第三話 きっとバグだ、違いない。
「結局、なんだったんだろ。レベル28もバグなのかな……?」
クロオンにログインして、私は昨日のことを思い出す。
今日で連続三日のプレイになった。ミキは何やら、母親からゲームを取り上げられたとか、なんとか。そのため私は、今日も今日とてソロプレイになっていた。
ちょっぴり膨れっ面です。
「でも、変な話だよね。スキルや属性って、一人一つのはずなのに。どうして私には、水属性も風属性もあるんだろ?」
しかし、いつまでも気にしてはいられない。
私はとりあえずステータス画面を確認しつつ、そう独り言を口にした。
そして思い出すのは、今日の学校でミキに教えてもらったこと。最初のガチャで貰える属性、というものについてだった。
「スキルは、その人固有の技みたいなもの。属性はその人の魔法の基本を定めるもの、ってミキは言ってたけど……?」
要するに、最初のガチャで貰えるのはスキルか属性で。
それらを上手く活用して、戦闘などを行っていくのがクロオンのシステムだった。大きく括って、すべてをスキルって言葉で表現もするみたいだけど。
「う~、聞き流してたけど。妖精さん、なんて言ってたっけ……!」
私は数日前の会話を思い出せず、頭を抱えていた。
もしかしたら、私のスキルは特別なのかもしれない。だとすれば説明はつくのだけど、これSSRのスキルじゃないし、そんな強いもののはずがなかった。
となると、残された可能性は……。
「もしかして、バグってやつなの?」
そう考えて、胸の中になにかがストンと落ちた。
なるほど。その前提で考えてみれば、なんとも簡単な話だった。
「えっと、つまり私のスキルとレベルはバグっていて。きっと見せかけ、ってことだよね? それだったら、謙虚に堅実に冒険しないと……!」
これがバグなのなら、きっといつか修正される。
悪意があってこうなったわけではないので、説明をすれば許してもらえるはずだった。――あ、でも一応、運営さんにメッセージは飛ばしておこう。
「お問い合わせフォームから、バグ報告――っと」
私は送信作業を終えて、ホッと息をついた。
これで問題は解決。とりあえず、返信があるまで町の探索でもしようかな。と思って、私がふらふらとスターリーの中を歩いていた時だった。
「もしもし、そこの可愛らしいお嬢さん」
「…………え、私ですか?」
突然に声をかけられた。
可愛らしい、なんて言葉が前についていたので反応が遅れてしまう。
それでも声のした方へと振り返ると、そこにはニッコリと笑った男性と女性。男性の方は剣士なのだろうか、背中には身の丈ほどありそうな大きな剣を背負っていた。
女性は、なんだろう。
お腹を出した軽装で、腰には小さな剣――ナイフと言った方が近い――を携えていた。そして、腰元からはひらひらと燕尾服みたいに、布がそよいでいる。
共に美形で、思わず息を呑んでしまった。
そんなわけで私が黙っていると、男性の方が優しくこう訊いてくる。
「最近、この町で変なことは起こらなかった?」
「変なこと、ですか?」
思わず首を傾げてしまった。
変なことはあったけど、あのバグは私個人の問題だし。きっとこの人が言っていることとは、無関係に違いなかった。
そうなると、数日前にゲームを始めた私には分からない。
「すみません、分からないです。初心者なので」
「そうなの? それなら、仕方ないわね」
だから素直に答えると、女性の方がそう言った。
そして、少し難しい顔をしてから笑う。
「ありがとう。クロオン、楽しんでね?」
「は、はい……!」
激励の言葉を残し、二人は去っていった。
なんだったのだろう? とりあえず、私には関係ないかな。
「よし……! それじゃ、今日もレベル上げを頑張ろう!」
そう判断した私は、両拳を胸の前で握りしめて。
意気込みを口に出すのであった。
◆
「ねぇ、ダリス。どう思う?」
「少なくとも、この町にいるのは違いないんだけどな。探すとなると、結構な時間を喰うかもしれない」
「そうよね。でも、本当に凄かったわ……」
マキナと別れた後、二人はそんな話をしていた。
「レインはどう思うんだ?」
「アタシ? アタシは、そうね……」
ダリスに問われて、レインは考え込む。
そして、顎に手を当てたまま頷いてこう答えた。
「あんな強力な火属性の攻撃、並大抵のプレイヤーじゃないわ」――と。
その言葉に、ダリスも頷く。
二人は【ビッグベア】を追って、このスターリーまでやってきた。
当初はシステム的な問題でモンスターがロストしたのだ、と。そう結論付けていた。だが戦闘の痕跡を見つけて、考えが変わったのだ。
「同意見。【ビッグベア】がロストした地点には、力の残滓があった。数値化しようにも、メーターを振り切るほどの、な」
「でも本当に、そのスキルを使った奴はスターリーにいるの?」
「そこは賭けでしかないけど。でも、もし仲間に引き入れることができれば――」
ダリスはそこで言葉を切って、ニヤリと笑った。
そして、こう口にする。
「次のイベント――俺たちの勝利は決まったようなものだ!」
だがもちろん、このことを当の本人は知るわけがなく。
◆
「くちゅんっ! ……うぅ」
小さく、くしゃみをするのだった。
このバグは仕様ですか? ~ゲーム初心者の私が初回ガチャの特典【∞のスキル】で最強になっていた件について~ あざね @sennami0406
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。このバグは仕様ですか? ~ゲーム初心者の私が初回ガチャの特典【∞のスキル】で最強になっていた件について~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます