第二話 お嬢さん、お待ちなさ――。
「あわ、わわわわわわ!?」
――現在の私、絶賛混乱中。
「な、なんなの!? さっきの猫ちゃんは可愛かったのに、こっちの熊は物凄いリアルなんですけど!? いかにも人を食い殺しそうな見た目してるんですけど!!」
なぜなら、目の前に現れた熊こと【ビッグベア】が、それはそれは恐ろしい見た目をしていたから。全長二メートルは、軽々と超えていた。
自分の身の丈を遥かに上回るモンスターの出現に、考えがまとまらない。
とりあえず、どうしようか考えた結果――。
「逃げよう!!」
森のくまさんよろしく、私は全速力で逃亡した。
でも、そこは都合よくいかないもので――。
「う、うわあああああああああああっ!?」
――グルルルルルルルルルッ!
速いよ、速すぎるよ!!
信じられない速度で、あの熊さん追いかけてくるんですけど!?
隙を突いて距離を稼いだのだけれど、あっという間に後方に張り付かれてしまった。そして焦った私は、思い切り――。
「ふにゃっ!?」
石に蹴躓いて、前のめりに転倒。
したたか顔面を地面に打ち付けて、もんどり打つことになった。
「あい、ったたたた――はっ!?」
鈍痛に悶える。
だけど、すぐにそれどころではないことに気付いた。
おそるおそる後ろを振り返ると、そこには――。
「…………は、ははは」
――グルルルルッ!
大きな熊さんが、涎を垂らして構えていました。
「あ、もしかしてゲームオーバー……?」
ふと、そんな言葉が出てくる。
だけどまだ、ミキと合流もできていないのに。
そう考えたらどこか、悔しくて仕方がなかった。だから――。
「うぅ、こうなったら悪あがきだ! えっと――」
私は大急ぎで、先ほど手に入れたスキルを確認する。
そして一番上に表示された火属性を選択した。すると全身が熱くなるような、そんな感覚がある。頭の中には自然と言葉が浮かび、勝手に手を前に突き出していた。
私はこう口にする。
「焼き尽くせ――【ヘルフレイム】!」
その直後、手の先から信じられない大きさの炎が噴き出した。
それは一瞬にして巨大な熊を呑み込んで――。
「へ、あれ……?」
それが収まった時、そこに熊の姿はなかった。
その代わりにまた軽快な音が鳴って。
【レベルアップ♪】
そんな声が聞こえた。
ステータス画面が表示されて、各パラメーターが急上昇していく。
そして新しいスキルが山のように。どれも、目では追い切れなかった。なんなの、これ? いったい何が起こっているの……?
「えと、レベル28……? どれくらいの強さなんだろう」
ひとまず立ち上がって、画面とにらめっこ。
さっきまでレベル2だったのに、いきなり28だなんて信じられなかった。それに具体的な強さが分からない。なので、改めて――。
「うん。一回、町に戻ってみよう」
そう思って、回れ右。
私は駆け足でスターリーへと戻るのだった。
◆
「えっと、どこかに詳しい人いないのかな……?」
町に着いた私は、ぐるりと周囲を見回してみる。
基本的にえぬぴーしーさんしかいないけど、中には多くの情報を持っている人もいるはずだった。例えば最近始めたばかりのゲーマーさん、とか。
「あ、あの人! えぬぴーしーさんじゃない!」
と、そこで私は一人の女性を見つけた。
表示されたアイコンが違うから、あれはプレイヤーの人だ!
「あの、すみません!」
「はい? どうしました?」
声をかけると、その人は首を傾げて答えた。
私は直球で質問を投げかける。
「あの、レベル28って、どのくらいの強さですか!?」――と。
すると、その女性は目を丸くした。
「そんなレベルなのに、どうしてここにいるのです?」
「え、どういうことですか?」
私は首を傾げてしまう。
互いに何も言えず、しばし沈黙が続くのだった。
◆
――一方その頃。
「くそ、あの【ビッグベア】! どこ行きやがった!?」
「早く処理しないと不味いよ!? 被害者が出ちゃうから!!」
「分かってる! ――ちくしょう! 追いかけているうちに、こんな場所まできちまうなんて!」
一組の男女が、スターリー周辺を全速力でかけていた。
その理由は一つ。ここに逃げ込んだ強力なモンスター【ビッグベア】を処理するため。彼らはこの先にある街で、狩りを行っていたプレイヤーだった。
【ビッグベア】は本来、中盤以降に登場するモンスター。
それが手違いで、こんな場所にやってきてしまった。
「あれ、ロストしてる……?」
「どういうことだ!? 誰かが倒したのか!?」
「たぶん、そういうことだと思う。あるいは、システム的な問題で処理されたのかもしれない。本来の生息域から、かなり離れているし」
「……とりあえず、これで一件落着なのか?」
だが、突然にその反応が消える。
二人は首を傾げた。
知る由もないだろう。
まさか、それを倒したのが駆け出しのゲーム初心者だったなんて。
そしてまた、マキナもこのことを知る由もなかった。
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