。

 しかしこの男で出来ることは少ない。とにかく空港に行き、今村尚志の動きと篠原伸の動きを観察したかった。

 俺が憑依した人間が次の周回でどのように動くのだろうか。一周目の時と二周目の時、どちらに反映されいるのか興味深い。

 さらにこの「繰り返し」に対する疑問点はある。まず憑依するのは男だけなのだろうか。そして憑依する人間の共通点は本当に空港なのだろうかということだ。

 女にも憑依することは十分考えられる。そしてこの塚山のことで分かったように、少なからず、375便の搭乗者とは関係がないということだ。

 他の共通点があると考えると、空港であること。もしかしたらさらに広い共通点か、何の関係もないかもしれない。しかしこの問題の解を導くにはもう数回「繰り返し」をしなければならない。

 そして最も重要な点としてはこの「繰り返し」が起こった原因と、どうやったら元に戻れるかと言うことだ。

 仮にテロを未然に防ぎ、由和を救ったとしても、今村尚志として戻らなければ意味がない。

 もしかしたら「繰り返し」にも回数制限があるのかもしれない。それなら焦る必要がある。

 さらに「死」というものがある。俺がこの「繰り返し」の中で死んだ場合はどうになるのだろうか。本当に元に戻ることが出来るのだろか。しかしこればかりは試しに死んでみるというわけにもいかない。

 本当に死んでしまっては困るし、元に戻るにしてもやはり死を体験するのは怖い。できることなら一度も死なずに「繰り返し」から脱したいと思った。


「そろそろ行く?」


 昼頃になると華菜がそう言った。俺は黒い背広に身を包み、キャリーケースを手に持った。


「そうだな、そろそろ行くか」


 篠原と違い塚山は都内に住んでいる。電車を使ってもそれほど時間はかからない。


「忘れ物はない?」


「うん、行ってくる」


 俺は華菜と不本意ながらキスをした。由和の顔が浮かんだが、こればかりは仕方がない。やましい感情は微塵もなかったが、ここで拒むのも不自然なのでやらざるを得なかった。

 幸いなことに「繰り返し」が起こる時間帯が昼間なので、女と寝ることはない。仮に俺が女になったときのことを考えると寒気が走る。


 成田空港に到着すると、二時を回っていた。つまり。成田空港に由和たちはもういる。

 俺は375便のゲートに付近に向かった。そこで昨日の事件は起こる。もしも昨日と同じ世界なら、篠原はここで暴れるはずだ。そこを警備員に取り押さえられ、ベンチに座り込む。俺は昨日も会話を鮮明ではないが概ね覚えていた。

 会話までも同じなら、「繰り返し」が次の周に反映することになる。俺はゲート前のベンチに座り込んだ。

 ここに座り、ゲートを観察することでハイジャック犯を見つけることも出来るかもしれない。俺はじっと行き交い人物を確認していた。

 二時間程経過し、最初にゲートを潜ったのは芦谷聡とそのSPたちだった。犯人がどのクラスに搭乗しているのか分からないが、怪しい人間は見つからずにいた。

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