第17話 皇国行きの空の旅
祭りが終わって数日経った日のこと、事前に予定していた皇国訪問に向けての準備を終えると、騎士団を後にすることとなった。
「折角騎士団の人たちと溶け込めてきたのに、これでまたお別れってなると寂しいわね」
飛行場に向かう馬車に乗り込む前にシャーロットがそんな事を言ったため、俺は肩を竦めた。
「別に今日が今生の別れってわけでも無いだろ……そうですよね? 団長」
そう言いながら見送りに来てくれた団長の方を見ると、頷き返してくる。
「ああ、来たければまたいつでも来ればいいさ」
そう笑顔で応えられたので、改めて見送りに来てくれた人達――団長、ジェイ、べノン姐さん、レーナ先輩の方へ向き直る。
「いつも急に来て迷惑かけてゴメン、今度は落ち着いた時にまた来るよ」
少し照れ臭くなりながらそう言うと、ジェイが俺の髪を乱暴にかき回してきた。
「んな水臭いこと言うなよ、ココはお前らの家で……俺達は家族だ、いつでも戻って来い」
「ジェイ……」
普段下らないことばかり言うジェイの真面目な言葉に心から感謝していると、べノン姐さんがからかって来る。
「まっ、また怪我して戻ってきやがったら、ちょっとやそっとの説教じゃ済まさねえから、覚悟しときなよ」
ニシシと笑いながら赤ん坊を抱えた姐さんにそう言われ、「そうならない様に頑張ります」と苦笑しながら応えた。
すると、レーナ先輩が近寄ってきて、問いかけて来る。
「今度皆と会うのは夏休み明けかな?」
「そうですね、レーナ先輩は休み中殆どココで過ごされるんですか?」
「うん、そうなるだろうね。君たちは残り半月ほどの夏休み、目いっぱい楽しむといい」
笑顔でそう言われたので、俺も満面の笑顔で頷いた。
「はぁ……、ここを出るっていう事は、もうベールちゃんと会えなくなるのね」
「リーフィアは本当にずっと、べノンさんの娘さんにご執心だったわね……」
べノン姐さんの抱えたベールちゃんに、未練がましく手を伸ばすリーフィアと、そんな様子にため息を吐くシャーロットを視界の端に入れながら、持ち物の最終チェックをしていく。
「セン、そろそろ出発した方が良いかも」
そうユフィに言われて時計を見ると、既に出発予定の時間が迫っていた。
「じゃあ、行って来るよ」
あくまで軽い調子で言いながら馬車に乗り込むと、団長から応えが返って来た。
「ああ、気をつけて行ってこい」
その言葉に感謝しながら、俺達は騎士団を後にした。
◇
騎士団最寄の飛行場まで馬車で揺られる事数十分、特にトラブルなどに見舞われる事も無く到着すると、全員で皇国行きの飛行船へと乗り込んだ。
以前怪我から快復して学園へと戻るために乗った時は一般客室だったし、怪我を負って運ばれた際は緊急搬送用の小型船だったが、今回は面子が面子である為、問答無用でVIP用のスイートルームを予約している――皇室側が。
――普通の客室でも高いのに、騎士団がそんな大金出してくれる訳ないわな
VIP用の部屋が有る場所は階層から既に一般客室とは分けられており、廊下にある照明からして別の物が取り付けられていた。
「うわぁ、スイートルームなんて今からドキドキする!」
そうナナが言うと、リーフィアが肩を竦めた。
「まぁ私も最初乗った時は感動したけれど、ある程度乗ってると割と飽きて来るわよ? ナナちゃん」
そんなリーフィアの言動に、シャーロットが苦笑する。
「いやいや、そんなに頻繁に乗るのはこの面子でもリーフィア位だと思うわ」
「そうなのか? シャーロットとか、侯爵家の令嬢だからもっと乗ってるかと思った」
俺が言うと、「そんな訳ないでしょ、お父様と乗った事が2回あるだけよ」と返された。
――本当に、スイートルームには超VIPしか乗れないんだな……
「えっと……そんな話を聞いてたら、なんだか扉開けるのが怖くなって来たかも」
たまたま先頭を歩いていたミヨコ姉が扉の前で躊躇してるのが見えて、思わず笑ってしまう。
「じゃあミヨコお姉ちゃん、一緒に開けよ!」
「うん、お願いナナちゃん。……じゃあ、せーのっ」
掛け声と共に開かれた部屋を見て真っ先に感じたのは、全体的にゆとりがあるなと言うものだった。
最近特に飛行船に乗る事が増えているため良くわかるが、一般客室の数倍も部屋の広さがあるため、物が置かれていても窮屈な感じはまるでしない。
更に各所に配置された照明やソファ、ベッドなども煌びやかと言うよりは落ち着いた、品のある物が置かれているのも、格式が高く余裕がある様に感じられた。
「うわぁ……」
リーフィアとシャーロットを除いた皆――ジークも含めて言葉を失っていると、リーフィアが久しぶりに悪戯っぽい顔で俺達を手招きした。
「これを見ると、もっと驚くと思うわ」
そう言って壁に有るボタンが押されると、カーテンが開いて行き――空の上からの景色が一望出来た。
「こいつは……凄いな」
飛行船の構造上、展望室では側面からしか外を見下ろせなかったが、この部屋は先頭部分に存在しているため、進行方向の景色が見えてその事に感動する。
暫く皆でその景色を堪能した後、それぞれの寝るベッドの割り振りを決定すると、室内に残る組と飛行船を探索する組に分かれる事になった。
なお探索組は俺、ナナ、アリア、ジークの4人である。
ぶらぶらとあても無く遊戯室や観覧室を覗いていた所で、随分と懐かしい人物――タキシード姿にシルクハットを被った老人と出くわした。
「おー、センさんじゃないですか! 私は今年のお祭りにも参加したんですが、残念ながらセンさんと会えず1ファンとしては悔しい思いをしましたが、まさかこんな所で会えるとは!」
そう言って右手を差し出されたので、握り返しながら必死に相手の名前を記憶から掘り起こす。
「あー……モーリスさん、ですよね?」
学院入学前に飛行船内で出会った大商人にそう問いかけると、握手した手をブンブン振られる。
「まさか覚えてくださっているとは! いやぁ、今日はなんていい日でしょうか」
元々人のよさそうな顔をしていたモーリスさんだが、今は正に満面の笑みと言った様子だ。
「っと、私とした事が申し訳ない。私はモーリス商会代表の、アーデルト・モーリスと申します」
そう言ってモーリスさんがナナ達に一礼すると、慌てて頭を下げた。
「モーリス商会って……あの、大商会の代表さんですか!?」
アリアが目を見開いてそう尋ねると、ハハハと照れ臭そうに笑っている。
「大商会だなんて、そんな大層な物じゃないですよ。かくいうお嬢さんは、シャイン伯爵家のご令嬢とお見受けしますが、いかかですかな?」
モーリスさんがそう尋ねると、アリアが更に目を大きく開けた。
「アリアの事、良く知ってらっしゃいましたね」
「ははは、まぁ情報は商人にとって生命線の様な物ですからな。所でセンさん達は皇国へ何しに行かれるのですかな?」
「あー……それは」
まさかリーフィア――皇女がこの船に同乗して居るなんて大っぴらに言う訳にもいかず
「成程、何となく事情は把握しました……ですが、ソレで有れば少しお話したい事がありますので、よろしければついて来て下さいませんか?」
そうモーリスさんに言われて、ジーク達と顔を見合わせた後……結局俺達は彼の後ろをついて行くことに決めた。
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